第582話 準備

 食事が終わって旅についての雑談をしていたが、食べたものがそろそろ消化されたかな? という頃合いで七一階についての作戦会議が行われた。

 作成会議なんて言っているけどそう大層な作戦があるわけでもなく、とりあえず相手の出方をまず見るという第一案と、開戦直後に全力の攻撃を放つという第二案のどっちかしかなかった。


「やっぱ最初に全力攻撃で良いんじゃないかな? もちろん簡単に倒せるとは思っていないけど、やる価値はあると思うよ」


 とはルリカの談だ。

 全力の攻撃が効かないとこの魔物は倒せないのか? なんてネガティブな思考に囚われそうだけど、強い魔物との戦いは長期戦になることが多いから、一度の攻撃で倒せることの方が稀だ。


「やっぱ全力攻撃だよね!」


 ルリカの言葉に何にも考えていなさそうなエリアナが賛成しているが、それに対して反対するものは特にいなかった。


「けど誰が攻撃をする? さすがに全員というわけにはいかないだろう?」

「そこはクリスの精霊魔法を中心に、ソラが魔法、ヒカリちゃんが斬撃のスキルで。私とセラは投擲武器かな? ミアとカイナは反撃に備えてもらった方がいいと思う」


 クリスが精霊魔法を使うとなると、接近戦をしていると巻き込まれる危険があるから妥当か。

 威力が高いものになると、一部の例外をのぞき攻撃範囲が広くなっていくからな。

 もちろん使い手によってはその範囲を調整することは可能だけど、無駄な工程が入るから威力が若干落ちたりする。

 俺は並列思考や魔力操作などのスキルのお陰で簡単に出来るけど。

 結局話し合いの結果。クリスが精霊魔法の準備が整うまでの時間を俺たちが遠距離攻撃で稼ぐことに決まった。

 本当なら鑑定してレベルを確認したいところだけど、離れていると上手く鑑定出来ない時があるから、それはヘルハウンドが倒せなかったらすることにした。

 問題は倒せなかった場合、ヘルハウンドがどのような動きをするかだな。

 怒って直接反撃をしてくるのか、それとも取り巻きを召喚してくるのか。

 取り巻き召喚で数が多かった場合は、出来るだけ俺が挑発で魔物のヘイトを集めて耐えている間に、各個撃破していくのが一番だけど、問題は耐えることが出来るかというところか。

 カイナも守れるけど、やはり攻撃よりのパーティーだからね。

 一対一ならルリカたちも余程ヘルハンドが俊敏じゃなければ大丈夫だけど、複数同時に戦うとなると難しいだろうしな。

 ヒカリ曰く、一対一ならヘルハウンドが素早くても早々に負けないとは言っていた。

 理由を聞いた基本的に四足歩行の魔物は攻撃のバリエーションは確かに増えるけど、基本的な動きは大差ないということだった。

 その辺りの感覚が俺だと今一つ分からないんだよな。

 俺が首尾傾げていたら、今度教えると言っていたけど返答に困った。

 結構スパルタだからさ。

 もちろん命のやり取りをするんだから、厳しくすることは分かるけどさ。

 ある程度話がまとまると、ルリカたちはカイナを中心に模擬戦をやり始めた。

 新しく出来た体(腕)を慣らすためらしい。

 その間残った俺たちはエリアナとお茶を始めた。

 俺はお茶だけだけど、エリアナたちはスイーツを食べている。

 ミアたちがフォルスで買ってきた奴だ。

 エリアナはかなり気に入ったようで、その小さな口いっぱいに頬張り喉に詰まらせていた。

 誰も取らないからもっとゆっくり食べてもらいたい。

 ミアがお店の人に聞いてきたのか、スイーツについての説明をしているが、エリアナは食べながら真剣に耳を傾けているようだった。


「他の町にもこんな美味しいものがあるの?」

「町によって違うかな? あとこれはリュリュっていう子から美味しいって勧められたお店のものだからね」

「ああ、獣王に振り回されているっていう子ね」


 エリアナにとってはそのような認識みたいだ。

 まあ、間違ってはいない。


「ソラは何をするんですか?」

「一応鍛冶スキルのレベル上げかな? スキルレベルが上がれば、その分装備の強化にも繋がるし。例え今回のダンジョンでは間に合わないにしても、まだまだ先は長いからさ」


 新しく錬金術で作ったナイフには、さらには魔法を付与していく。

 複合スキルを使って雷系の魔法も付与する。

 単純に威力を追求するなら火魔法系列のものが強いけど、雷魔法は感電による動きの鈍化を狙えるからある程度作っておく。

 現状収納限界がきていないアイテムボックスだから、使わなければ放り込んでおけばいいしね。

 使う機会がくると一気に減っていくんだけどさ。

 今度また鉱石を買い集めないとかな? いっそ商業ギルドか冒険者ギルドに依頼を出すものもありかな?

 一つのところに居続けるわけじゃないから、期日をしっかり決めないといけないけど。

 鉱山が近くにある町なら集まりやすいけど、入手手段が限られた場所だとちょっと難しいか。

 転移を使えばすぐに移動することは出来るけど、そろそろ一度転移する場所を整理しないといけないとは思っているんだよな。魔道具を作るごとMPの最大値が低くなるから、魔法関係のスキルはどうしても多様出来なくなっちゃうんだよな。

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