第577話 フォルスへ
「村に残らなくていいのか?」
巨人の村を旅立つ時、俺はカイナに尋ねていた。
「……ソラたちの手伝いを優先する」
それがカイナからの答えだったけど、迷っているように見えた。
カロトスは自分の代わりに外の世界を見て欲しいという言葉がカイナを縛り付けているのかもと言っていたけど、カイナがどう思っているかは分からなかった。
一応転移用の魔道具を村に置かせてもらうことになったから、時々顔を出すことは可能だし、その時にカイナにも同行してもらえばいいかな? 心変わりして残りたいと言ってくればその時に改めて考えればいい。
魔道具を設置した一番の理由は、定期的に呪いが再発していないかを確認した方がいいとミアが言ったからだ。
あとは長老から、出来ればこの国のトップと話をしたいと頼まれたというのもあった。
俺たちはキトスたちに見送られて村から出ると、フクスト村に転移で戻った。
一応経過報告の為にフクスト村には何度か転移で戻っていたけど、それでも時間がかなりかかってしまってからね。
その後三日間はフクスト村で過ごすと、再び転移でフォルスに戻ることになった。
転移は便利であるけど、歩く機会が奪われるのは俺としては嬉しくない。
今回は予想外のトラブルで、予定が大幅に狂ってしまったから仕方ない。
ダンジョン攻略も途中になってしまったからね。
ただフォルスに戻って来ても、すぐにダンジョン攻略とはいかなかった。
まずはリュリュに頼んで獣王と会えるように手配してもらった。
鍛練所に良く顔を出すとはいえ、一応獣王も国のトップに立つ獣人だ。それなりに普段は忙しい。
特に武闘大会が終わったあとは、溜まった仕事を片付けるためにその姿を殆ど見掛けなかったほどだ。
武闘大会が終わってそれなりの日数を経っているけど、帰った時もまだ忙しくしているということだった。
実際獣王と会うことが出来たのは、リュリュに頼んでからさらに五日経ってからだった。
久しぶりに見た獣王はいつもの精悍さがなくて目の下に隈を作っていた。
「大丈夫か?」
と思わず尋ねたほどだ。
「だいぶ落ち着いてきた。早く思いっきり体を動かしたいもんだ。それで用件は? リュリュからは直接ソラから聞いてくれと言われた」
俺は獣王の後ろに控えているリュリュに一度目配せして、
「……さらに忙しくなるかもだけどいいか?」
と獣王に尋ねた。
獣王の疲れた姿を見て迷ったけど、言わないわけにもいかないしな。
俺の問い掛けに、こめかみをヒクヒクさせたけど獣王は頷いた。
俺はそれを見て巨人たちの村のことを順を追って話した。
もちろんカロトスのことは内緒にして。
獣王は黙って話を聞いていたけど、
「よし、その村に行くぞ!」
と、話しが終わると勢い良く立ち上がり叫んだ。
もちろんリュリュに怒られていたけど。
「……仕事が一段落したら連れてってもらっていいか?」
俺が頷くと、獣王は急ぎ駆けていってしまった。
「仕事が終わったらまた連絡するっす」
とリュリュはそれを見て上機嫌で帰って行った。
仕事が滞っていたのかもしれないな。
もしかして獣王にやる気を出させるためにこのタイミングで会うことを許可したとか?
俺が戻るとルリカたちも宿舎に戻っていた。
今日はエルザたちと出掛けると言っていたけど、もう帰ってきていた。
「それで獣王様は何て?」
「村に行きたいと言われたよ。まだ仕事が残っているからリュリュに止められていたけど」
正確には怒られていたんだけど。
俺がそのことを話すと、皆獣王様らしいと笑っていた。
「それじゃ私たちはダンジョン攻略の続きね」
「一度低層に戻らないか?」
「……そうね。勘を取り戻した方がいいわね」
フォルスに戻ってからは模擬戦で体を動かしていたけど、魔物と戦うのは久しぶりだ。
あとは作り直した武器の性能チェックもしたい。
結局話し合った結果、一〇階、二〇階、三〇階と十の倍数の階を順番に回って行くことになった。
六〇階までいったら次は六六階に行き、そこからは順番に一階ずつ攻略していこうということになった。
六六階以降で特に問題なく戦えたら、そのまま一〇〇階を目指して攻略を進める予定だ。
七一階からはヘルハウンド、オルトロスと、四足歩行の魔物が続く。
人型の魔物は九一階のアヌビスまでは出なかったはずだ。
戦ったことのない未知の魔物が出るから、資料室でどんな戦い方をするかを調べておかないとだ。
魔物の特徴や攻撃手段次第で準備する装備も変わってくるからね。
あとは上に行くほど魔物は強く、外皮も硬くなっていくから作り直した武器が何処まで通用するかも気になるところだ。
これが昔なら死に戻りを繰り返して色々試すという手段を取ることが出来たけど、今はその方法が使えないからな。
何にしても上を目指すなら、今まで以上に慎重に進んで行くしかないか。
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