第584話 フォルスダンジョン・16

 俺が目の前のヘルハウンドに集中していると、やがて奥の爆煙も消えた。

 そこには魔物の姿がなかったから、やはりこれが本体だろう。


「ここは俺が戦う。カイナはミアたちの護衛を頼む」


 俺は万が一に備えて二人のことをカイナに頼むと、盾をアイテムボックスに仕舞った。

 俺は守り重視から攻撃重視へと切り替えた。

 やはり俺が剣を振るうごとに魔力でその面を強化している。

 ただ一つのところを強化するとそれ以外のところが弱くなるみたいで、剣と魔法、剣と投擲ナイフで攻撃すると一方の攻撃が良く通る。

 これは二刀流で戦うセラとルリカは有利?

 もっともこれは武器自体の攻撃力があってこそのような感じがする。

 実際攻撃をすると剣による攻撃を優先して防いでいることが分かった。

 それでも相手の攻撃を防ぎ、こちらの攻撃を当てていくと徐々に追い込んでいっている感触があった。

 さらに召喚するには溜めのようなものが必要なようで、接近して攻撃し続けていると取り巻きを呼ぶことがなかった。

 特にセラたちが合流してからは、ヘルハウンドは防戦一方になって戦いが終了した。


「そこまで苦戦しなかった感じ?」

「確かに今の戦闘はそうだったが、一度だけじゃ判断出来ないな」


 俺は鑑定した結果を皆に話した。

 レベルは分かったが、今回出たヘルハウンドが強い部類に入るのかも謎だ。

 とりあえず次の階でも確認する必要がある。

 そんなことを考えていると、ヒカリが満足した様子で駆け寄ってきた。


「これ!」


 差し出されたのはヘルハウンドの肉だ。

 俺は何も言わずにそれをアイテムボックスに仕舞った。

 どんな調理方法がいいかは戻ってからじっくり調べよう。


「それでどうする? 先に進むか?」


 見た感じ疲弊している様子は見えないが、やはり新しい魔物と戦うとその分緊張する。

 特に今回は色々と初めての体験をしたから体力的よりも精神的に疲れたかもしれない。


「私は休めば大丈夫かな?」

「うん、問題ない」

「もう一戦して慣れてみたいさ」


 前衛陣が問題ないというなら行っても大丈夫かな?

 ミアとクリス、カイナを見たけど大丈夫そうだ。


「ならとりあえず魔力が回復するまで休憩して、それからいこうか」


 俺の方は既に回復しているけど、ルリカとセラはまだ魔力が完全回復していない。

 回復する間はヘルハウンドと戦った感想を言い合い、互いに気付いたことを話す。


「クリスは範囲を絞って攻撃出来たりする?」

「威力は落ちますが可能です」

「なら今度はそれを使ってみてよ。その隙に私たちも攻撃するからさ」


 ルリカがクリスに魔法のリクエストをする。

 魔法の攻撃を防ぐために集中してくれれば、他が弱くなると思っての提案かな?

 魔法と連携出来れば確かに倒すための効率は上がるかもしれない。

 ただその分クリスが大変になりそうだけど、クリスはクリスでやる気に満ちていた。

 最初の攻撃以外は殆ど手が出せなかったからね。

 本人も歯がゆかったかもしれない。

 それを言うとミアも基本補助だからな……。

 一応杖、というか棒術のようなもので接近戦というか護身術のようなものを学んでいるけど、さすがにこのレベルの魔物相手となると難しいか?

 俺としては補助だけでも十分有難いんだけど、本人としてはもう少し活躍したいみたいだ。

 三〇階あたりまでならミアも接近戦を試みたけど、それ以降は控えるようになったからな。

 身体能力は上がっているけど、技術がまだ追い付いていない感じだ。

 その辺りの冒険者となら普通に渡り合えるけど、それはルリカやヒカリたちと模擬戦をこなしているから対人戦には慣れているだけなんだよな。

 これがまだ二足歩行の人型の魔物なら違ったかもしれない。


「それじゃそろそろ行くか?」


 魔力が回復したところで、次の階にいくことにした。

 七二階でも初撃は変わらず魔法とスキルによる攻撃を行った。

 爆煙から姿を現したのは一体だけで、大した外傷もなく突撃を仕掛けてきた。

 ただ対峙した時と比べて魔力反応は弱まっている。

 俺は盾を構えて挑発を使ったが、先の階と比べて強い衝撃を受けた。

 ……レベルは87か。

 レベルが高いだけあって、力だけでなく速度もある。

 そのためルリカたちが隙を伺って攻撃するが、そのことごとくを距離をとって躱す。

 捉えることが出来たのは現状ヒカリの斬撃とクリスの精霊魔法だけだ。

 その精霊魔法も範囲攻撃か、威力は低くなるが速度重視のものだけだ。

 それもタイミングがあった時しかヒットしない。


「厄介だな」


 俺も挑発を使いつつ投擲ナイフで行動を妨害するが、フロア内を駆け回るからうまいこと攻撃が当たらない。

 ただ相手の攻撃も俺が抑えるから、どちらも決めてがないまま時間だけが過ぎていく。

 ヘルハウンドが召喚を使ってくれれば数は増えるけど、レベルが下がるかもしれないから戦況が動くかと思ったけど、わざと召喚できる間を作っても相手も召喚を使ってこない。

 そして戦って分かったことはもう一つ。

 それはヘルハウンドの魔力が回復しているということだ。

 ……俺たちだって自然回復はするのだから、魔物だって回復しても不思議ではないか。

 これはますます長期戦になるか?

 俺はヒカリを呼んでそのことを伝えると、皆にも伝えてくれるように頼んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る