第559話 ネル・視点

 ライトからリュリュが帰ってきたことを聞いた。

 尊敬するネネ様の妹で、私の親友だ。

 リュリュはネネ様が村を離れる時に一緒について行った。

 別れるのは寂しかったけど、仕方ないと思った。

 だってリュリュはネネ様のことが大好きだったから。

 私はそれを聞いてすぐにでも会いに行きたいと思って外に出たけど、結局引き返した。

 うん、到着したばかりできっと疲れているものね。と自分に言い聞かせた。

 私はネネ様の後を継いで神舎の主人になったけど、別に閉じ込められているわけではないからここから出ることは可能だ。

 村から遠く離れることは出来ないけど、基本自由だ。

 ただ神舎にいる時が一番安心出来るから、基本的にその周囲で生活している。

 籠っていると体に悪いから、たまには外に出るように逆に言われほどだ。


「会いに行かないのか?」


 とライトに言われたけど、私は無言のまま頷くことしか出来なかった。

 だって彼女の周りには……。

 それが私の足を止めた。



 リュリュが村に来た三日後、彼女が会いに来てくれた。

 心境的についに来てしまったというのが正しいかもしれない。

 いや、リュリュだけだったら大丈夫。むしろ一人で来て欲しいとさえ願っていた。

 その願いは残念ながら叶わなかった。

 ライトがリュリュを連れてきた人たちと森に遠征に行くと聞いていたから、もしかしたらと思ったけど……。

 だから私は緊張していた。


「ネル久しぶりっす」


 楽しそうなリュリュを見て頬が緩んだ。

 けどすぐに背筋を伸ばして気を引き締める。


「? どうしたんすか?」


 不思議そうにリュリュが首を傾げる。

 私はそんなリュリュに視線を集中する。

 出来るだけ見ないようにしようと努めるけど駄目だった。

 私は大きく深呼吸をして口を開いた。


「リュリュ、久しぶりって……あれから何年経っていると思っているの?」


 私の声はかすれていた。

 だって緊張で口の中が乾いているんだもの。カラカラよ。


「何年っすかね? 細かいことは気にしない方がいいっすよ」


 昔はこんなことを言わない子だったのに、街に行って大雑把になってしまったような気がする。


「うん、それで今回はどうしたの?」

「実はじい様に会いにきったすよ。紹介してやったっす。それでお役御免になったからネルに会いにきたっす。あ、お土産もたくさんあるっす」


 リュリュはコロコロと表情を変えて楽しそうだ。

 お土産って何だろう?

 また服とかかな?


「リュリュ。会えて嬉しいのは分かるけど、私たちのことも紹介して欲しいな」


 お土産が何かを考えていたらそんな声が聞こえた。

 その声は小さいけど、耳に良く響いた。


「ん? ネルどうしたっすか? それより紹介するっす。おいらの友達のネルっす」


 私はゆっくりと彼女たちを見て、


「ネルです。よろしくお願いします」


 と緊張しながら頭を下げた。


「別に緊張しなくていいよ。私はミア。よろしくね」


 ミア様に続き他の人たちも自己紹介をしてきた。

 ミア様にクリス様、カイナ様にシズネさん、エルザちゃん、アルト君の六人だ。

 私は特に三人に視線をやり息を呑んだ。

 間違いなくこの方たちは……。


「? ネル本当にどうしたっすか?」


 リュリュに声をかけられてハッとした。


「いえ、その、ごめんなさい」


 もう焦って頭が混乱して、とりあえず謝ることにした。

 突然の私の行動に六人は驚いているようだったけど仕方ない。

 だって、だって……。


「ちょっとどうしたっすか?」


 リュリュが心配そうに顔を覗き込んできたから私は彼女を連れて六人から離れると聞いた。


「ねえ、リュリュ。ネネ様から何も聞いてないの?」

「姉ちゃんっすか? 何のことっすか?」

「あの三人……ミア様とクリス様、カイナ様のことよ!」

「特に何も言ってなかったすよ」


 そんな……まさかここを離れたことでネネ様は力を失ったということですか?


「それよりミア様とかどうしたっすか? ミアで大丈夫っすよ」

「お、恐れ多いです」

「恐れ多いって……あ、そう言えば姉ちゃん。エンド様がソラたちと会いに行くって行った時に、城内にいるにもかかわらずついてこなかったすね」


 それだ! 間違いなくネネ様は分かってたんだ。

 そうですよね。あんな神気を発する人たちを前にしたら、緊張しますよね。


「あの三人は何者なの?」

「冒険者っすよ。何でそんなことを聞くんすか?」


 私は神気のことをリュリュに一応説明したけど、たぶん分かっていない。

 だってこれは普通の人にはたぶん感じられないから。

 事実リュリュは首を傾げていて、あろうことかミア様たちに私が感じていることを話し出した。

 突然のことに私は止めることが出来なかった。

 もし神気のことを隠しているようだったら……私はそのことを思い身を震わせた。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る