第556話 鍛冶・1

 翌朝食事を済ませると、早速鍛冶師のダルクを訪れるため出掛けた。

 さすがに全員で行くのは邪魔になるかもしれないということで、俺たちとナオトたちパーティー+ユーノで行くことになった。

 それでも人数は十人を超す大所帯ではあるのだけど。

 サイフォンたちは昨日のうちにライトと打ち合わせをしていたみたいで、森の周辺を見回るらしい。

 リュリュに案内されて行ったダルクの工房はちょうど俺たちが家を建てた場所の反対側にある。

 さらに工房の周辺は畑になっていて、他に家が一軒もない。

 ダルクの住まいは別の場所にあり、作業する時だけこちらに移動しているらしい。

 それは工房に何かあった場合に被害が拡大しないように、他の家と離しているとのことだ。

 鍛冶はダルクを中心に、弟子が数人いるそうだ。

 その中にはドワーフもいるが、彼らは他の場所から弟子になるためにわざわざフクスト村まで足を運んだそうだ。

 ちなみに弟子入りの条件は、一定水準の技術や知識がないと駄目らしい。

 ただここでいう一定水準はかなり厳しいようで、それこそそれがあれば自分の工房を立ち上げることが出来るレベルらしい。

 逆にフクスト村からの希望者に対しては、特にそのような基準は設けてないとのことだ。


「おお、おお。リュリュか、久しいのう」


 俺たちが工房を訪れた時の第一声がこれだった。

 厳つかった顔は瞬時に変わり、頬が緩んでいる。

 なんかあの顔見覚えがある。

 確か母親の実家に帰郷した時に見たことのある顔だ。


「ライトから話は聞いておる。獣王の奴からの手紙も読んだ。だがわしの方針は分かっておるじゃろう?」

「それは分かっているっすが……そこを曲げて欲しいっす……」


 リュリュが目を潤ませて見上げるとダルクはたじろいだが、


「け、見学は認める。あと、弟子たちに聞くのは勝手にせい」


 と言ってドスドスと足音を慣らして工房の奥へと進んで行った。


「無理だったっすか……」


 リュリュとしてはダルクの手解きを受けさせたかったようだけど、話を聞ける許可を取り付けてくれただけでも大きいと思う。

 だって弟子とは言っても、その腕は確かみたいだし。

 ここは贅沢を言うところではない。

 それに試したいこともある。


NEW「鍛冶Lv1」


 新しく鍛冶のスキルを昨日の夜、習得していた。

 これは料理スキルと同じようで、鍛冶に関することをアドバイスしてくれるスキルのようだ。

 本当だったら自分で鍛冶をするのが一番いいのだけど、まずはダルクたちの作業を見学させてもらう。

 ダルクは勝手に聞けと言ったけど、作業している間は皆忙しく動き回るから、口を挟む余裕がないからだ。

 下手に質問すると、作業の邪魔をすることになるからな。

 そして作業を見学していて分かったのは、見ているだけでも鍛冶スキルがしっかり仕事をしてくれるということだ。

 説明もなくダルクたちは普通に剣を打っていたけど、何をしているのか教えてくれる……といっても、ダルクたちの作業速度は無駄がなくて速いため、次々と情報が頭に入ってくるため理解をするのが大変だ。

 並列思考がなければきっとパンクしている。

 いや、あっても普通に辛かった。

 それでもリュリュがいたからか、ダルクは途中から時々手を止めて、弟子たちにこれがどんな作業かを尋ねていた。

 本人は弟子たちが自分の教えをしっかり覚えているかの確認だと言っていたけど、きっと俺たちのためだよな、あれは。


「次はお前たちだけで剣を打ってみるがいい」


 そして一本の剣を打ち終わると、今度は弟子たちだけで作業をするように言った。

 ドワーフたちには厳しいが、村の人と思える人たちに対しては接し方が少し違った。

 もちろん厳しくはあるけど、分からないことがあったら怒鳴ることなく丁寧に、優しく教えていた。

 それを横目で見ているドワーフたちの表情は、ちょっと羨ましそうだった。


「相変わらずっすね」


 とリュリュも懐かしそうに笑っていた。



 ダルクと弟子のドワーフたちはその後も通しで鍛冶を行なっていたが、村の人たちは休憩をとるため工房から外に出た。

 普通に工房内は熱で立っているだけでも慣れていないと辛いからな。

 実際エルザたちは途中で外に出ていた。

 最後まで残っていたのは俺とセラ、クリスにコトリにシュンの五人だけだった。


「まさか初めてで最後まで立ち合うとはのう……なかなか根性がある」


 とちょっとだけダルクに褒められた。

 もっともここにいない何人かは別に辛くなっていなくなったわけではなく、色々な事情で外に出たわけだけど言う必要もないか。

 しかし……俺はスキルに目をやった。

 見学していただけだったが鍛冶のスキルが3まで上がっていた。

 途中から理解力が増したのはスキルのレベルが上がったからか。

 さすがにダルクたちのようにスムーズに剣を打つことは無理だが、剣を作ろうと考えるとどのようにすればいいかが思い浮かぶ。

 この手順通りに作業すれば、剣を打つことが可能なのは分かる。

 あくまで剣を打つことが出来るのであって、売り物になるかはまた別だと思う。

 だけど……それでも一度試してみたいと思った。

 料理やソードマスターのスキルもそうだったけど、やっぱ実践するのが一番だということを今までの経験で分かっていたから。

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