第554話 フクスト村・1
森に入って一週間後。一日移動せずに休んだ日を設けたが、予定通りにフクスト村に到着出来そうだ。
MAPで確認したがあと一時間といったところか?
周囲には魔物の反応もないし大丈夫だろう。
そう思って歩いていた時に、不意に魔力の揺らぎを感じた。
体がビクリとして背筋にむず痒いものが走った。
それは俺だけでなく、クリスとミア、あとはコトリも感じたようだ。
MAPに反応はないが、気配察知と魔力察知を改めて注意して使うと魔力察知の方に小さいが反応を拾った。
「お、ソラさん、もしかして分かったんすか?」
俺の僅かな動きで何かを感じ取ったのか、リュリュが尋ねてきた。
「今のは?」
「村を囲っている結界っすよ。この辺りは魔物の侵入を教えるものと、魔物が近寄らないようにする術が施されているんすよ」
「それは凄くないか?」
そんな結界が張れるなら、魔物の脅威に晒されることが多い村の安全度はかなり上がる。
これを知れば欲する村は……いや、町だってあればと思うはずだ。
「確かに凄いっすけど、色々魔道具とかを使っているっすからね。それにこの結界を維持するためには、それを維持する人がいないとっすからね」
そんな簡単にはいかないか。
だけどその仕組みが分かれば、もしかしたらそれようの魔道具を作れたりはしないだろうか?
そんなことを考えていると、村のある方からこちらに近付く反応があった。
俺たちとゆっくりした進行速度と違い、向こうは走っている。
しかも一人ではなく十数人だ。
またいくつかのグループに分かれているのか、距離を取って移動している。
そして俺たちの近くまで来ると速度を落として、その中の一組がゆっくりと近付いて来て、
「何だリュリュ、か?」
とリュリュの姿を見て警戒を解いた様だった。
「久しぶりっす!」
「ああ、久しぶりって言うには結構な間隔が空いたけどな」
リュリュの答えに、槍を持ったその狐の獣人は苦笑していた。
エレージア王国の王都での戦いやその後の処理、さらに武闘大会と続けばゆっくりと里帰りなんて出来ないだろうしな。
なんて思っていたら、リュリュの里帰りは前回から十年以上経っているとのことだ。
リュリュたち種族も長寿種族ということらしいので、俺たち人とは時間的な感覚が違うのかもしれない。
クリスもエルフで長寿種族ではあるけどそんなことはないんだよな。
たぶんまだ長い時を生きていないから、その辺りの感覚が俺たちと変わらないんだろう。
「皆紹介するっす。村の警備隊の責任者のライトっす。責任者っすよね?」
「ああ、変わってないぞ。紹介された通りライトという。それで今回は部外者をこんなに連れてきて……村長がまた騒ぐぞ?」
「じい様に会いに来たっす。獣王様と姉ちゃんから許可をもらっているっす」
「ダルクさんに? ……分かった。だが大丈夫か? こんな人数だと泊まれる場所はないぞ」
「その辺りは大丈夫っす」
フクスト村には大人数が泊まれる宿がないということを、既にリュリュからは聞いている。
だから魔法で家を建てる予定だ。
一応家を建てるだけのスペースはあるみたいだし。
最初リュリュは何を言っているのか分からないといった感じで首を傾げていたが、実際に土魔法で家を建てたら驚いていた。
俺たちはライトに先導されて村へ向かった。
その道すがら聞いた話によると、ライトたちが様子を見にきたのはリュリュが言っていた結界で何者かが来たことが分かったからのようだった。
一応魔物でないことは分かっていたが、俺たちの集団が敵意のある者かどうかが分からなかったため、最初警戒していたそうだ。
「リュリュか……ネネ様はおらんのか?」
村長の家に案内されると、そこにはリュリュよりもさらに小さな眼鏡をかけた狐の獣人がいた。
「姉ちゃんはいないっすよ」
「……何しに来たんじゃ?」
リュリュが手紙を渡すと、村長——フォスは目を通しワナワナと震えていた。
「……ダルクに用か……交渉は好きにせい。だがあの偏屈が教えるとは思えんがの」
「そっちはおいらが頼むからいいっす。あと空いている土地を借りたいのと、物資を運んで来たから倉庫を使わせて欲しいっす」
「……分かった。それはライトに案内させる」
フォスはそれだけ言うとライトを呼んで自分は奥の部屋に消えていった。
「招かれざる客って感じか?」
「村長はいつもあんな感じっす。姉ちゃんが村を出たのを未だ引き摺っているっすよ。あとは、まあ、色々あるみたいっす」
なんかあまり踏み込んではいけなそさそうな話題かもしれない。
その後俺たちはまずは倉庫に移動して、リュリュに頼まれて買ってきた物資を倉庫に仕舞った。
アイテムボックスから次々に出てくる物資を見て、さすがにライトも驚いていたけど。
「食料は正直ありがたいな。近頃不足しがちだったからな」
ライトの話では、近頃森の中で魔物が見つけづらくなっているようで、魔物の狩る量が減っているとのことだ。
全てを魔物に頼っているわけではないし、加工して保存しているがそれでも徐々にそれが減っていたとのことだ。
フクスト村に来る間魔物とあまり遭遇しなかったのは、そういう事情もあったかもしれない。
「けど酒が多くないか?」
「じい様への貢ぎ物っすから」
それを聞いたライトは納得していた。
鍛冶師のダルクはドワーフだってことだし、この世界でも酒を好んでいるようだ。
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