第575話 弟子入り?
アルテアを見た三人は純粋に驚いていた。
お城の後方に立つ大樹は凄いからな。
本当はマルテや山岳部から見えるアルテアを見せてあげたいけど、それはまたの機会かな?
とりあえずアルテアの街にある商業ギルドに行って月桂樹の実の流通を確認しようと歩き出したら、途中でサークに会った。
息を切らせて現れたんだけど、俺たちを探していたのか?
それとも本能でヒカリが来たことを察知したとか?
真相は分からないけど、
「ヒカリ、勝負だ!」
と開口一番言った。
「いい?」
ヒカリが聞いてきたから頷いた。
ここで拒否するとサークが五月蠅いし、ヒカリもサークとの手合わせは結構楽しみにしているんだよな。
特に今回はスキルを試したいと思っているかもしれない。
ヒカリも斬撃のスキルの威力調整の練習をして、模擬戦でも使えるようにしていたからな。
本来なら当たると斬る効果があるのに、鈍器で殴られたようなものになっている。
まともに喰らうと痛いには痛いけど、大怪我をすることはない……と思う。
ただヒカリも斬撃のスキルを使うと有利になるから、弱い相手には基本使わないけど、果たしてサークはそのお眼鏡に適うのだろうか?
俺はここで一時別れてあとから合流しようと思ったが、サークを追いかけて来たサハナに月桂樹の実を買いに来たことを告げるとユイニに相談すればいいと言われて一緒に城に行くことになった。
「二人は王族なんですか⁉」
と俺が二人について紹介していたらコトリは目を丸くしていた。
「ユイニお姉様は仕事をしているので、呼んできますね。ソラさん、是非お兄様を痛めつけて下さい」
サハナはそう言ってユイニを呼びにいってしまった。
サークはヒカリに夢中で今の発言は聞こえてないようだし、今のは聞かなかったことにしよう。
それでも体を動かすのは悪い事じゃないから訓練には参加した。
ここのところ鍛冶に巨人族の村への移動と結界張りで、あまり剣を振っていなかったというのもある。
最終的にシュンたちも参加することになり、俺たちは親衛隊に混じって身体を動かした。
二時間ほど体を動かすと、希望者が集まって模擬戦を開始した。
最初はヒカリとサークが戦った。
サークは背が伸びて体が大きくなったことで、力と体力が上がったようだ。
訓練の時にチラリと見たが振った時の剣の音が違ったのと、打ち合いをしていた相手が褒めていたのを聞いた。
ただヒカリとの相性は悪かったようで、振り回されている。
背が伸びたことで腕も長くなり、懐に潜り込まれると攻撃が上手く出来ずに防戦一方になっている。
けどそれはあくまで守れているということになる。
以前のサークだったらここで押し切られていたはずだ。
来るごとに成長している。
それはヒカリも分かったのか、小さく笑みを浮かべている。
……うん、きっとあれはサークが成長していることを純粋に喜んでいるんだと思う。そう思いたい。
背筋に冷たいものが走ったけど気のせいに違いない。
「お兄さんどうでしたんですか?」
「ソラさん、体調が悪いのですか?」
コトリとミハルに心配されてしまった。
「ソラさん、こんにちは」
そこにゆっくりとユイニがサハナと一緒に姿を現した。
その少し後ろにはアルフリーデもいた。
ユイニを見たコトリとミハルはポカンとしている。
「えっと、そちらは?」
見ず知らずの二人がいたからユイニが尋ねてきてから、俺は二人と、模擬戦をしているシュンのことを紹介した。
ユイニも二人に名乗ると、互いに挨拶を交わし始めた。
「ソラさん、サークはどうですか?」
「凄いな。正直今戦ったらどうなるか分からないな。ヒカリも楽しそうだし、成長していると思う」
俺の言葉にサハナは嬉しそうに視線をサークとヒカリに向けている。
サハナはサークに厳しいけど、それはある意味愛情の裏返しみたいなものだしな。本人に言ったら否定するけど。
その後模擬戦をしていたシュンがこちらに戻って来てユイニとサハナの二人に挨拶をしていると、サークとヒカリの戦いが終わった。
結局模擬戦はヒカリが斬撃を使うことなく決着が付いた。
一回は接近したヒカリを押し返すことに成功したサークだったけど、再び接近を許すと速度を生かしたヒカリの攻撃に翻弄されて負けた。
サークは悔しそうにしていたけど、
「強くなった」
のヒカリの一言に頬を緩ませていた。
その後サークから戦いを挑まれたが、そこにシュンが割って入った。
どうやら二人の戦いを見ていて触発された様だ。
シュンも扱う武器は剣だし、何か感じるものがあったかもしれない。
戦いの結果は最初は良い勝負をしていたが、シュンがギアを上げると一気に勝負が決まった。
さすが武闘大会で活躍しただけある。
観戦した人たちも一様に驚いていたし、アルフリーデも感心していた。
剣を突き付けられて唖然としていたサークだったが、
「頼む。俺に剣を教えてください!」
とシュンに頭を下げてお願いしていた。
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