第553話 フクスト村へ・2
平原を歩くこと一週間。その先は森になった。
その間一つの部族と遭遇し、そこで一晩お世話になった。
彼らは客人となった俺たちを歓迎してくれて、貴重な家畜を一体解体してご馳走を振る舞ってくれた。
その肉にヒカリは特に感動していた。
俺たちはそのお礼に、ポーション類をはじめ、野菜や欲しい道具がないかを聞いてそれを渡した。
その道具は調理で使う包丁や鍋などだったが、それは俺の錬金術で作製した。
「何か雰囲気のある森だな」
森の中は薄暗く、風が吹き抜けると葉の擦れる音が響いた。
MAPで確認する限り魔物や害獣の類は近くにいない。
魔力を流して範囲を広げると反応を確認出来たから、魔物が全くいないというわけではないようだ。
「ここの森は魔物自体はそれほど多くないっす。ただその数少ない魔物は強いっすから……って、心配する必要はないっすね」
リュリュは俺たちを見てそう言った。
まあAランク冒険者もいるし大丈夫だろう。
危険なのは不意を突かれた場合だけど、索敵能力が高い者も多くいるからな。
ただエルザとアルトがいるから、油断は禁物だ。
油断は禁物なんだが……、
「リュリュ、あれ食べれる?」
ヒカリは至ってマイペースで、果実や木の実が生る木を見つけるとリュリュに訪ねている。
ヒカリは索敵で近くに危険がないのが分かるからというのもあるかもしれない。
リュリュから食べられることを教えてもらえればそれを採って、エルザやアルトに渡している。
俺たちもそれを口にして、美味しければ追加で採取する。
他にもキノコ類も豊富だからそれも回収するが、毒キノコが多いからそっちは慎重に採取した。
俺の場合は鑑定で判断出来るから苦労はしなかったけど。
ここの森のキノコは鍋にすると酒に合うと聞いたサイフォンが期待に満ちた目で見てきたけど、ユーノが笑顔で牽制していた。
ま、まあ、普通に食べても美味しいってことだから、採取させてもらうけど。
「エルザとアルトは疲れてないか?」
シファートを旅立って十日経った。
このペースならあと三日もすればフクスト村に到着出来るとリュリュは言った。
ただエルザとアルトに多少の疲労の色が見えたから、今日は進むのを止めてここで一日過ごすのがいいかもしれない。
昨日は魔物との戦闘もあったから、精神的な疲労も大きかったのかもしれない。
そして休むとなったらすることは一つ。昨日倒した魔物の解体だ、が……。
「これって食べられるのか?」
「ああ食えるぞ。ソラはスパイダー系の魔物を食ったことがないのか?」
そう、今回倒したのはソードスパイダーとマジックスパイダーに、コカトリスだった。
コカトリスのブレス攻撃は厄介だが、俺には効かないし、クリスが風系の魔法で防いでくれたから手古摺ることなく倒せた。
アルゴたちも戦った経験があったようで、パーティーで連携をとって素早く倒してくれた。
問題はソードスパイダーとマジックスパイダーで、糸を駆使して森の中を自由自在に動くため振り回された。
同時に複数体出てきて、連携をとってきたのも大きい。
他には糸を張り巡らせて罠を仕掛け、こちらの行動を阻害してきたりと、一筋縄ではいかなかったというのもある。
この時活躍したのはガイツとヒカリ、ルリカだ。
ガイツは盾でその攻撃を防ぎ、ヒカリとルリカはここぞというところでスキルを使って一体ずつ確実に減らしていった。
最終的に数が少なくなると、ソードスパイダーとマジックスパイダーは逃げてしまったが、MAPで位置を確認すると、そのMAPから見えなくなるところまで移動したから、ひとまず危機は去ったと思っていいだろう。
念のためMAPのチェックは忘れないようにするけど。
「ああ、食べたことないな……」
そもそもスパイダー系の魔物と戦う機会が殆どなかったからな。
例えあっても食べたいとは思わないけど。
いや、調理されたのが出たら、何も知らなかったら食べてしまいそうなほどの肉厚だけどさ。
「なら……まあ、無理に食うこともないか」
サイフォンは俺だけでなく、ナオトたちも見て食文化の違いを悟ったに違いない。
特にカエデやミハルの二人はあからさまにホッとしていた。
スパイダー系の解体はサイフォンたちに任せて、俺たちはコカトリスの解体をする。
血抜きが終わったら毒腺を回収し、クリスの指示のもと解体を進めていく。
エルザはこちらに参加して、アルトは向こうに参加している。
アルト、凄いな。
そして解体が終わったら早速それを調理したが、もちろん俺はスパイダーを食べることはなかった。
焼いた時に漂った香ばしい匂いだけで判断するなら確かに美味しそうだったけど、今回は食べるのを止めた。
ただ美味しそうにそれを頬張るヒカリを見たからか、次はちょっと挑戦してみようかな、とは思ってしまった。
この世界に来て、蛇とかカエルとかの魔物を食べてきたというのも影響しているんだと思う。
お昼を食べ終わったら、午後は女性陣は料理作りを、男性陣は装備のメンテナンスをして過ごした。
料理は作った物をそのまま俺が保管しておけば、料理をする気力がない時にすぐ提供出来るようになるからな。
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