第544話 本選四日目・2(シュン視点)
速いし力強い。
模擬戦で戦った時とは段違いだ。
手加減されていた?
……違う。あの時はあの時で全力だったんだ。
ここでは殺しても大丈夫だから、その分のリミッターが解除されているんだと思う。
僕は集中力を高め、獣王の動きを注視する。
剣による間合いの優位は獣王には効かない。
逆に懐に入られるとこちらが劣勢に立たされる。
そうと分かっても防ぎきることが出来ないから思わず舌打ちしたくなる。
他にも厄介なことがある。
それは武器を持たないゆえに攻撃に変化が生まれるということだ。
獣王と模擬戦をした数は少ないけど、獣王が戦っているのは良く見た。
それこそ武闘大会への出場を決めてから特に注意して観察した。
もちろんそれはいずれ戦うかもしれないと思ってのこと。
観察の対象には戦う可能性のあるアルゴもサイフォンさんも、ジンさんもガイツさんもいたけど。
獣王と戦っていると何故かこの世界に呼び出された時のことを思い出した。
激しい攻防でそんな余裕がないはずなのに何故か……。
……この世界に召喚されて、剣王なんて凄い職業に心躍った。
剣なんて使ったことがないのにその扱い方が分かった。
訓練ということで騎士とも戦ったけど相手にならなかった。
上位者には最初勝てなかったけど、訓練に打ち込めば打ち込むほど強くなっていくのが自分でも分かった。
あの頃は何でも出来ると思っていた。
今思うと王国が僕に施した術の影響もあったかもしれないけど。
それでも騎士の中で僕に敵う者がいなくなって、プレケスのダンジョンでドラゴンを討伐した。
ギルドに戻って報告をした時の職員と、騎士団長の顔を今でも思い出す。
けど、そんな強者だと思っていた僕も魔人の前では赤子同然だった。
大切な人一人守ることが出来なくて負けた。
だから装備が整うまでの準備の期間、猛特訓をした。
魔人は魔物と違って対人戦に特化しないと倒せないと思い、ナオトさんにも騎士団長たちにも手伝ってもらった。
……結局。それでも無様に負けた。
その後術が解けて、真実を知って、ソラがしてきたことを聞かされた。
その後王国は崩壊し、彼女を助けることが出来た。
それから少しだけ一緒に行動したけど、彼女はソラを見る時だけ、何処か違った。
それが悔しくもあり、もう一度鍛え直して、自分と向き合おうと思った。
それからは負けの連続だ。
騎士よりも強い人たちは多く、この世界は広かった。
だけど、これ以上負けたくないとも思った。
そして今、その中でも最強の一人と戦う機会を得た。
しかも本気の、手加減なしの戦いだ。
戦えば戦うほど、その壁は高く、分厚いことが分かる。
それでも諦めることは出来ない。
集中して集中して相手の動きを注視する。
スキルを駆使して相手の動きを読む。
読んだそばから体を動かし対応する。
それの繰り返しだ。
獣王の戦い方は打撃を目的とした攻撃と、そこから変化させてくる攻撃の二種類がある。
変化させる攻撃は時に連続攻撃だったり、そこから体を掴んできて投げ技などに繋げる攻撃だったりとバリエーションが多い。
それをどっちなのか一瞬で見極めないといけない。
逆にそれを見極めさえすれば突破口があるような気がする。
ソードマスターで覚えたスキル攻撃はこちらの体力も消耗するから、使うなら必ずあてられると確信した時じゃないと使えない。
戦いが長引けば長引くほどスキルの影響か頭が痛くなるが、集中力とスキルを切らすわけにはいかない。
僕は狙って剣を振るったが獣王は寸でのところで飛び退いて躱した。
追撃したいがそれが出来ない。
攻撃するなら無駄な攻撃でなく、練りに練った攻撃でなくては駄目だ。
手数が減るが、数撃てば当たるなんてことを期待出来る相手ではない。むしろ隙が出来る。
より深く、集中する。
すると手に持つ剣が、まるで体の一部になったような感覚を覚えた。
攻撃を躱して一振り、攻撃を弾いて一振りと、徐々に獣王に剣が当たりだした。
致命傷には遠いが、獣王の服を切り裂き血が滲む。
ただこちらも無傷というわけにはいかない。
体に衝撃が走り、奥歯を噛みしめる。
掠っただけなのにこの衝撃だ。
まともに喰らったら……すぐにその考えをやめた。
それよりも先に倒しきればいいんだと反撃の機会をうかがう。
顔を狙った拳を紙一重で躱す。風切り音が耳に響くが臆せず剣を突き出す。
獣王はそれを体を捻って躱し、躱した勢いを利用して回し蹴りで反撃してきた。
それを剣を盾にして受け止める。
金属音が響き、その勢いに剣が飛ばされそうになる。
グッと剣を強く握り、攻撃が止まったのを確認して軸足を狙って剣を払ったが獣王は軽快にバック転でその攻撃を躱した。
間合いが出来た。
静かに息を吐く。
見れば獣王は笑っていた。
強がりの笑みか、余裕の笑みか……違う。楽しいんだこの戦いが。
あの顔。覚えている。
ソラと戦っていた時のそれだ。
そうか。僕もそこまでこれたのか。
ならあとはそれを越えるだけだ。獣王を倒して。
僕は剣を軽く握り、全てをぶつけるため、獣王に向かってゆっくり歩を進めた。
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