第549話 喧嘩?

 その獣人の冒険者は俺たちに気付くと、キッと睨み付けると語気を荒げて話してきた。


「あんたら昨日ギルドの……ダンジョンの待合室にいたよな!」


 その剣幕に圧されて思わず頷けば、


「やっぱり! お前、シュンの兄貴にぞんざいな口の利き方をしてたよな!」


 と言ってきた。

 一瞬何を言っているのか分からなかった。

 ナオトの他に確かにシュンとも話したが、いつも通りだったはずだ。

 今にも掴み掛かって来そうなその冒険者を、仲間たちが抑えると謝ってきた。


「すまない。あいつは獣王様とシュンの戦いに感動してな。たぶんため口で話していたのが気に喰わなかったようなんだ」


 ため息交じりに一人の獣人の冒険者が言うと、


「シュンの兄貴だろ! 呼び捨てにするな」


 と仲間に対しても喚いている。

 その様子にエルザとアルトがびっくりして俺の背後に隠れてしまった。


「馬鹿野郎。怖がっているだろう」


 仲間たちが黙らせようと容赦なく殴っている。

 大丈夫か? 凄く鈍い音が鳴ったぞ。


「おい、騒ぐなら他にいってくれ。他の客の邪魔になる」


 結局俺たちは店を追い出され……とりあえず移動することになった。

 向かうは冒険者ギルドだ。

 往来で話すと邪魔になりそうだったし、一応行く予定だったというのもある。


「すまなかったな」


 歩きながら謝ってきたのは冒険者パーティー「アギト」のリーダーレイドだった。

 彼らはランクB冒険者で、ダンジョンへも挑戦しているそうだ。

 そして喚いていたのは同じパーティー所属のサイで、レイドが言うには根はいい奴だが口が悪いとのことだ。

 さっきも聞いたが、獣王との戦いを観戦していて、一方的にシュンに魅了されそうだ。


「本当は予選でシュンに負けて罵詈雑言吐いてたんだけどな。シュンが勝ち進むうちにファンになったようなんだ」


 レイドが苦笑しながら教えてくれた。


「ちなみにソラはシュンとはどういう関係なんだ?」

「……同じ出身地の知り合いだよ。あとは一緒に旅をしたことのある仲かな?」


 それを聞いたサイは驚きの表情を浮かべ、動揺したようだった。

 ちなみにサイにはエルザとアルトを怖がらせたことを謝るように言っておいた。


「この二人はシュンの姉的な人のお気に入りだからな。怒らせると怖いぞ」と。


 まあ、嘘は言ってない。

 シズネが溺愛しているから、二人がサイのことを悪く言えば血を見るかもしれない。下手したら髪の毛一本残らず消滅しかねない。

 それを聞いたサイは素直に謝っているから、確かに根はいい奴なんだと思う。

 そして冒険者ギルドまで世間話をしながら歩いて中に入れば、ちょうどダンジョンから出て来たナオトたちと会った。

 ナオトが手を挙げようとして吹き飛び、それをやった当人は他には目もくれずにこちらに突進してくる。

 レイドたちが驚いている傍らを通り過ぎたシズネは、エルザとアルトに抱き着いている。

 二人は慣れたもので抵抗せずにされるがままだ。

 エルザとアルトも好意を前面に出すシズネに対しては、何だかんだと懐いているからな。


「大丈夫か?」

「あ、ああ、全くシズネは変わら……いや、まさかここまで変わるとは驚いたけど……それで見慣れない人らと一緒だけど誰なんだ?」

「武器屋で会ってさ。どうやらシュンの熱烈なファンらしいんだ」


 俺がサイを紹介しようとしたら……レイドの背後に隠れていた。

 先程までの態度はどうした?

 レイドの肩越しにミハルと会話しているシュンを盗み見ている。


「あれがそうか?」


 ナオトもサイの視線の先にシュンがいることを見て、尋ねてきた。

 俺が頷くとニヤリを笑みを浮かべ、


「シュン、ちょっとこっちに来いよ」


 と突然呼んだ。

 呼ばれたシュンは首を傾げたが、それでも素直にやってきた。

 シュンが近付くにつれてサイの落ち着きがなくなっている。

 その様子にレイドたちがため息を吐いている。

 聞けば昨日もここでシュンを間近に見てこうなったらしい。


「ナオトさん、どうしたんですか?」

「武闘大会の戦いぶりを見てファンになったらしいんだ」


 とサイのことをナオトは紹介している。

 紹介されたサイはピンと背を伸ばし、カチコチに固まりながら挨拶をした。


「確か予選で戦った気がしますが……?」


 その態度にシュンは困惑している。

 サイはサイで予選で戦ったことを覚えてもらっていたことが嬉しかったのか、さらに緊張が増して受け答えが全て片言になっている。


「それでソラたちはどうしたんだ? エルザちゃんとアルト君と一緒ってことはダンジョンに来たわけじゃないよな?」

「素材と魔石と買い付けかな? あとは商業ギルドの方にもよるつもりだ」

「何を探してるんだ?」

「ウルフの上位種の……可能ならウインドウルフの毛皮があると嬉しいな。あとは魔石か」


 これは創造で靴を作って、素早さを向上させるために欲しい。

 結局冒険者ギルドで確認をしたら、在庫がないということで商業ギルドに行くことになった。

 何故かナオトたちとレイドたちもついて来た。

 レイドたちも特に今日はダンジョンに行く予定はないということで、折角の縁だし交流をしましょうとカエデが言ったからだ。

 もっとも冒険者ギルドを出る時にはサイフォンたちも合流したからかなりの団体になってしまったけど。


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