第580話 フォルスダンジョン・14
背後からの強襲は、間違いなくキングミノタウロスの体を捉えた。
ルリカの双剣が振るわれ、ヒカリの短剣とカイナの槍が突きを放ち、セラの斧が斬り付けた。
そのうち攻撃が通ったのはセラの一撃のみ。
他の三人の攻撃は魔力の壁に阻まれた。
ルリカたちも武器に魔力を籠めたのに防がれた。
キングミノタウロスは邪魔だと言わんばかりに斧を振り回した。
慌てて四人が間合いから逃げる。
俺は注意が逸れたその一瞬を逃がさず攻撃に転じた。
ミスリルの剣に魔力を流し、ソードスラッシュを使った。
こちらの攻撃に気付いたキングミノタウロスが回避しようとしたけど、こちらの攻撃の方が速い。
実際その攻撃は当ったけど、硬い何かを打ち付けたような衝撃を受けた。
ただ魔力の層を斬り裂くような感触も確かにあって、僅かばかりの傷を付けることが出来た。
その斬り傷はすぐに治ってしまったけど。
「ソラ!」
クリスの声に弾かれようにその場から離れると、キングミノタウロスの体が炎に包まれた。
高温の熱が顔を焼く。熱い。
炎の中からは雄叫びが聞こえてくる。
しばらくして消えた炎の中からは、体から煙を上げたキングミノタウロスが現れた。
皮膚の一部が焼きただれていたけど、徐々に治っていく。
倒しきれなかったけど、感じられていた魔力量が大幅に減っている。
攻撃を受けるごとに魔力が減っているなら、このまま攻撃し続けて魔力がなくなれば倒せるのかもしれない。
そう思った矢先、キングミノタウロスが首を振り、クリスを認めると叫び声を上げて体を向けた。
高火力の魔法によってヘイトを集めたのか、それとも脅威と認識したのかは分からなかったが、明らかにクリスを標的にした。
俺はすぐに挑発を使って注意を引こうとしたが失敗した。
キングミノタウロスがクリスの方に一歩踏み込んだ時にはそれに気付いたセラたちが果敢に攻撃したけど、無視してクリス目掛けて突進した。
位置的に俺の方からは間に合わない。
転移で飛ぶにしても振り下ろされた一撃を受け止めるための体勢を取れない。
それでも何もしないよりはましだと転移を使ってクリスの傍らに移動したその時、クリス目掛けて振り下ろされた斧がすぐ近くまで迫っていた。
それは片方の刃が熱で溶けていたけど、もう片方は無事だった。
それが当たれば間違いなく致命傷だ。
俺は咄嗟に盾を構えた。
クリスが近くにいるから最適な方向に受け流すことが出来ない。
体勢も不十分だから受け止めることが出来るかも分からない。
それでもやるしかない。
俺は覚悟を決めたが、その攻撃が俺たちに届くことはなかった。
正確には、俺とキングミノタウロスの間に割って入った者がいた。カイナだ。
彼女は盾を構え、その一撃を受け止めていた。
カイナの体が光に包まれているのは、ミアによる補助を受けているからだ。
カイナが攻撃を止めてくれたその僅かな時間に、ルリカとヒカリがそれぞれ疾風と斬撃のスキルを使って足を狙った。
それにはたまらずキングミノタウロスも悲鳴を上げた。
バランスを崩すと斧による斬撃が逸れて、地面を叩いた。
カイナはそれを見て飛び退いたが、その拍子に盾が地面に落ちた。
違う。正確には盾を持っていた手が砕けた。
けどここでルリカとヒカリも後退した。
スキルの連続使用でこれ以上使えないと判断したんだと思う。
そのためキングミノタウロスが再び攻撃を仕掛けて来たけど、カイナたちが十分時間を稼いでくれたから俺たちも立て直すことが出来た。
カイナは後退すると同時にクリスと一緒に後ろに下がり、俺は前に出て攻撃を仕掛けた。
俺の斬撃は先程と違いキングミノタウロスの体を深く斬り付けた。
クリスの魔法、それからルリカとヒカリによるスキル攻撃で明らかに感じられる魔力反応が弱まっている。
続けて斬り付けようとしたら、先程までは大して防御行動を取らなかったのに躱そうと間合いを広げた。
ただそこにはセラが待ち構えていて、渾身の一撃が振り下ろされた。
無防備は背中を斬る着けられたキングミノタウロスは、叫び声を上げて前方に倒れてきた。
傷みに顔を歪め、怒りに染まった瞳と視線が合ったが、俺はそれを無視して剣を振り抜いた。
何の抵抗も受けなかったその剣閃は、キングミノタウロスの首をはね、地面に横たわる前にその体は消滅した。
「カイナの状態はどう?」
「体は無事だけど、少し時間は必要みたいだ」
ルリカの問い掛けに俺は答えた。
カイナの腕は砕けてしまったけど、ベースとなっているのはゴーレムだから修復は出来る。
ただ修復したところ、カイナは動きに違和感を覚えたようだ。
そのため今まで通りに動くようにするには少し時間が必要みたいだ。
「そっちは?」
「キングのお肉!」
宝箱からはキングミノタウロスの肉が手に入ったようだ。
階の上に行くにつれて肉の入手率が上がり、他の素材は手に入りにくくなっているような気がする。
単純に運が悪いだけなのかもしれないけど。
まあ、俺たちは肉でも喜ぶ者は多い。
その筆頭はヒカリだけど、ミアも結構喜んでいる。美味しい料理を作るのが楽しいみたいだしね。
「それじゃどうするの?」
「アルゴたちもいないし、一度エリアナのところに行ってもみてもいいと思う」
巨人の村に行くのにカロトスを連れて行く時に、約束したからな。
どうせこのままだと明日はダンジョン攻略は休みだし、一度行くか。
一応次の七一階の資料を見てからだな。
記憶スキルがあれば内容を覚えられるから、向こうに行っても攻略の相談は出来るからな。
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