第563話 ルリカ・視点1
声を上げて駆けて行くアルゴさんたちを見て、その異常な光景に一瞬行動が遅れた。
すぐにサイフォンさんの声で我に返り頭を働かせた。
今から追い掛けて追い付くのは困難だ。
正確には追い付いてアルゴさんたちを止めれるイメージが湧かない。
それだけの差が、この一瞬の間に出来てしまった。
巨人とオークとの戦いを見て分かったが、巨人は容赦がない。
ただ理由は分からないけど、巨人は自分たちに近付かない限り打って出て来ない。
何より巨人たちに浮かぶ表情が気になった。
それは怯えだ。
オークを殺している間も、何処か苦しそうに私には見えた。
だから余計に巨人に近付かせないようにと考えるわけだけど……一つだけそれが出来るかもと思わせる考えが浮かんだ。
けどそれは極めて危険な行為だ。
私はチラリとガイツさんを見た。
その時ちょうど盾を構え、顔を上げたガイツさんと目が合った。
「……前に回り込めるか?」
ガイツさんがそう尋ねてきた。
ガイツさんたちにはスキルのことを話していた。
模擬戦をやる時に色々と戦術的なことや戦い方を相談したりするからだ。
ただ問題もある。
私のスキル疾風なら十分にアルゴさんたちと巨人の間に移動することは可能だ。
私が触れさえすれば人も私の体の一部と判定されて運ぶことは可能だ。私にかかる負担は大きくなるけど我慢出来ないことはない。
問題はその後だ。
たぶん人を運んだ反動で私はまともに動けなくなると思う。
そうなるとガイツさん一人でアルゴさんたちを止めないといけなくなる。
巨人たちの前に立ち塞がるガイツさんを、アルゴさんたちがどうするかが分からないのも不安材料だ。
アルゴさんたちから発せられた雰囲気は明らかにおかしかったのだ。
無視して先を目指すのか、邪魔者だと排除にかかるのか分からない。
後者ならまだいいけど、前者だとさすがに盾使いの達人のガイツさんでも耐えらえる気がしない。
「いやな感じがした。ルリカ、運んでくれ」
迷う私に、今度ははっきりとそう言ってきた。
私がガイツさんを見ると、力強く頷き、
「それと……カエデも手を貸してくれ」
とカエデさんにも頼んでいた。
カエデさんは普段槍を使って戦うけど、どちらかというと守備的な戦い方をする。
あとは守備的なスキルを多く使うのを、魔物と戦っている時に見た。
頼まれたカエデさんが考えたのは一瞬、
「分かりました。コトリは精霊魔法で援護をお願い。ミハルは……」
と指示を出していた。
「それでは行きます」
ガイツさんとカエデさんが私の近くまで来た。
私は右手と左手で二人の体に触れる。
目的地はアルゴさんたちと巨人たちの間の空間。
ただ巨人たちに近付きすぎても駄目だ。
先ほどのオークたちとの戦いを思い出す。特に巨人たちが前に出た時のことを。
……あそこまでなら大丈夫だ。
私はそこよりももう少しこちら側に視線を向ける。
その時サイフォンさんたちの背中も見えた。
足止めが出来て時間が稼げれば、サイフォンさんたちも合流出来るはずだ。
私は大きく息を整えてスキルを発動した。
景色が一瞬で通り過ぎていった。
それは時間にしてあっという間の出来事だった。
けど私は足裏に地面の感触を覚えた瞬間、体から力が抜けていくのが分かった。
倒れそうになった私の手を取ってくれたのはカエデさんだ。
「大丈夫?」
私は頷こうとして上手く出来なかった。
それこそ支えられていなかったらそのまま倒れていたと思う。
たぶんスタミナが枯渇した。
「あとは任せろ。カエデは補助魔法とルリカの警護を頼む」
ガイツさんはそう言うと盾を構えた。
そこで使うのは複数のスキルだ。
挑発でアルゴさんたちの気を引き、さらにオーラシールドで守備範囲を広げていた。
さらに知らないスキルもいくつか使っていくけど頭が上手く働かない。
私はゆっくりとその場に膝を突き、アイテムポーチから活力ポーションを取り出して飲んだ。
倦怠感が少しだけ緩和されたけど駄目だ。
手を握ったけど殆ど力が入らない。
これだと剣もまともに握れない。
自分の体の状態を確認していたら金属音が聞こえてきた。
顔を上げるとガイツさんがアルゴさんの攻撃を受け止めていた。
さらに横からライトさんたちの武器がガイツさんを狙う。
それを身を引いて躱しながら、盾を素早く動かして攻撃を弾いている。
何度か危ない場面もあったけど、そこはカエデさんが絶妙なタイミングで援護に回っていた。
盾を投擲しているんだけど……あ、チェーンで繋がっているのね。
激しい攻防は数分間続いた。
ガイツさんを無視して巨人を目指そうとする人もいたけど、ガイツさんがそれを許さない。
ただ明らかに劣勢だ。
全ての攻撃を防ぎきることが出来ずに、体に傷が増えていっている。
このまま続けば突破されてしまうと思ったがそうはならない。
「待たせな、ガイツ」
とサイフォンさんたちが追い付いたからだ。
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