第561話 サイフォン・視点1
「おい、サイフォンどうした?」
「ああ、いや、人生何があるか分からないと思ってな」
「確かに王都で会った俺たちが、獣王国の武闘大会に一緒に出て、今度はこんな辺境まで来てるなんてな」
俺の言葉にアルゴが苦笑した。
全くその通りだ。
ソラたちといると息つく暇がないほど忙しい。
昔はダンジョンで大金を稼いでゆっくり過ごすなんて考えていたジンたちも、今もこうして冒険者としての活動を続けているしな。
「それでサイフォン、準備はいいのか?」
「ああ、大丈夫だ。っていっても、俺たちは装備の整備ぐらいだしな」
ソラたちが本格的に鍛冶を習うことになった。
その間手が空く俺たちは、ライトたちに誘われて森の調査に行くことになった。
俺たちゴブリンの嘆き以外にアルゴたちも参加するし、ナオトやルリカたちも同行することになった。
「問題は飯だな……」
今回は数日かけて森の奥に行くことになっているから、どうしても野営をすることになる。
その間自炊する必要があるのだが、ソラをはじめとした良く料理する組が参加しないのもあってちょっと心配もある。
それを考えるとソラの収納魔法とか万能過ぎるよな。出来立ての状態を維持してくれるから。
一応俺たちが持っているマジック袋でもそれなりに保存出来るが、量の問題とか色々あるからな。
「まあ、大丈夫だろ。ルリカも料理出来るって話だし、ユーノも習っているんだろ?」
アルゴの言う通り全く出来ないわけではない。いや、俺は出来ないし、アルゴたちも料理関係は全滅だけどよ。
ソラたちに出会う前なら保存食で十分だろうだったが、今はそれだと味気なく感じるようになったからな。
「まあ、その時になったら考えればいいだろうよ」
どうせ今更考えても仕方ない。
あ、ただヒカリの嬢ちゃんには一人で料理させないようにソラに言われたな。
それを聞いて、昔フレッドから聞いたダンジョンでの料理エピソードをふと思い出したものだ。
杞憂していた食事の件に関しては大丈夫だった。
「私だってクリスと一緒に旅をしていた時は料理していたんですからね」
とルリカが頬を膨らませていた。
いや、ただ褒めただけだろ?
あとはヒカリ嬢ちゃんの肉焼の技術は凄かった。
絶妙な焼き具合で手が止まらなくなるところだった。
「肉は任せる」
褒めたら得意げに言っていた。
確かに美味かったから今後も任せて大丈夫だと思う。
「今日はここで野営をしよう」
日が暮れたところでライトが言ってきた。
森に入って二日。未だ魔物との戦闘はない。
そもそも遭遇していない。
オルガに尋ねたら魔物の気配が全くないって言っていたからな。
料理が出来ない俺たちはそそくさとテントや罠の準備する。
罠と言っても仕留めるようではなくて、魔物などの外敵が近付いたら分かるという感知型のものだ。
あとは効果があるか分からないが、木にロープも張る。
これで近付くまでの時間を稼ぐという奴だ。
森の中は日中は暑いが夜は冷えるから、テントを設営しているから、急な襲撃だと出るまでに多少の時間がかかる。
もちろん見張りもするけど、色々なことを想定して対処しておかないと、魔物などの外敵に襲われた時に命を落とす危険度が上がる。
もろもろの準備が終わると食事が始まる。
一番人気なのはヒカリ嬢ちゃんが焼く肉だ。特にライトたち獣人に好評だ。
俺はライトたちを眺めながらふと思う。
獣王国に来てからかなり獣人に対するイメージが変わった。
エルド共和国やフリーレン聖王国、エレージア王国で会った獣人の冒険者は、戦うための技術は皆無で、殆どが元々の身体能力を任せの戦いをする者が多かった。
それが武闘大会で多くの獣人を見て、しっかりした技術を持った者と多く会った。
もちろん力任せの奴もいたけど、そいつらは武闘大会では早々に退場していったな。
俺はスープを一口飲むと、ルリカと談笑するセラを見た。
セラと初めて会った時は、まさに俺が今まで見てきた多くの獣人の戦い方のそれだった。
あとで聞いたら黒い森で戦闘奴隷としてとにかく生き残るために必死に戦っていたから、どんなことをしても殺すという戦い方になったらしかった。
それが二度目に会った時は圧倒的な力強さはそのままに、洗練された戦い方へと変わった。
その理由はソラたちと旅をして良く分かった。
とにかくに時間があれば模擬戦をする。
王国にいた時はそんなイメージはなかったが……いや、ソラと一緒に活動するようになってからは、良くソラと一緒に鍛練所にいるのを見掛けたな。
それもあってか今のセラは対人戦もかなり強くなっていた。
それでも経験の差か、ルリカやヒカル嬢ちゃんの方が対人戦では強いけどな。
あの二人は駆け引きが巧妙で、嫌なところを突いてくるんだよな。気を抜けない相手に成長している。
ガイツの奴も褒めていたしな。
そして俺たちは交代で見張りを行い、翌日さらに森の奥へと足を踏み入れて行った。
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