第557話 鍛冶・2
「剣を打ちたい、じゃと?」
「剣というか、鍛冶を体験してみたいんだが……」
「……ふむ、ならやってみるか?」
断られると思ったが、予想外の言葉が返ってきた。
「ハイネ!」
呼ばれたのは一人のドワーフだった。
「こいつに鍛冶の仕方を教えるがよい。教えることも勉強になるしのう」
ハイネは最初戸惑っていたが、「勉強になる」の言葉で深く頷いた。
「あ、あの。僕も教えてもらいたいんだけど」
するとシュンがそんなことを言ってきた。
「お主もか?」
「はい、少しでも上手く武器の整備とか出来ればと思って。僕の使う武器は基本そういうのは必要ないみたいだけど、それでも知っておきたくて」
シュンの武器という言葉にダルクが興味を示した。
シュンはダルクに頼まれて武器を見せると、
「む、これは……竜の牙で打った武器じゃのう」
シュンの話では、フォルスダンジョンの最奥で倒したドラゴンの素材から打った武器だそうだ。
「なるほどのう。微弱ながら再生能力がついておるようじゃのう。確かにこれなら整備は必要なさそうじゃが……」
「……興味というか、何か自分で出来ることを増やしたいんです。それで色々体験出来たらなって思って」
そんなことを考えていたのか。
「……よかろう。お主は強い武器が欲しいみたいなことが手紙にあったのう」
シュンから俺に視線を移してダルクが尋ねてきた。
「自作出来れば一番いいと思ってる。あとは鍛冶の知識があれば、今の武器に上乗せして強い武器を作れるかもしれない、って思ったからかな?」
錬金術で武器を作ることの利点は、簡単に作り替えることが可能だという点だ。
もちろん鍛冶と比べてだけど、時間もそんなにかからない。
鍛冶でも打ち直しは出来るかもしれないけど、大変なイメージがある。
「今の武器のう……お主はどんな武器を使っておるんじゃ?」
「普通のミスリルの剣だよ」
俺は鞘から引き抜いたミスリルの剣をダルクに手渡した。
「ふむ、確かにミスリルの剣……じゃのう?」
ダルクはまじまじとそれを見ていたが、徐々に眉間に皺を寄せていった。
「お主、これは誰が打ったものじゃ?」
「? これは俺が作ったものだよ」
「お主が作った? どうやってじゃ」
突然の大声で驚いた。
それは俺だけでなく、シュンもハイネも、他に作業しているドワーフの人たちも同様だった。
それどころか外まで声が聞こえたのか、ミアたちが外からこちらを覗き込んでいた。
「じい様、何かあったっすか?」
「いや、何でもない。ちょっと驚いただけじゃ」
ダルクは一つ大きく息を吐くと、
「お主、これをどうやって作った? 鍛冶ではないのう」
「えっと、錬金術で作ったんだけど……」
「錬金術でじゃと!」
先ほどのことがあったからか、声は抑えられていたけどダルクは少し興奮しているように見える。いや、興奮というか困惑?
俺は説明するのも面倒なので、とりあえずアイテムボックスから余った鉱石を取り出すと、それに魔力を流して一本の短剣を作ってみせた。
それを見たダルクは……いや、ハイネも目を大きく見開いてて俺の手の中の短剣を見ていた。
「本当に作りおった……」
ダルクは震える手で俺が作った短剣を手に取ると、それを色々な角度から調べていたが、
「なるほどのう」
と言ってハイネにそれを渡すと、落ち着きを取り戻していた。
その変化に俺が戸惑っていると、
「確かに錬金術で武器を作った時は驚きもしたがのう。あれには決定的な欠点があるようじゃ」
と言ってきた。
「欠点?」
「お主が言っていたじゃろう? 強い武器を作れるようになりたいと。たぶんじゃが、錬金術で作った武器は鍛冶で作った武器よりも性能が劣るようじゃ」
錬金術の限界か……。それならやはり鍛冶スキルを覚えて、一から武器を打てるようにならないと駄目か。
そんなことを考えていたら、短剣を見ていたハイネが口を開いた。
「師匠、それは違うと思います」
「違うじゃと?」
ダルクに睨まれてハイネは一瞬怯んだが、
「はい、それは師匠レベルだからそう思うんです。俺もこれよりは良いものは打つ自信はありますが、一般的な鍛冶師レベルと比べると十分及第点以上の出来です」
とはっきり言った。
それを聞いたダルクは大声を上げて笑った。
「なるほどのう。確かにその通りじゃ。しかし錬金術で武器を作るか……錬金術というのはそんなことも出来るものなのかのう?」
「少なくとも俺は聞いたことがないですよ、師匠。ここに来る前には錬金術を使える友達も何人かいましたけど」
二人の視線が俺に注がれる。いや、シュンもか。
確かに俺の錬金術は普通とは違う。
それはクリスたちからも言われたことがある。
ただ説明が難しいんだよな。
そもそも出来てしまったわけだから……。
あとは……異世界召喚された異世界人による特性と説明すれば納得してくれるだろうか?
今になっては異世界から来たことは特に内緒にしていないけど……一番納得してくれる理由かもしれないな。
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