第567話 ミスリルの剣レベル2
その話を聞いて、ふと頭に浮かんだのはレイラのミスリルの剣だ。
確かあれもレベル表記があって2となっていた。
「見たことあるかも……」
思わず呟いたら胸倉を掴まれた。
「それは本当可かのう!」
ダルクに詰め寄られて離れようとしたけど、残念ながら捕まっているから離れることが出来ない。
ハイネたちが間に入ってくれてどうにか解放された。
「す、すまぬのう。ちょっと興奮してしまった。それで何処で見た?」
その眼光は答えるまでは逃がさないとぞ、と言っているように見えた。
「見たのは聖王国だけど、その剣の持ち主は今……エーファ魔導国家の首都マヒアにいるんじゃないかな?」
確かレイラはマギアス魔法学園を卒業して、母親のいるマヒアに行くって言ってたからな。
冒険者活動を休止したとはいえ、愛刀を誰かに譲ることはないと思うし。
「マヒアか……よし、行くぞ!」
突然立ち上がったダルクをハイネたちが止める。
「離せ! わしは確認してくる」
「無理ですって師匠。そもそも絶対師匠は行けません」
ハイネは絶叫してぶちまけた。
「だって師匠。この村に来たのも、迷子になっていたからでしょう!」
それを聞いたダルクは顔を真っ赤にしている。
あれは恥ずかしいからじゃなくて怒っているからだろうな。
言ったハイネも「しまった」と言葉を漏らしている。
これは血の雨が降るぞと思っていたが、そうはならなかった。
獣人の弟子たちが円らな瞳で見ていたからだ。
ダルクは握り締めていた拳を解くと、大きく息を吐いてドサリと腰を下ろした。
「……分かった。それでソラ、それを借りることは出来るかのう?」
それでも諦めきれないのかそう聞いてきた。
ただ半ば諦めているような感じではある。
魔導国家は獣王国の隣国ではあるけど、マヒアまでは遠い。
行ってその場で見せてくれと頼むのとは違う。
もっとも俺が頼めば貸してはくれるかもしれないけど……。
ダルクたちは俺が転移スキルで飛び回れることを知らないからな。
もっとも今のレイラとすぐに会えるかどうかが分からない。
「借りることは出来るかもだけど……確認するだけなら、別に今すぐにでも出来るかも?」
俺の声にダルクは顔を上げ、ハイネたちは何を言っているんだ的な視線を向けてきた。
実物を持ってくることは出来ないが、俺には複製のスキルがある。
それを使えば短い時間だがこの場にそのミスリルの剣を作り出すことは出来る。
複製スキルは、俺の手にしたことのあるものなら適応するからだ。
「ただし短い時間だから、確認をするならすぐにして欲しい。そうだな……説明するよりも見てもらった方が早いか」
俺は腰からミスリルの剣を引き抜くと皆の目の前に置いた。
「まずこれを見てもらってもいいか?」
ダルクがそれを見ている。鑑定を使って状態も確認している。
「それで、今からこのミスリルの剣と同じものを
俺はスキルを使ってミスリルの剣を複製する。
魔力が体から抜けていき、替わりに手の中にはミスリルの剣が生み出される。
維持出来る時間は一〇分か。レベルも上がってきたけどミスリルの剣はそれなりの上位武器だから維持出来る時間も長くはない。
「なんじゃこれは……」
驚くダルクに俺はミスリルの剣を渡す。
ダルクはそれを手に取ると、しばらく驚きのあまり硬直していたが、ハッとなって先程と同じように見始めた。
十分確認したのか、それが終わると床に置かれた俺のミスリルの剣の横に並べた。
寸分違わぬ二振りの剣がそこに揃った。
ただそれは一〇分後、片方が視界から消えてなくなった。
「今と同じ方法で俺が昔見た剣をここに作り出す。ただ維持出来る時間はもっと短いかもしれないから注意してほしい」
俺の言葉にダルクは頷いた。
俺はすぐには複製をしないで少し時間を置いた。
別にじらしたわけではなく、単純にMPが最大まで回復するのを待ったからだ。
「それじゃやるよ」
そしてMPが完全回復したところで複製スキルを発動する。
複製するのはレイラが使っていたミスリルの剣だ。
それもロードを倒した時に手に取った時のものだ。
先ほどと同じように魔力が減っていく。
さっきよりも減る魔力量が多い。
やはりレベル2だけあるか?
ただ手の中に生まれたそれは、間違いなくミスリルの剣レベル2だ。
鑑定したが間違いない。
「これがそうか!」
俺が鑑定し終えたタイミングで、ダルクが俺の手の中のそれを奪うように取った。
かなり興奮しているようだ。
その剣幕に危ないじゃないかとも言えなかった。
「おお、おお」
とダルクは目を大きく見開いている。
「本当じゃ。まさかまたこのような武器を目にすることが出来るとは」
と涙を浮かべている。
それはダルクの手の中から剣が消えるまで続いた。
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