第564話 ルリカ・視点2

 サイフォンさんたちが合流したところで戦況は大きく変わった。

 サイフォンさんたちが持つ武器は、剣の刃の部分を潰した模擬戦用のものだったけど、あれで斬られても痛みはある。打ちどころが悪ければ命だって落とすことだって。特に今持っているのは金属製のものみたいだ。

 実際攻撃を受けて悶絶している人が増えて戦線を離脱していっている。

 けどまだそれはいい方だ。

 一番被害が出たのはヒカリちゃんの攻撃だ。

 ヒカリちゃんは斬撃を飛ばしながら接近し、最後短剣で斬り付けている。

 あれは斬られると麻痺状態にするからそれはいい。

 問題は斬撃の方だ。

 一応当たっても斬れていないように調整しているみたいだけど、鈍器で殴られたような鈍い音が鳴っている。

 しかも的確に急所を狙っているのか、サイフォンさんたちに倒された人たちと比べると痛がっているようにも見える。

 全ての敵? が倒れると、一人一人回って短剣で斬り付けるのも忘れない。

 ジッと見て、麻痺の効果があまり出ていない人にはもう一度短剣を刺している。

 徹底しているというか容赦ない。

 途中からサイフォンさんたちはそれを見て顔を引き攣らせていた。

 けどヒカリちゃんは全てが終わると、実に満足そうに頷いていた。

 まあ相手が相手だから、念入りにやるのは間違ってはいないけど。

 その後は念のため拘束具をつけて自由に手が使えないようにした。

 そこまで終わってサイフォンさんが振り返った。

 向ける視線の先には巨人たちがいる。

 私は改めて巨人を見たけど、その顔からは色々なことが見て取れた。

 警戒、安堵、困惑。様々な感情が浮かんでいる。

 どうするのか見守っていると、リーダーなのか、その中の一人が前に出てきた。

 といっても近付いて来たわけではなく、一定の距離を保った場所で立ち止まった。


「お前たちは何者だ? ここには何をしに来た?」


 それが巨人、キトスの第一声だった。

 言葉が分かるということは魔物ではないことがはっきりした。

 人型の魔物の中には言葉を話すものはいたりするけど、滅多にいない。それこそネームドモンスターぐらい?

 それに私が魔物じゃないと思ったのは、やはりカイナやカロトス様を知っていたからだ。

 もっともこんな場所で会うとは思わなかった。そもそも生き残りがいることが驚きだった。


「俺たちは冒険者だ。そして……」


 サイフォンさんが代表して私たちがここに来た理由の説明をしている。

 その話を聞いたキトスの表情は固い。

 いや、他の巨人にもサイフォンさんの声が聞こえているようで、不安そうにこちらを見てきている。

 話を聞き終えたキトスはどうするか悩んでいたが、巨人たちの方から声があがった。

 それは二つに分かれている。

 私たちに対して悪意ある言葉と、不安に嘆く声だ。

 キトスはその声を受けて、再び口を開いた。


「お前たちは何ともないのか?」


 その言葉にサイフォンさんは首を捻った。

 するとキトスは再び悩んでいたようだけど口を開いて説明を始めた。


「俺たちは呪いを受けている」と。



 キトスの説明を聞いて、サイフォンさんが胸を押さえた。

 何か心当たりがあるようだ。

 だけど私にはない。

 別にキトスたちを見ていても何か悪い感情が湧き上がってくることはない。

 周囲を見ると、サイフォンさんと同じようにガイツさんとユーノさんも浮かない顔をしている。

 逆にセラにヒカリちゃん、あとはカエデさんたち異世界召喚組は大丈夫なようだ。

 キトスの説明によると、キトスたちは遥か昔に呪いを受けたそうだ。

 正確にはキトスたちご先祖様が。

 それは世代を超えて脈々と受け継がれていっているそうだ。

 その効果はキトスたち巨人族を見たものは、敵意を持って襲い掛かってくるというものらしい。

 それはキトスたちが代々教えられてきたことだけど、半信半疑で信じている者は殆どいなかった。

 キトスも話半分に聞き、そんな馬鹿なことがあるかと思っていたそうだ。

 けどそれを思い知ることとなる事件が起こった。

 そもそもキトスたちは昔からこの地に住んでいたが、彼らの存在を知る者は今も昔もいなかった。

 それはキトスたちの村が外界からの干渉を受けないように、強固な結界が張られていたからだ。

 それがある日突然消えた。

 理由は分からないそうだ。

 ただ結界が消えてから何日か経ったある日。魔物の群れに襲われた。

 それからも村に魔物がやってくることが増え、言い伝えは本当のことだったと理解したそうだ。

 私はそれを聞いてアルゴさんたちを見た。

 拘束されて動けないけど、その目は険しい。キトスたち巨人を睨んでいる。

 そしてそれを受けて巨人たちも、排除すべきという意見と、村に帰って年長者たちに意見を仰ぐべきだという意見に分かれていた。

 特に排除派の声は大きく、無理に押さえつけると暴れるんじゃないかと思うほどの勢いがあった。

 ただその必死さの中に渦巻くものがあるのが私にも分かった。

 それは不安だ。


「サイフォンさん……」


 私はサイフォンさんを見た。

 ナオトさんたちもサイフォンさんに視線を向けた。

 今リーダーとなる存在はサイフォンさんしかこの場にはいないからだ。


「そうだな……」


 サイフォンさんが選んだ選択は、とりあえず拘束具をつけて村に行き、話を聞くと言うものだった。

 たぶんここで抵抗したら、犠牲が多く出ると判断したからなんだと思う。

 それは自分たちだけでなく、巨人たちに対する配慮なんだと思う。






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