第543話 本選四日目・1
ついに決勝戦の日が訪れた。
武闘大会の会場は今日も客席は人で溢れている。
「いよいよか……」
「残念だったな、アルゴ」
「いいんだよ。ま、まあ、最後はシュンに譲ってあげただけだしよ」
「何だ負け惜しみか?」
アルゴとサイフォンの言い合いを周囲の人たちは笑って見ている。
アルゴが本気で戦って負けたのは間違いなく事実だが、冒険者ランク的に格下のシュンに負けたことを嘲笑う者は誰一人いないだろう。
あの試合はそれほど見る者を魅了していた。
「シュンの奴は戦うほど強くなっていたからな。もうちょっと早く仕掛けるべきだった。興が乗って楽しかったってのはあるけどな」
アルゴが手を打ちつけながら言った。
確かに後半はシュンの方が余裕があったようにも思う。
もちろん戦っている時は分からなかったが、今思い返してみるとだ。
レベルによる体力差だけでなく、シュンは無駄な動きを極力しないで戦っているように思えた。
それこそガイツのようにだ。
「ガイツも惜しかったよな。あと少しだったんじゃないか?」
「いや、天と地ほどの差があった。俺が反撃に出たのはあの猛攻に耐えられないと判断して、我慢出来なかったからだからな」
ギルフォードの言葉に、ガイツは首を横に振った。
ガイツの戦略としては、獣王とまともにやっても勝てないことは分かっていたから、体力をある程度消耗させてから万全の状態で反撃するつもりだったそうだ。
けど獣王の勢いはとどまることがなく、逆に疲弊していった。
最後ガイツはこのまま何も出来ないままよりはいっそ、ということで剣の勝負を挑んだようだ。
もっともその攻防を見た多くの人は目を見張り、盾だけの人ではないという認識に変わって、さらに人気が急上昇中だとか?
皆が前日の試合について話している中、二人が入場してきた。
選手の紹介がされるごとに大きな拍手がなり、獣王は笑顔で手を振っている。
余裕があるというよりも極めて自然体だ。
逆にシュンはまだ慣れないのか少し緊張している。
この多くの人の前で戦うんだからそれは仕方ない。
俺は自分が舞台に立ったことを想像して、無理だと思った。
そう考えるとシュンは凄いと思う。
開始の合図がかかって五分。突進する獣王に対して、シュンはその場に留まり迎え撃つ選択をした。
息つく間もない獣王の連続攻撃に、シュンは剣を合わせ、時に避けて獣王の攻撃に対処する。
獣王もシュンの攻撃を手甲で止めて、攻撃あとの隙をついてカウンターを放つがそれもシュンは躱す。
けどその躱し方が攻めている。
大きく体を移動して避けるのではなく、最小限の動きで躱して反撃に繋げている。
これは獣王に対して危険な避け方なのに、シュンは見極めて大きく避ける時と紙一重で避ける時を使い分けていた。
獣王は格闘というスタイルのため、武器を持つ者に対して間合いで不利になる。
もちろん懐に飛び込んでしまえば有利に戦いを進めることが出来るが、それが出来るのは獣王の身体能力と体捌きのお陰だ。
そして一度懐に入ってしまえば、攻撃に変化を付けることで相手を支配する。
振り抜いた拳を躱されてもそこから変化させて掴んだり、裏拳などの連続攻撃に繋げて相手を翻弄する。
しかしシュンはそれを察知して躱す。
紙一重で躱している時は獣王の攻撃に変化がない時だけで、大きく躱している時は獣王が攻撃に変化を持たせている時だけらしい。
と、俺はガイツから説明を受けた。
ガイツの時にそれをしなかったのは、変化させる前に盾で完封していたからみたいだ。
「けどシュンは獣王と戦うのは初めてじゃないのか? それとも俺が知らないだけで模擬戦をやったことがあるとか?」
獣王の性格的に戦ったことはあると思った。
「確かに戦ったことはあるが、互いにここまでの戦いはしたことがなかったはず。ただシュンは何度か模擬戦をしている獣王を見ていたから、それで学んだかもしれない」
ガイツはそう言って、獣王は俺たちがダンジョンに行っている時もほぼ毎日模擬戦をしに顔を出していたことを教えてくれた。
リュリュがため息を吐いているのを見ると、ほぼじゃなくて毎日顔を出していそうだ。
俺は改めて二人の攻防を見た。
俺だったら戦いながら魔法を使って、可能なら距離をとった戦い方に持ち込む。
シュンもソードマスターのスキルを有しているからスキルによる攻撃で遠距離からの攻撃は可能だと思うが、スキルを使うとSPを消費していくから控えているのかもしれない。
そもそも武闘大会全般を通して、スキルを多用した戦いは殆どない。
それこそシュンと戦ったニールぐらいか? あ、ガイツもシールドバッシュを使っていたか。
ルリカやヒカリだって、ダンジョンでスキルの多用はしないし、使い過ぎた場合はポーションを飲んでいたからな。
それを考えると、スキルによる大技はここぞという時に使うのがセオリーなのかもしれないな。
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