第552話 フクスト村へ・1
「すまなかった」
ガイツが二日酔いから回復し、リュリュたちの故郷であるフクスト村へ向かうためシファートを発つことになった。
結構な数の人に見送られたのは、まだ武闘大会の熱が継続中だからだろう。
それを肴にただ飲みたい説もあるけど。
シファートから西は平原が広がり、遊牧民のように生活する部族も存在する。
フクスト村はその平原の先にある森の奥深くに存在する村で、近くにある村と交流する程度で国からも干渉されることなく過ごしていた。
ラス獣王国には結構そういう部族や村が存在していたが、エンドが獣王になってから少しずつだがそれを解消しようと働いているそうだった。
もちろん無理強いはするつもりはないため、今の距離感を保ちたいところはそのままだが、困った時は助けを求めて欲しいと伝えているそうだ。
「二人とも大丈夫?」
シファートを発って三日過ぎた。
相変わらずシズネはエルザとアルトを心配しているが、
「大丈夫だよ、シズネお姉ちゃん」
とエルザが言えば、アルトも大丈夫だと言わんばかりにコクコクと頷いている。
これは旅をした経験もそうだが、ダンジョンに同行したことでレベルが上がったのも大きいと思う。
それにサイフォンたちも気に掛けていて、なるべく疲れない歩き方を教えている。
あとは決して無理をさせないように俺たちも気に掛けている。
特にエルザは止めないと毎回食事の用意をしかねないからね。
料理出来る人が……うん、一応それなりの人数いるから交代でやっている。
最悪疲れて料理をする余裕がない時などは屋台で買った調理済みの食べ物もあるしな。
……ま、まあ、歩いている以上俺がへばることはないからいいんだけど。
「それでリュリュ、フクスト村ってのはどんなところなんだ?」
「獣王国の最西端にある村っすかね。そのせいで他の部族や村と交流があまりなかったっす。ただ困ったことがあるとフクストを訪ねてくる人たちはいたっすね」
リュリュの話によると、稀にだが世界の声を聞くことが出来る者が生まれたりするとのことだ。
世界の声? 聖女や司祭のように女神からの神託を受け取るみたいな感じなのだろうか?
ちなみリュリュの姉がその先代にあたるそうだ。
「そうなんだ。あ、けどそれならもしかして獣王様は困ったことがあってフクスト村に訪ねたことがあったってこと? それで二人が結ばれたとか?」
ルリカが興味があるのか尋ねた。
ただ興味があるのはルリカだけでなく、それ以外の何人かの女性も注目している。
全く興味がなさそうなのはヒカリにシズネ、カイナがぐらいだ。
「……あーそうっすね。ただエンド様本人が困っていたというよりも、エンド様の部族の族長が訪ねて来た時に一緒に来た中の一人だったと聞いたっす」
「聞いたって?」
「その頃はおいらも小さかったんすよ。あ、ただエンド様の一目惚れだったってのは知ってるっす」
リュリュの話によれば、リュリュのお姉さんは聡明で美人で、それはもう誰もが憧れる存在だったらしい。
そのためフクスト村を訪れた人たちから求婚されることも多々あったそうだ。
「それが煩わしかったみたいで、姉ちゃんは『私よりも弱い人には興味がありません』って言ってたみたいなんすよ。まあ、おいらたち獣人は強いことが一種のステータスみたいなところがあるっすからね。それで挑戦する人は多かったんすが……」
それで獣王が勝って結ばれたってことか。
そう思ったのは俺だけでなく、他の人たちも思ったが、そうではなかったそうだ。
「最初村を訪れた頃のエンド様は弱かったみたいっすよ。姉ちゃん、一撃で倒したって言ってたっす」
獣王もその時は弱かったそうだ。
その言葉を最初素直に信じることは出来なかったが、リュリュが嘘を言っているようには見えなかった。
そしてリュリュのお姉さんに対する想いの強さから、とにかく獣王は強くなろうと必死に自分を鍛えたらしいとリュリュは語った。
何でも獣王は村を飛び出し、武者修行の旅に出たとのことだ。
その時に何処で何をしてきたかは、リュリュも知らないという。
ただ獣王が再びフクスト村を訪れたのは、それから十年後のことだったそうだ。
お姉さん曰く、体が鍛えられて見違えるようだったとのことだ。
その戦いは二日間続き、最終的に獣王が勝ったらしい。
それこそ本当か! と叫びたいところだったが、俺たち召喚された者たち以外は特に驚いた様子を見せていない。
あ、ミアとエルザは驚いている。アルトは特にリアクションを起こしていないから、どう思っているかは分からないな。
その後。その結婚を反対する者——現フクスト村の村長がいたが、最終的に獣王がその条件、武闘大会で優勝して獣王になったことで仕方なく許可が下りたそうだ。
ちなみ許可が下りた半分は、お姉さんがその村長の態度に怒ったからだと、リュリュは村の人たちから聞いたそうだ。
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