第572話 巨人たちの村

 まず第一の印象は、単純に家屋が大きいということ。当たり前か。

 普通だったら二階の家屋かと思う高さなのに、これで平屋建てのようだ。

 俺たちは巨人たちに囲まれて長老の住まう家に向かった。

 本当はサイフォンたちに会いたかったけど、サイフォンたちは無事というルリカの言葉を受けて先に長に会うことになった。

 俺たちは促されて敷物の敷かれた床の上に座った。

 対面には長老が、周囲にはキトスをはじめとした数人の巨人が腰を下ろした。

 座っているのにヒカリの背と同じぐらいの高さがある。


「お主らが小さき者のいう仲間たち……それと……確かに似ておる。名前は?」

「カイナ。話はヒカリから聞いた。私はかつてカロトス様の元で巫女をしていた者の一人」

「……名前は聞いたことがあります。けどそれは遥か昔のこと。それにその姿は……」

「分かっている。その説明をする」


 カイナは妖精神と戦い、その後どうなったかを語った。

 またその時マジョリカダンジョンで石像にされていたこと。

 解放されたが体が滅びていたため、魂の身の存在であることなどを話した。


「私は今ゴーレムの身体に憑依している。それは全て、カロトス様の力のお陰」


 カイナが憑依を解くと、体が元の人型ゴーレムへと変化した。

 長老をはじめ、キトスたちは驚いているが半信半疑だ。

 一見するとゴーレムの形が変わったようにしか見えないから仕方ないのかもしれない。

 それに今は巫女の力は失われているし、どうやら巨人たちには憑依を解除したカイナの姿は見えていないようだ。


「ソラ、カロトス様をここに」


 ゴーレムに憑依し直したカイナが言ってきた。


 俺が頷くと腕輪からカロトスが飛び出してきた。

 ただ俺は思った。

 カイナが見えていなかったようだけど、カロトスは見えているのだろうか?

 実際腕輪から出て来たカロトスは透き通っている。

 アルテアのダンジョンにいる時よりもその透明度は気のせいか高い。

 案の定。カロトスが姿を現しても巨人たちはノーリアクションだ。

 それを見たカイナは不満顔だ。


「うん、見えていない?」


 声が上空から突然聞こえてきたからか巨人たちは驚きキョロキョロしている。

 なんかシュンも驚いている。


「これで見える?」


 カロトスがそう言うと、徐々に体の輪郭がはっきりしてきた。


「お、おおー」

「まさか本当に?」


 そしてすっかりカロトスが見えるようになったのか。巨人たちが口を開いた。


「ほ、本当にカロトス様ですか?」

「うん、そう」

「まさかこうして巨神様に会えるとは……」


 長老が頭を下げると、キトスたちもそれに従った。

 感動して泣いている人もいる。


「ねえ、信じちゃっているけど大丈夫なの?」


 ルリカがその様子を見てカイナに尋ねている。

 それは確かに思う。

 俺たちは確かにカロトスが巨神であることは知っているけど、長老たちは何を根拠にカロトスを巨神と判断したのだろうか?


「魂で理解する。姿形じゃない」


 とカイナが言うと、


「その通りです。本能に訴えてくるのです。この方は巨神であると」


 とキトスが力強く言うと、他の巨人たちも頷いている。

 種族だけにある何かがあるかもしれない。

 その辺りは当人たちにしか分からないことなんだと思う。


「それでカロトス様。カイナ様。二人にお越しいただいたのは……」

「うん、呪いの解呪の相談だね」

「はい。それか結界を再び張ってもらえないかと思っています。わしらの力ではこれ以上森の奥にも進めませんし……行き場がないのです」


 この森の先か……そういえば今まであまり考えたことがなかったけど、この世界の果ては何処にあるのだろうか?

 地球のように丸いのか、それとも何処かで行き止まりがあるのか。

 そのことは本にも書かれていなかった。

 今度カロトスにでも聞いてみるか?


「結界は無理。けど呪いなら解呪出来るかもしれない」

「本当ですか! ではカイナ様が?」

「カイナ無理。かわりにミアがする」


 突然名指しされたミアは驚いていた。


「大丈夫。ミアなら出来る」


 そんなミアに対して、カロトスは言い切った。

 巨人たちが受けた呪いは妖精神がやったと言っていた。

 普通の呪いとは違うだろうが、確かにミアなら出来るかもしれない。

 ミアで無理なら。もうあとはこの世界の何処かにいるらしい妖精神を探し出して、直接この呪いを解いてもらうしかない。

 エリアナやカロトスから話を聞いた限り、素直に聞いてくれるとは思えないけど。


「とりあえず疲れた。カイナ、後は任せる」


 カロトスはそう言い残し、腕輪の中に戻っていった。


「……わしらはどうすれば良いですか?」

「まずは仲間たちの元に連れて行って欲しい。それから移動で疲れているし、準備も必要」


 カイナがそう言ってくれたのは、きっと俺たちの心を汲んでくれたからだろう。


「分かりました。キトス、案内を」

「分かりました。小さき者たちよ、こっちへ」


 こうして俺たちは久しぶりにサイフォンたちと再会することが出来たけど、特に外傷もなく、皆元気に過ごしていたようだ。



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