第576話 解呪・2
シュンは突然のことに面食らっていたけど、結論から言うと断っていた。
ただ話し合いの結果。数日間滞在することになり、その間は剣を教えるというか、サークたちの鍛練に参加することになったようだ。
「教えてあげたらどうですか?」
というミハルの一言が決め手になったんだと思う。
サークも出会った頃に比べては成長しているけど、見た目だけなら年下に見えるからな。
小さな子の願いを叶えてあげたらとミハルは思ったんだと思う。
実際サークの年齢をあとで聞いたミハルは驚いていたし。
それで俺はというと、とりあえず月桂樹の実を譲ってもらえることになったけど、在庫が少なかったため今譲ってもらえるものだけ受け取り、残りは後日受け取りにくることになった。
ユイニの話では五日後になるということだったため、一度俺だけ戻ることにした。
ミハルはミアの元で作業を見たいようだったけど、今回はシュンの件もあったから残ることに決めたようだ。
ミハルが戻ると言ったら、きっとシュンも帰ると言うだろうしね。
戻った俺は、早速ミアから頼まれたものを作るための準備をした。
といっても俺がやるのは、クリスの水精霊が出してくれた水でミアが作った聖水に、月桂樹の実を掛け合わせる作業だ。
錬金術で作製されたそれは飲み薬として使用し、これを数日間飲んでもらって体に馴染ませてから、ミアがリカバリーで呪いを解呪する方法だ。
これで確実に解呪出来るかは、試してみるしかない。
俺たちは準備が整ったら、長老に方法を説明し、まずは何人かの巨人にその方法を試してもらうことになった。
飲み薬が馴染んだかどうかは俺の鑑定で分かったが、ミアも普通に感じることが出来るようで、準備が整った人から順次リカバリーを唱えて解呪していった。
「うん、大丈夫だと思うけどどう?」
鑑定すれば状態から呪いは消えている。
あとは時間が経ってもこのままかどうかを見守る必要があるけど、ミアの顔を見る限り大丈夫そうな気がする。
「とりあえず俺はヒカリたちを迎えに行って来るよ」
俺がそう言ってアルテアに転移してユイニを訪れれば、既に月桂樹の実を仕分けてくれていた。
前回分を含めてお金を支払おうとしたら拒否されたけど、ここは強引に受け取ってもらった。
月桂樹の実は高価なものだしね。
「それでは師匠。また来て下さい! その時にはもっと強くなっていますから!」
シュンたちを迎えにいったら、帰り際にサークがそんな言葉をシュンに言っていた。
その表情からは充実した時間を過ごせたというのが伝わってきた。
一体何があったのか気になるけど、今度時間があれば聞かせてもらおう。
サークだけでなく、シュンは親衛隊からも別れの挨拶を受けている。
「ヒカリはどうだった?」
「コトリとミハルとアルテアの街を観光した」
「サハナちゃんに案内してもらったんですよね」
コトリたちもそれなりに楽しめたようだ。
新たに月桂樹の実を入手したが、それを使っての飲み薬の製作は一時ストップしていた。
ミアに最初に解呪した人たちの経過を見てからと言われたからだ。
月桂樹の実は色々な使い道があるから、効果のないものを作るのに使用するのは勿体ないと思ったんだと思う。
普通の呪いを治すのには使えるから決して無駄にはならないと思うけど、ここはミアの意見に従うことにした。
アイテムボックスに入れておけば駄目にはならないし、本来なら月桂樹の実は、こんなに簡単に手に入るものではないからね。
「とりあえず一〇日経って呪いが再発しなかったら本格的に治療を開始しましょう」
「それでいいと思う」
ミアの言葉にカイナが賛成したことで今後の方針は決まった。
待っている間は巨人と模擬戦をする組と、巨人から話を聞く組に分かれて過ごした。
「この村の先には何があるんだ?」
もちろん俺は後者で、村の人にこの森周辺のことを聞いた。
結界を張る時に村の周囲を見て回ったけど、深い森がまだ先に続いていたからその先が気になったのだ。
「俺たちは結界の中で生活していたから正直分からないんだ。ただ村に代々伝わっている話によると、途中で進めなくなるって話だったかな?」
俺はその話を聞きながら改めてこの世界の地図を思い浮かべた。
確かに七つの国は地図上に書かれていたけど、地図の端は森や山が描かれているだけで、その先が何処まで続いているのかなどの情報は一切ない。
図書館などで調べればもしかしたら分かるかもしれないけど……中央都市フォルスに戻った時に獣王に話を聞くのが早いか?
獣王は修行の旅で色々見て回ったそうだしな。
黒い森でギードとイグニスと遭遇したことがあるとも言っていたし。
それとも空を飛ぶことが出来る魔人の誰かに聞いてみた方がいいのだろうか?
そこまで考えて気付いた。
もっと詳しく知っていそうな知り合いがいるじゃないかと。
ただそれをすぐに聞くことはなかった。
翌日から聖水と月桂樹の実を使った飲み薬の作製に追われたからだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます