第587話 フォルスダンジョン・18

 七三階と七四階の攻略は、とりあえず無事終了した。

 七三階は初手で相手が突っ込んできたため、迎え撃つ形で戦うことになった。

 幸いレベルは六〇と低かったため、正面から戦って普通に倒せた。

 吸収の付与した武器を使わずに、前後左右から挟み撃ちにした感じだった。

 七四階の戦闘では、戦闘開始と同時に召喚して取り巻きを呼び出してきた。

 数は七体と多く、鑑定したところレベルは八一だった。

 それが本体含めて八体だったためかなり苦戦した。

 俺が挑発で数を集め、ミアの補助をもらいながら耐えている間にセラを中心にルリカとヒカリが数を減らしていった。

 クリスも補助主体で魔法で拘束してくれていたから、どうにか耐えることが出来た。

 カイナは防御よりの遊撃で、俺が持ち切れないヘルハウンドを引き付けてくれたり、後衛に向かおうとした時に足止めしてくれた。

 ただ一番大変だったのが、取り巻きを二体まで減らした時に、追加で召喚された時だ。

 追加された数は九体。本体含めて十三体と同時に戦うことになった。

 幸いだったのは召喚時の相手方にかかるペナルティーの弱体化だ。

 最後本体のみになった時に鑑定した時に七二まで下がっていた。

 今回はそのお陰で助かった。

 一〇近くレベルが下がったことでこちらが有利に戦えたのと、数が減ってからはルリカとクリスのコンビが本体を押さえつけてくれたから、さらに召喚されることなく倒すことが出来た。

 セラが大暴れして次々とヘルハウンドを倒してくれたのも忘れてはいけない。


「色々なパターンがあるわね」

「うん、厄介」


 ルリカの言葉に、ヒカリが神妙に頷いている。

 確かに一階一階ボスの挙動が微妙に違う。

 まるで試されているような感じだ。

 ここのダンジョンを造った神様が脳筋で訓練好きだという話だったけど、それが関係しているのか?

 仮に学習するダンジョンなんてことになったら対策をするたびに相手もその対策をしてくることになるのか?

 ……考え過ぎか。それだったらもっと下の階でも対策されていてもおかしくないし。

 ただ七四階の戦闘では吸収の付与した武器を使う機会が出来たため使用したが、しっかり魔力を吸収することが出来た。

 吸収量はダメージに関係なく攻撃が当たれば一定数吸収しているみたいだった。

 連続で攻撃が入れば持っているだけで魔力が減っていくというマイナス面も気にならないと思うけど、そのせいで焦って攻撃重視になってしまうのも危険だからな。

 やはりここは使い分けていく方が無難かもしれない。

 理想は持っていても魔力を吸収されないように改良することだけど……何で刀身に吸収を付与しているのに持ち手の魔力を吸収してしまうかが謎だ。

 結局その辺りの改善は出来ないまま、七五階に挑戦した。

 入った瞬間ヘルハウンドは突撃してきた。

 その速度は……最速ではない。八〇よりも下か?

 俺たちは無理に前に出ないで迎え撃つことを選択した。

 しかしここでいつもと違う行動をヘルハウンドがとった。


「召喚!」


 ルリカが驚いたように、ヘルハウンドは駆けてきながら取り巻きを召喚した。

 それは俺たちとの間合いがかなり詰まってからの出来事で、取り巻きたちはそのまま俺たちのもとに雪崩れ込んできた。

 距離が詰まっているせいで俺が挑発を使う前に召喚されたヘルハウンドは近くにいた者たちに襲い掛かる。

 俺はその一体の攻撃を受けながら、本体に挑発を使う。

 せめて本体だけは俺の方でしっかり受け持たないと。

 チラリと横を見ると、召喚されたヘルハウンドは四体。俺の他にセラ、ルリカ、カイナがそれぞれ対峙している。

 あと二体多かったらクリスたち後衛陣の方に流れていたかもしれないと思うと、助かったという気になった。


「ソラ、援護します!」

「主、援護する」


 そしてヒカリとクリスの二人は、まずは俺が受け持った取り巻きを倒して、ボスを叩きに行こうという選択をしたようだ。

 実際ボスが残っていると次々と召喚してくるからな。

 二人は俺の援護をしつつも、ボスに召喚させないように牽制するのも忘れていないし。

 だから俺も二人の攻撃に合わせて攻撃を主体で攻め立てて取り巻きを倒すために全力を尽くす。

 ヒカリが斬撃を飛ばせばタイミングをずらして斬り付け、クリスが魔法を放つタイミングで自身にシールドを使って取り巻きに斬り付けるなどかなり攻めた。

 お陰で取り巻きは倒すことが出来たため、そのまま転移でボスの目の前まで飛ぶとそのまま斬り付けた。

 無理に転移を使ったのは、ヘルハウンドから感じる魔力が高まったからだ。

 召喚をしようとしたのか、それとも魔力の砲撃をしようとしたかは分からないが、どちらにしろ防がないといけないと思ったからだ。

 それにここまで形が出来れば、あとは俺がボスと対峙している間にルリカたちが取り巻きを倒してくれれば、八割方勝利は見えたも同然だ。

 ただそれが甘い考えであるということを、俺たちは知った。

 何故なら本来ならボスだけが使うはずの召喚を、取り巻きが使ってきたからだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る