第558話 鍛冶・3

「流れ人か……噂では聞いたことがあるのう」


 異世界から来たことを話すと、ダルクは納得していた。

 何でも異世界から来た者の中には珍しいスキル持ちがいることを、噂程度だが耳にしたことがあったからみたいだ。

 その後俺たちはハイネからやり方を教わることになり、その日は道具や鍛冶の仕方などの基礎的な説明を受けて終わった。


「続きは明日じゃ。また朝になったらこい」


 帰る時にはシュンはかなり疲れていた。


「久しぶりに頭に色々詰め込んで疲れたかな。ソラは平気なの?」


 俺の場合はスキルのお陰で分かるから覚える必要がないんだよな。

 そのことを伝えると狡いと言われてしまったが、こればかりは仕方ない。



「今日もソラたちは工房に行くんだよね?」


 朝食を済ませた時にミアから聞かれた。


「そのつもりだよ。ミアたちはどうするんだ?」

「私たちはリュリュの知り合いに会いに行って来るよ」


 ミアの話では、リュリュの姉の後を継いだ巫女に会いに行くそうだ。

 ちょっとどんな人かは気になるけど、今は鍛冶を覚えることを優先したいから行けない。

 村にいる間に一度でも会えればいいしな。


「それでその弁当とかはどうしたんだ?」

「あー、これはサイフォンさんたちに頼まれたの。ライトさんたちと遠出するって言ってたから」


 そういえば昨日の夜に、ガイツからそんな話を聞いた気がする。

 ライトから森の様子が少し変だから、泊まりの遠征に行くことを聞いてそれについて行くことにしたと。

 それはサイフォンたちだけでなく、ルリカたちも行くそうだ。

 だからこの村に残るのは、俺とシュン、ミアとクリスにシズネたちだそうだ。

 カエデにミハル、コトリも同行するのには驚いたけど、ナオトがサイフォンたちについて行く理由はそこにあるのか。

 シュンもそれを聞いて悩んだようだったけど、結局行くのは諦めて鍛冶を優先することにしたようだ。

 何度もナオトにミハルのことを頼むと言っていた。


「まあ、サイフォンたちもいるから大丈夫だよ」


 心配するシュンにそう声を掛けながら工房へと向かう。

 昔の俺だったらもっと心配したと思うけど、今では頼もしさの方が強いからそれほど心配していない。

 経験豊富なアルゴもいるし、危険だと思ったら引き返してくるだろうし。

 午前中はそういうこともあって、シュンは何度もハイネから注意されていた。

 心ここにあらずといった感じだった。

 それでも途中でそれでは駄目だと思ったようで、頬を叩いて気合を入れるとそれからの集中力は凄かった。

 スキルもないのにハイネの言葉を理解して、ミスすることなく鍛冶の手順を覚えていった。

 それにはハイネも驚いていた。


「正直言って二人は筋がいいね。僕が始めた頃に比べても、全然出来ているよ」


 ハイネの言葉に、一緒に休憩していた獣人の鍛冶師たちも頷いている。

 本当に凄いのはシュンだろうな。

 俺の場合はスキルの恩恵だから、ある意味出来て当然なところがある。


「これならもうちょっと厳しくしても大丈夫そうかな」


 とハイルに言われた時は、さすがにシュンも顔を引き攣らせていたけど。

 それでも作業が始まると集中してテキパキと動く。

 俺も負けじとハイネの言葉に耳を傾け、鍛冶のスキルが補完してくれる内容に従って作業を続ける。

 火の入れ方や水の使い方。叩き方など教わることは多い。

 それも使う材料によって変化する。

 また複数の材料を混ぜる手順や、それによって変わる作業方法などもハイネは教えてくる。

 こんなに厳しいものなのかは基準が分からないから、とにかくハイネの言葉に従う。

 また作業をしていて必要なものを考えるのも忘れない。

 一番の問題はこの熱だ。まずはこの熱さをどうにかしないと辛い。

 室内を冷ますと炉の温度が下がるからそれが出来ない。

 なら体を冷やすしかない。

 イメージするのは冷却シートのようなものだけど、この熱でも冷え続けるものじゃないと意味がない。

 俺だけなら改善方法というか、その防ぎ方のアイデアはある。

 体を魔力で多い、その魔力を水に変化させて熱を防ぐ方法だ。

 実際にやってみると……出来たけどさらなる問題もある。

 それは長時間それを維持するのが辛いということだ。

 ただ涼しくするだけならたぶん長時間出来る。

 けど炉の火が上がるごとに、体を冷やすために必要な魔力が多く消費されるから、MPの減りが激しくなる。

 MPがなくなれば維持することは出来なくなるから解除すると、今まで防いでいた熱が一気にくるから普通の時よりも熱への負担を感じる。

 ここはやりながら少しずつ熱に慣れて行くしかないのかもしれない。


「熱くないかって? そりゃー少しは熱いけどもう慣れたかな?」


 ハイネに聞いたらそんな答えが返ってきた。


「それにこの熱を肌で感じることで火の強さを感じ取るものだからね。火と対話しながら打つことが何よりも大事なんだよ」


 とも言われてしまった。

 んー、けど俺の場合はスキルのお陰か、適正温度などの指示が頭に浮かぶんだよな。

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