第550話 相談

「へー、そんなことがあったんだ」


 夕食を終えて、街で会ったレイドたちの話をルリカたちに話した。


「それで街に出て目的は達成出来たの?」

「……直接鍛冶師の人に会いたいと思ったんだけど、難しそうかな。一応……リュリュに相談したいところだけど」


 獣王に頼むと何か要求されそうだからリュリュを頼ることにする。


「それなら直接本人に聞いてみたら? 明日こっちに顔を出すって言ってたし」


 昼間ルリカは会ったらしく、明日も鍛練所の方に顔を出す様なことを聞いたみたいだ。

 獣王と一緒なのかと聞いたら、今はリュリュは一人で行動しているみたいだ。


「武闘大会が終わったから、獣王様は仕事で大忙しみたいでね。リュリュは今一人暇してるみたい。本人は解放されたっすって言ってたけど、ちょっと寂しそうでもあったかもね」



 翌日。リュリュに会って鍛冶師の件を駄目元で相談してみた。

 別に件のドワーフじゃなくても、一先ず見学させてくれるところがいい。

 一番は教えてくれるようなところだけど、そんな軽々しく教えてくれる人なんていないだろう。

 職人に対してはそんなイメージが強い。勝手な偏見かもしれないけど。


「鍛冶場の見学っすか……確かに難しいかもっすね。一応エンド様が言えば、この街の鍛冶師なら許可はくれると思うっすけど、いい顔はされないと思うっす。エンド様はそういう無理やりなのはああ見えて嫌うっすからね」


 半ば予想していた答えが返ってきた。

 それならいっそ転移でエルド共和国に飛んでそっちで探した方が確実かも? ナハルにも確か鍛冶をする人がいたはずだ。

 そんなことを思っていたら、


「ならじいさんに頼めばいいじゃないか。リュリュの頼みなら喜んで聞くだろう?」


 と声が掛かった。

 声の方を振り向けばそこに獣王がいた。


「エンド様! また仕事をサボったっすか‼」


 リュリュは怒っているように見えるが、何故かちょっと嬉しそうだ。生き生きしている気がする。


「ここへは許可を取って来てる。なあ?」


 その剣幕に圧されて、獣王は一緒に来た人たちに尋ねている。

 声を掛けられた同行者たちは、


「ええ、確かに。奥方様の許可ももらっています」


 と頷いている。


「……ならいいっすけど。じい様のところっすか?」

「ああ、里帰りにもなるしいいだろう? よ、嫁を連れて行かれると困るがな……それに俺からも一応紹介状を書くしよ。なあソラ、どうだ?」

「俺たちは助かるけど……」

「なら決まりだな。リュリュ、獣王として任務を与える。ソラたちを村に案内するように」


 獣王からそう言われたリュリュは、悩んでいたようだが結局それを受け入れた。

 これは後で聞いた話になるが、リュリュと獣王の奥さんは、長いこと生まれ故郷である村に帰っていない。

 その原因はエンドが長期間獣王に即位しているというのもあるらしい。


「こうでもしないとリュリュの奴は村に帰ろうとしないからな」


 と獣王はため息を吐きながら言ってきた。

 そうでなくても獣王の日頃の行いで、お目付け役として忙しく働いているから、少し羽を伸ばさせてやりたいというのもあったみたいだ。

 一応自分でも自覚はしているのか。

 それなら獣王がしっかりしていればいいと思うが、そう告げたら目を逸らされた。

 俺も人のことは言えないから、それ以上あまり強くは言えないけど。

 何だかんだで振り回していたり迷惑を掛けることは多い、気がするし。



 そうと決まったら旅の準備が始まった。

 とりあえず魔獣を使った馬車で移動するかという話になって、ルリカから盛大に反対されて、通常の馬車で中央都市フォルスから西の町シファートに行くことになった。

 ただ馬車は出払っていてすぐには出発できないため、その間に色々と走り回った。

 まず一つ目がフォルスで家を購入した。

 これは転移用にある意味購入したというのもある。

 治安が良く、そこそこの大きさの物件を購入した。

 最終的に人に任せるか売ることになるかもしれないが、それは後で考えることにした。

 次にしたのは食材を中心とした買い物だ。

 リュリュの故郷である村はシファートからさらに歩いて二週間以上はかかる森の中にあるらしく、物資を運んで欲しいと頼まれたのだ。

 その中には鍛冶に必要な鉱石なども含まれていた。

 アイテムボックスもあるし、行くついでだしそこは問題ない。

 そうして諸々の準備を終えて出発することになったのだが、そこには俺たちパーティーだけでなく、ナオトやアルゴ、サイフォンたちの姿もあった。

 これもすぐに出発できなかった理由の一つだ。

 リュリュに大丈夫か聞いた時、これだけの人数がいたら村についても全員屋根のある建物で寝られないと言われたが、そこはテントもあるし気にしないとアルゴたちは言っていた。

 冒険者として活動していれば、野宿なんて当たり前だしな。


「それじゃ行くっすが、忘れ物はないっすか?」


 リュリュの言葉に皆頷く。


「それじゃ出発するっす」


 リュリュの言葉で皆馬車に乗り込むと、シファート目指して馬車が走り出した。



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