第551話 シファート
フォルスから出発してシファートに到着したのは一週間後だった。
ちなみに魔獣馬車を使えば二日で行けるらしい。あくまで人を運ぶだけなら。
荷物を運ぶとなると余程急ぎではない限り、魔獣馬車は使わないとリュリュが教えてくれた。
シファートまでの道中は平和そのもので、魔物に会うこともなければ、盗賊が出るなんていうイベントもなかった。
馬車に乗っている間は暇になるため、話すことで時間を潰す。
馬車は男女別れてになったから、基本的に馬車に乗っている間はナオトやシュンからはプレケスのダンジョンがどんなところだったの話を聞き、アルゴたちからはボースハイル帝国のダンジョンの話を聞いた。
アルゴたちは帝国出身で、帝国にあるダンジョンの一つに挑戦した過去があるそうだ。
「ソラたちは今のダンジョンを攻略出来たら次に何処に行くんだ?」
まだ攻略も半ばだし気が早いと思うが、
「たぶんプレケスになるんじゃないかな?」
と答えておいた。
今は帝国は色々とごたごたしているみたいだし、近付かない方がいいだろう。
「プレケスのダンジョンか。行くなら俺たちも再挑戦するのもいいよな」
とナオトとシュンが言ってきた。
その辺りはフォルスのダンジョンを無事攻略出来たら話し合えばいいな。
そして馬車旅で一番の楽しみはやはり料理だ。
女性陣が中心になって色々な料理を作ってくれる。
男性陣は一応見張りや、夜なら野営地作りだ。
食事の間はミアたちに何の話をしていたかを聞かれて、ダンジョンのこととかと答えたらルリカたちが興味深そうに耳を傾けていた。
ちなみにミアたちが何を話しているか聞いたら、それは秘密と言われた。
深く聞かない方がいいだろうと、俺はそれ以上聞かなかった。
そして到着したシファートは、武闘大会の話で賑わっていた。
「これはいつもの光景らしいっすよ。たぶん、吟遊詩人とかが夜になると酒場などでどんな戦いがあったかを広める歌を披露してるんすね」
リュリュは前もって話を聞いていたらしく、俺たちに教えてくれた。
武闘大会はラス獣王国の国民にとっては一大イベントになる。
けど全ての住民が見に行くことは出来ないため、大会終了後に吟遊詩人や、実際に大会に参加した者や見にいった者がその熱戦を語るようだ。
だからだろうか。本選に出場したシュンたちを知っている人がシュンたちを見て騒ぎ、その中でも獣王との熱戦を繰り広げたシュンは町の人たちに囲まれてもみくちゃにされていた。
そのお陰もあって、宿にすんなり泊まることが出来たわけだけど。
ちなみに本選に出たガイツ、アルゴ、サイフォンの名前を知れ渡っていて、宿の食堂では一目見ようと詰め掛けた人たちで大賑わいだった。
特にサイフォンは酒を勧められて上機嫌に飲んでいた。
恐る恐るユーノを見たが、今回は事情が事情なためお咎めはなさそうだった。
もっとも翌日は酒を飲んだ人たちは酔い潰れて動けなかったため、俺たちはサイフォンたちを宿に残し観光することになった。
ここからリュリュたちの村までは徒歩になるため、そのための買い物もする予定だったが、既に必要なものは買い揃えてあるから屋台巡りが主な目的になった。
ヒカリを先頭に手を引かれたエルザとアルトが続き、その後をシズネが歩いている。
ちなみに今いる男性陣は、俺とシュン、ジンになる。
一応この世界では俺とシュンも酒を飲むことは可能みたいだが、やはり向こうの世界の感覚が残っているから飲まなかった。
ジンは羽目を外さずコントロールした結果だ。
ガイツも普段ならジンと同じように酒を飲む量をコントロール出来るのだが、今回ばかりは無理だったようだ。
酒を飲む速度こそゆっくりだったが、ジョッキが空になる度に次々と注がれていたからな。
そして注がれた分はしっかり飲むため、最終的にかなりの量を飲むことになった。
あとは普段飲まない分、それ程強くないのも影響したようだ。
そのためサイフォンやアルゴたちよりも飲んだ量は少ないが、ダメージは大きかったみたいだ。
最終的に宿の女将さんが客を追い出していなかったら、朝まで続いていたかもしれない。
「ジン、回復するにはどれぐらいかかりそうだ?」
「サイフォンは明日には元気になってると思うけどガイツがな……あの様子じゃ三日は駄目かもしれない」
これから先は歩いていくからな。
「リュリュ、一応フォルスで買い物は済ませたけど、他に何か買っていくものはあるか?」
「……そうっすね。やっぱ酒っすかね? じい様も良く飲むから、あったらあったで困らないと思うっす」
ドワーフはやっぱ酒好きなのか。
とりあえずガイツの回復を待つ間、俺たちはシファートの町を散策した。
シュンたちは顔を覚えられているから大変のようで、二日目以降は宿に閉じこもってしまったけど。
有名人に会おうと食事の時間になると人が多く押し掛けたけど、酒盛りは禁止されたようだ。
不満を洩らした客たちも、女将さんに睨まれたら何も言わずに静かに食事をしていた。
これは俺たちが町を発つことを知っていたからというのもあったんだよな。
本当に助かった。
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