第569話 現状確認

「ヒカリが一人で戻って来た? 他の人たちは?」

「分からないの。私たちのこと見たら倒れて……眠っちゃったの。体に傷はなかったから大丈夫だと思うけど」


 ヒールとリカバリーはかけておいたとミアは言った。


「作業はここまでじゃな。ソラにシュンよ。戻ってやるがよい」


 ダルクに言われた俺たちは、ミアと一緒に村に作った家に戻ることにした。

 シュンの取り乱しようが酷かったのもある。

 俺も聞いた瞬間は焦りを覚えたけど、シュンの様子を見て冷静になれた。

 それでもいつも以上に速足になって家まで戻ったと思う。

 家に到着するとそこにはリュリュとフォスがいた。

 リュリュは落ち着きなくウロウロしているがフォスは目を閉じてその場にジッとしている。


「クリス、ヒカリの様子は?」

「まだ寝ています」


 俺はヒカリを鑑定してみたが、状態が【疲労・寝不足】になっていた。

 俺はそのことをこの場にいる人たちに伝えると、クリスとミアは明らかにホッとしていた。

 ただそうなると問題はそのような状態になってまでも村に戻って来たヒカリのことだ。

 急いでいたことは十分伝わってきた。

 では急いで帰る状況が他の皆たちに起こったということになる。

 アルゴやサイフォンたちが一緒にいるから安心だと思っていたからこそ、俺はかなり動揺していた。

 ヒカリの状態を知ったからというのもある。


「落ち着こう」


 とシュンに逆に言われてしまったほどだ。

 結局日が暮れるまでフォスは一緒にいたけど帰っていった。

 一応村の人たちには、ヒカリが一人で帰ってきたことは伝えないようにしようと言った。

 既にダルクたちが知っていると伝えたら、リュリュが口止めをしてくると出て行った。

 その後俺たちはヒカリが目覚めるのを待ったが、結局夜までヒカリが目を覚ますことはなかった。


「皆休んで下さい。疲れていたら、何かあった時に動けません」


 なかなかヒカリから離れない俺たちに向かって、カイナが言ってきた。

 確かに何かが起こっていることは間違いないと思う。

 そんな時俺たちが消耗していたら、すぐに行動に移すことが出来なくなる。

 俺も歩いている時は疲れはなしいけど、急ぐときは走ったりするから、その場合は疲労が普通に溜まる。

 なら俺も少し休んでいた方がいいか。

 それにカイナはゴーレムだから疲れ知らずだ。ここはカイナに見ていてもらおう。

 俺は後のことはカイナに任せると、一先ず休むことにした。



「ソラ、目を覚ましてください」


 体が揺らされて、声が聞こえてきた。

 目を覚ますと、目と鼻の先にカイナの顔があった。


「カイナ?」

「そうです。ヒカリが目を覚ましました。それで……」


 カイナが困った表情を浮かべた。

 何かあったのか?

 そう思い体を起こしてヒカリの元に行くと、


「主、お腹空いた」


 とお腹をさすりながら言ってきた。

 俺はいつも通りのヒカリでホッとした。

 俺はアイテムボックスから料理を取り出して渡せば、ヒカリが勢いよく食べ始めた。

 次々と料理が消えていく。


「ミアたちも呼んでくる?」


 カイナが聞いてきたが、俺は首を振った。

 窓の外はまだ暗いし、休ませてやろうと思ったからだ。

 それにヒカリの話によってどう動くかが決まるから、まずはそれが終わってからでもいいと思った。

 ヒカリは二度手間になってしまうかもだけど、その辺りは俺の方から話してもいいしな。

 そう思っていたのに、ミアとクリスが目を覚ましてやってきた。


「まったく、ヒカリちゃんが目を覚ましたなら声をかけなさいよね」

「そうです。私たちだって心配してたんですから」


 二人にはそう言われたが、当のヒカリはまだ食事を継続中だ。

 それを見た二人は苦笑いを浮かべていたけど、いつも通りのヒカリでホッとしていた。


「それでヒカリ、何があったか教えてくれるか?」


 ヒカリが満足したところで、俺たちはヒカリに何があったかを尋ねた。


「皆は無事。けど人質」


 ヒカリの話によると、現在ルリカたちは巨人が住む村にいるということだ。

 その巨人は妖精神との戦いから逃れた巨人族の生き残りらしく、呪いを受けているということだ。

 ヒカリが解放されたのは、カロトスとカリナのことを知っていたから。

 特にカリナを連れてきて欲しいと頼まれたそうだ。

 ルリカたちが人質になっているのは、村の存在を関係者……俺たち以外に話させないためらしい。

 それはある意味、村に来る人たちのためでもあるようだ。

 彼らは結界で守られていたため呪いに関しては聞いていたが、ここまで強力なものだとは思っていなかったようだ。

 ただ実際にそれは強力なものだということを悟り、出来るだけ被害を出さないようにしたいようだ。


「カリナを呼ぶのは結界を再び張って欲しいからなのかもな」


 ただ今のカリナには巫女としての力はない。


「カロトス様に相談するのがいいと思う」


 巨人の生き残りがいることを知ればカロトスも喜ぶと思うし、対抗策がもしかしたらあるかもしれない。


「分かった。なら俺とカリナで一度カロトスに会いに行って来る。ミアたちは旅の支度と、リュリュとシュンへの説明を頼む。あと、リュリュが同行を希望したら断っておいてくれ」


 話を聞く限り、リュリュは巨人を見たら襲い掛かりそうだ。

 止めるとなるとかなりの労力を必要とする。

 逆にシュンは異世界人だからその効果から除外されるだろうし、ヒカリをはじめ、ルリカやセラは正常だということだし、ミアとクリスは大丈夫だと思う。

 特に呪いに関しては、もしかしたらミアの力が必要になるかもしれない。

 俺は転移用の魔道具を作ると、カイナと二人でアルテアに転移した。

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