第585話 フォルスダンジョン・17
相手が回復するならこちらも攻撃を考える必要がある。
初手は威力重視での攻撃だったため、クリスは火の精霊魔法を選択した。
確かに威力は高いが、その分爆発で生じる爆煙で視界も悪くなった。
ではそれが起きないようにするとどうなるかというと、範囲が狭まり威力が落ちてしまう。
ならクリスの魔力が続く限り連続で放てばどうかとなると、攻撃範囲が広いとはいえフロアだってそれなりに広いため、ヘルハウンドが大きく移動すると捉えるのは難しい。
それこそ初手はヘルハウンドの出現位置が壁よりで動ける範囲が限定されるという事情もあった。
「……ソラ、私は補助に回ります!」
そしてクリスが使ったのは広範囲の風の精霊魔法。
何故? と思ったがすぐにクリスの意図が分かった。
クリスの放った風の精霊魔法はダメージを与えるのではなく、ヘルハウンドを吹き飛ばし、フロアの隅に押しやるためのものだった。
ダメージも多少は入っているようだけど、どちらかというと拘束系か?
俺は考えながら前進する。
ヘルハウンドは距離を詰めてくる俺たちから逃れようとしたが思うように動けず逃げられない。
俺の挑発から抜け出ても、ルリカたちの攻撃をかいくぐっても、最終的にはクリスの作り出した風の壁に押し戻されている。
「今のうちに行くよ!」
ルリカの声に攻撃陣が一斉に襲い掛かる。
いや、ミアも補助だけでなくホーリーアローを放っている。
あれもダメージを与えるというよりも嫌がらせ攻撃だ。
執拗に顔を狙って、視界を潰そうとしている。
その間にヒカリは斬撃を使い、ルリカもタイミングを合わせて攻撃の止まった時に疾風スキルを使って高速攻撃を仕掛けている。
それに俺、カイナ、セラが三方向から同時に攻撃をした。
一番の脅威をセラに感じとったのかセラの攻撃は防いだが、その間に俺、カイナの斬撃と突きがヘルハウンドの体を傷つけていく。
さらにヒカリも接近してきて至近距離から斬撃を放ち、再びセラが攻撃したタイミングで今度はルリカが疾風スキルの勢いを利用して斬り付ければ、ついにヘルハウンドは倒れ、光の粒子となって消えた。
「はー、疲れたー」
ヘルハウンドが消えると、ルリカが地面に大の字になった。
分からなくもない。
最後攻勢に出た時に、全ての力を使い果たす勢いで押し切ったからな。
俺でさえもMPとSPが半分以下まで減っていた。
自然回復向上やウォーキングの恩恵がある俺でさえこれだから、普通の人なら底をついていても不思議じゃない。
余裕があればポーションで回復したが、それすら出来なかったからな。
今回は辛うじて倒すことは出来たが、相手の耐久力がもっとあれば倒しきることは出来なかったかもしれない。
「あれで87か……」
「ヘルハウンドのレベルですか?」
「ああ、鑑定したらそうだった」
俺の呟きにクリスが尋ねてきた。
1レベル変わるだけでどれだけの差が生まれるかは分からないが、少なくともレベルの高い二回目の方が倒すのに苦労したのは間違いない。
あのレベルで召喚した取り巻きがいたらどうなったか……あまり想像したくないな。逆に倒しやすくなった可能性もあるけど、どれだけレベルが下がるかは分からないからな。
ただこの戦闘でルリカ、ヒカリ、クリスの三人のレベルが上がっているから、同じレベルのヘルハウンドが出てきても次に戦った場合はまた変わるだろうな。
新しい戦い方も出来たわけだし。
「それでお宝は……ヘルハウンドの毛皮か」
皆疲れているようだったから、いち早く回復した俺が宝箱を開けると、中に入っていたのは素材だ。
創造で作れる装備となるとローブとブーツか。もちろん他にも必要素材があるから、これ一つで作ることは出来ないけど。
「とりあえず今日は帰るか?」
俺が尋ねると、戻ることに決まった。
ただ体を休めるためでなく、模擬戦などで体を動かすようだ。
これにはレベルが上がったため、体の状態を確かめる意味合いもあるようだ。
微妙な感覚の差異で命を落とすことだってありえるからな。
ギルドの鍛錬所を借りようと足を運んだら人が多かったため、城の方のを利用させてもらうことにした。
……獣王がいないといいな。
その願いは通じたようだった。
ただナオトたちもいたため、一緒になって体を動かした。
この時ミアも棒の武器を扱える騎士がいたから教わっていた。
騎士だと剣や槍を使うイメージがあるけど、獣王国の騎士団員は鎧こそ統一されているけど、武器に関しては本当に不揃いだ。
下手に統一するのではなく、得意なものを伸ばしていくというスタイルらしい。
騎士って見た目も大事だから、結構装備品は統一されがちだけど、やっぱり自分の力を一番引き出せる武器が一番だよね。
まあ、見た目が統一されていると圧倒されるし、一糸乱れる動きで行進する姿を見ると頼もしく見えるんだけどね。
実際エレージア王国の難問都市エピカでオーク討伐に向かう騎士たちを見て町の人たちは頼もしく感じていたようだし、俺も素直に凄いと思ってその雄姿を見えなくなるまで眺めていたからな。
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