第573話 結界
サイフォンたちに会ってどう生活していたかの話をした。
「基本ここに入っていて。あとは食事をルリカたちが持ってきてくれる感じだな。外には出ないし、ここ一週間は巨人たちにも会ってない」
それには理由があった。
最初の数日は巨人たちも様子を見に頻繁にここを訪れたそうだ。
結局数日後には食事などの持ち運びをルリカたちが担当することになると、巨人たちは会いにこなくなった。
するとアルゴたちに変化が現れた。
巨人たちの抱いていた憎悪が徐々になくなっていった。
ただ完全になくなることはなくて、なんとなく巨人たちのいる方向が分かるようで、そっちに行かなくてはいけないという感情が時々湧き上がってきたという。
『呪いの効果』
とカロトスの声が頭に響く。
そういう事情もあって、現在サイフォンたちは巨人たちとの接触を完全に断っているということだ。
「まったく不甲斐ない」
「本当にな」
とライトとアルゴが肩を落としている。
カロトスの話では妖精神の呪いだから仕方ないだろう。
むしろゴブリンの嘆きのなかの一部で、サイフォンを始めそれに抗って正常を保っていることの方が凄い。
『この者たちはソラたちと一緒に行動していた。それで少し耐性が出たかも』
とカロトスは言っているけど心意は不明だ。
「それでどうするんだ?」
「ミアが呪いを解呪出来るかもしれないってことで、明日それを試す予定だ。あとは俺とクリスは結界を張れるか試すところかな?」
巫女としての能力をカイナは失っているけど、その知識は残っている。
そこで俺とクリスで似たようなものを張れないか試すことになった。
カロトスはミアなら大丈夫というが、それがすんなりと出来るかはまだ分からない。
その間次の魔物が襲ってくるとも限らないからね。
どうもサイフォンの話を聞くに、視界に入ると増悪を向けられるようだけど、存在だけで魔物なんかは引き寄せるみたいだから。
翌朝。俺たちは結界を張るために長老の元を訪れていた。
「この者たちが結界をですか?」
「そう。だから結界を発生させていた魔道具があった場所に連れていって欲しい」
カイナの言葉に長老は困惑していたけど、
「大丈夫。この二人はカロトス様とエリアナ様……精霊神の加護を受けた者たち」
とカイナがいうと目の色が変わった。
いや、俺は別に加護なんてもらってないよ? 憑依用(移動用)の腕輪はもらったけど。
ただクリスがエリアナの加護を受けているのはあながち間違っていない。
「こんな大袈裟にすると失敗した時が怖いんだけど?」
「大丈夫」
その根拠が何処から来るのかを知りたい。
「それに長老も不安がっている。安心させたかった」
そんなことを言われたらもう何も言えないじゃないか。
「ソラ、成功させればいいのです」
クリスはクリスでやる気に満ちていた。
これは巨人たちを助けるためというのもあるけど、カイナから結界魔法について色々話を聞いたからだろう。
さすが知識欲……主に魔法に関しては並々ならぬ熱意を持っているだけある。
昨夜もルリカにもう寝なさいと注意されていたみたいだし。
何で知っているかって?
今日の朝ルリカから愚痴られたからですよ。
決して同じ部屋にいたわけではありません。
「ここがそうです」
そんなことを考えていたら目的の場所に到着した。
それは石像の前だった。
「似てる」
と思わず言葉が出て、カイナの方を向いた。
「初代長老が作ったそうです。それで……」
「うん、これがそう」
カイナは石像が手に持つ宝玉を指していった。
石像はその宝玉を大事そうに抱えるようにしている。
「ソラ、魔力を感じる?」
カイナに言われたが魔力は一切感じられない。
俺は首を振った。
「解析で宝玉がどうなっているか調べて」
言われて俺は解析を使うと、宝玉の中に刻まれた文字が頭の中に浮かんだ。
ただ一部にモザイクが入っていて全てを読み取ることが出来ない。
俺がそれを伝えると、
「分かった。新しく作る。宝玉がそのまま使えたら楽だった。けどこれは利用する」
カイナはそう言うと、宝玉をひょいと手に取った。
カイナが宝玉に触れると簡単に外れたのだ。
それには長老は驚いていた。
「それでは昨日説明した通りに」
俺とクリスは宝玉に手を添えると魔力を流す。
俺は聖と光、土の属性の魔力を、クリスは水と風の精霊の力を借りて。
宝玉にどんどん魔力が貯まっていくのが分かる。
途中で流す量を調整し、それが混ざるように魔力操作を行う。
すると宝玉が光に包まれ始めた。
「クリス、今」
カイナの合図で、さらにクリスが魔力を放出する。
今度は火の精霊の力を借りて、宝玉を包み込むように魔力の膜を作る。
それが完成すると光っていた宝玉が元の状態に戻った。
「ソラ、解析をお願い」
言われて宝玉を解析すると、先ほど見ることが出来なかった文字が読めるようになっている。
「うん、成功。ただこれは応急手当。一時的な効果」
それでもそれを聞いた長老は嬉しそうだった。
ただ追加でカイナは注意をしている。
これはあくまで外敵を引き寄せない効果があるものだから、見られたらその増悪は抱かれるということだ。
「それじゃアルゴたちはまだ外に出られずか……」
「村に戻ってもらうのはいい。巨人に会いさえしなければ大丈夫だから」
その辺りは相談だな。
あとはミアの解呪がどうなるかを見てから判断するしかない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます