第560話 ミア・視点

 リュリュの説明を受けて、彼女の友達のネルが緊張していた理由が分かった。

 神気を感じた、か。

 それに鍛冶の工房がある方からも感じると言っていたし間違いない。

 私はソラが言うには種族が神人になったと言っているし、それが影響しているのだと思う。

 クリスもエリアナ様の加護を受けているみたいだし、カイナはカロトス様の直属の眷属だしね。

 何処まで話していいか分からないけど、誤解は解いておいた方がいいよね。

 ううん。今後のことも考えてエルザちゃんたちにも話しておいた方がいいと思う。

 ただ私の一存で決めることは出来ないから、クリスとカイナと相談することにした。

 ソラは……あとで報告すればいいかな?

 私たちは少し席を外させてもらって三人で話し合った。


「……この場にいる人だけに留めてもらえたらいいと思います」


 クリスが一番心配していたのは、この話が獣王様に行くことのようだった。

 あー、ダンジョン攻略を神様から頼まれたなんて言ったら、


「俺も手伝うぜ!」


 なんて言ってついてきそうだもんね。

 ネルだけに話すことも出来るけど、既にリュリュは神気のことを聞いているし、帰ってからリュリュがお姉さんに話したら面倒になるから、ここで説明しておいた方がいいというのがクリスの意見だだった。


「とりあえず今から話すことは、他の人には言わないでね」


 と五人に言った。

 エルザちゃんとアルトは大丈夫だろう。シズネは……エルザちゃんたちから念を押して頼んでもらおう。

 他言したら絶交とかエルザちゃんに言ってもらったら大丈夫な気がする。

 もっともその辺りはシズネも分かると思うから必要ないかもだけど、念には念にね。


「リュリュ、お姉さんにも話しちゃ駄目だからね?」


 ちょっと脅す様な感じで言ったら、ネルが畏まってリュリュに言い聞かせていた。

 何か悪いことをしちゃったかもしれない。

 ネルの顔は真っ青になっていた。

 そしてネルが落ち着いたところで、神気が私たちから感じられる理由を説明した。

 まず私だけど、元聖女で、この身に女神を降臨させたことがあったことを話した。


「私から神気が感じられるのは、その影響かな」


 エルザちゃんとアルトは物凄く驚いていた。

 それ以上に驚いていたのはネルだけど。


「そんなことが……確かにエンド様には内緒っすね」


 リュリュは苦笑していた。

 だよね。


「もしかしてそれでソラさんは鍛冶を習いたいとか言い出したっすか?」

「うん、今後のことも考えてだと思うよ。私たちが踏破出来たダンジョンはまだ一つだけだしね」


 残り六つのダンジョンか。既に攻略済みのダンジョンは情報があるからいいけど、まだ攻略されていないダンジョンもいくつかある。

 そういうところはマジョリカのダンジョンみたいに調べながら進まないと行けないから、どんなことが起こっても対処出来るように準備する必要がある。

 ボス部屋みたいに逃げることが出来ない仕様ではない限り引き返せばいいけど、罠に掛かった時などそれが出来ない状況だって起こり得る。


「けどネルは神気を感じることが出来たけど、神様の声を聞いたりするの?」


 私も神託で女神……様、の声を聞いたことがある。


「あー、一応あるのですが……」


 なんか困った表情をされてしまった。


「おいら知っているっす。姉ちゃんに聞いたことがあるっす。確か……良く分からない呟きを聞いたって言ってたっす」


 それを聞いたネルも頷き、


「何年かに一度なのですが、お腹空いたーとか、殴りてーとか、そんな声を聞きます」


 と言った。

 声は男性のものだということで、女神やエリアナ様ではなさそうだ。

 なんか声というか寝言みたいな感じだ。


「たぶんそれはスティア様です。カロトス様から話を聞いたことがあります」


 カイナがその短い言葉から、誰かを教えてくれた。

 何でも犬神であるスティアなら、そう言うことを言ってもおかしくないとのことだ。



 話が一段落したところで、ネルもだいぶ落ち着いてきた。

 まだ多少の緊張はあるけど、最初に比べれば雲泥の差だ。

 そこでリュリュに頼まれて街で買ってきたお土産をアイテム袋から取り出した。

 それは中央都市で買ってきたスイーツ類で、朝にソラから渡してもらったものだ。


「ふふ、街で買ってきた美味しいものっす。ネルも気に入ってくれるはずっす」


 目の前に並ぶ前にネルは目を輝かせていたけど、すぐに姿勢を正して断ってきた。


「私だけもらうわけにはいきませんから」


 と言ってきた。

 けどリュリュはそれも分かっていたようで、


「大丈夫っすよ。村の人たちの分もあるっすから!」


 リュリュが私の方を向いて言ってきたから、


「ええ、そこはリュリュに頼まれて皆の分を買ってきたわ」


 と私は頷いた。

 それを聞いたネルは、やっと一つのスイーツに手を伸ばした。

 一口すれば、目を大きく見開き驚いている。

 けどすぐに続きを食べ始め、瞬く間に食べてしまった。

 美味しいとそうなるよね。

 私は分かると内心頷いた。

 ただ皆に見られていると思ったネルは恥ずかしかったのか顔を赤らめている。


「まだたくさんあるからゆっくり食べましょう。ほら、エルザちゃんたちも」


 私たちが食べ始めると、ネルも一緒になって食べ始めた。

 そして完全に緊張がとれたのか、それからネルは村でのことを、リュリュは街でのことを、私たちは旅先で見たことを話しながら、ゆっくりとお茶会を楽しんだ。

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