第566話 レベル2
はあ、と隣で深いため息を吐くものがいた。
「心配し過ぎだって」
俺が声を掛けると、
「ソラは心配じゃないのか?」
とシュンが言ってきた。
シュンが心配しているのは、ライトたちが森の調査に村を発って一〇日が過ぎていたからだ。
もっともこの状態は三日目過ぎたぐらいから続いている。
野営をする準備もしていたし、サイフォンたちからは遠出するとも聞いていたから俺はそれ程心配していない。
もちろんこれがヒカリやルリカたちだけだったら俺だって心配したと思うけど、サイフォンたちが一緒だからだ。それだけ俺のサイフォンに対する信頼は高い。
アルゴは……凄いと頭では分かっているけど、どうしてもエレージア王国の冒険者時代のことが頭に残っているからそこまで高くない。ナンパしてばかりだったからさ。
「今更心配しても仕方ないだろ? むしろそんな気の抜けたことをしてると知ったら逆に何か言われるんじゃないか?」
「そうだぞシュン。やるなら集中しろ」
ハイネに怒られて、シュンは気を引き締めている。
うん、いつものやり取りだ。
ハイネも苦笑している。
その後お昼まで集中して鍛冶をしていると、お昼になってミアたちがやってきた。
手に持つのは弁当だ。
今日はリュリュも同行していた。
ミアとクリスはネルと会った日以外はここにお昼を届けに来てくれている。
「ソラはいいよな」
とシュンに言われたが何を言っているんだ?
「それで調子はどうなの?」
「ハイネさんたちのお陰でだいぶ良くなってきたかな?」
「うむ、二人とも筋がいい」
ハイネがちょっと胸を張って上から頷くと、ダルクに一〇〇年早いと怒られていた。
けど実際ハイネの教えは分かりやすいし、話を聞いて実践するだけで鍛冶スキルの熟練度は上がっていくからかなり凄いと思う。
それに口は悪いけど、ダルクもきっとハイネのことは認めている。
きっと俺たち素人に鍛冶を教えているのを見て、どれぐらい成長しているかを見ているのだと思う。勝手な想像だけど。
「それじゃ午後の作業を始めるぞ!」
お昼休憩が終わったら午後の作業だ。
それを見てミアたちも帰っていた。
ミアたちはミアたちで村の人から料理を色々教わっているそうだ。逆にミアたちも自分たちの知っている料理を教えていると言っていた。
集中して作業すると時間の流れは早いというがまさにその通りだ。
最後の一本を打ち終わった瞬間、どっと疲れに襲われた。
自然回復向上のお陰で少し休めば回復するけど、その間は立っているのもちょっと辛い。
ポーション類で回復出来ないから回復するのを待つ。
歩けば違うんだけど、ちょっと自重している。作業場はある程度広いといえ歩き回ると邪魔になるし。
「んー、なかなか満足のいくものが打てない」
と悩むのシュンだ。
始めたばかりのことを思えば十分な出来だと思うけど、本人は納得がいっていないようだ。
ハイネもその出来には感嘆の声をあげているのにね。
もしかして完璧主義者か?
「ハイネさん、今打った剣を強化することって出来るんですか?」
ウンウン唸っていたシュンは、持っていた剣を置いて尋ねた。
それを聞いたハイネは何を言っているのか分からず困ってしまった。
「何の話をしておる?」
そこにダルクがやってきたため、シュンは同じ問い掛けをした。
「一度打った剣を強化? それは無理じゃな。そもそも強化するなら打つ段階で色々な鉱石や魔石を混ぜて使っておる。それをもう一度打ち直してもそれ以上のものは出来ないし、むしろ劣化品しか作れんぞ?」
シュンはそれを聞いて、
「そうなのですか。やっぱゲームとは違いますね」
と呟いた
「ん? ゲーム? なんじゃそれは」
その小さな声を、ダルクが拾い逆にシュンに尋ねた。
シュンは一瞬しまった、という表情を浮かべたが、仕方なく元いた世界のことを話した。
「ふむふむ、じゃが無理じゃな。そんな方法聞いたこともないわい。じゃが、武器を強化するというのとは別じゃが、武器が強くなることは確かあったのう」
「師匠、それ本当ですか?」
「本当じゃ! といっても、わしも長い人生で一度だけじゃがな。それを見たのは」
疑うハイネに、ダルクは俺たちを見回して言った。
「あれはいつだったかのう。まだこの村に来る前のことじゃ。街で鍛冶師をしてきた時に流れの冒険者がわしの店に来てのう。武器の整備を頼んでいったんじゃよ。その時持ってきた武器が、シュンの坊主が言っていた、レベルの表記された武器じゃったな」
ダルクは鑑定のスキルを持っていたから、その剣の状態も鑑定を使いながら調べていた時に、剣の名前の後にレベルがついていたのが分かったそうだ。
「あれは確か……火竜の剣レベル2? じゃったかな?」
それを見たのは初めてだし、名前の後に普通についていたからそういう名前だと思っていたが、シュンの説明を受けてそれが強化された武器かもしれないと今思ったそうだ。
またそう思った理由に、他の火竜の剣を見たことがあったが、それよりも遥かに性能が良かったというのもあった。
「その時は鍛冶師の腕で性能の差が出たんじゃないかと思っておったなじゃがな」
とのことだった。
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