第542話 本選三日目・2
「次の試合はどう見るんだ?」
会場はまだ激闘の余韻が残っているのが、ざわざわと騒がしい。
「……順当にいけばアルゴなんだけどな」
俺の言葉にサイフォンは煮え切らない返事を返した。
「一波乱あるってことか?」
「勝負ごとに絶対はないからな。それにシュンは筋が悪くねえ。素直にアドバイスも聞くし、それを上手いこと吸収していたからな」
サイフォンは何度もシュンと模擬戦をして剣を交えているからな。
それによく見ている。
そして二人が入場して来るとざわめきが止まり、選手紹介のあとに試合は始まった。
戦いは駆け引きなしの真っ向勝負か?
開始と同時に二人とも接近し、剣の間合いで斬り結んでいる。
まさに息を呑む攻防だ。
剣と剣がぶつかり、金属音が鳴り響く。それも連続に。
開始五分。そこで二人は一度後退し間合い取った。
そこでどよめきが上がった。
俺は大きく息を吐き出すと、剣を構えたまま互いの動きを注視している二人を見た。
あれほど激しく討ち合っていたんだ疲れていないわけがない。
小さくだが、呼吸を互いに整えている。
やがて二人は動き出して再び剣を振るい合う。
ただ今度は最初の討ち合いと違い、紙一重で互いの攻撃を躱して剣を振るっている。
剣の討ち合いのないその攻防に、俺は惹きつけられた。
それは俺だけでなく観戦している他の人たちもそうだったようだ。
剣の風きり音だけが静まり返った場内に聞こえる。
まるで予め決められた攻撃を、互いに繰り広げているように見えたその攻防は、時間にして先ほどよりも短かったのに、見ていた俺には倍以上に長く感じた。
「凄い……」
と誰かの声が室内に響いたけど、まさにその通りだと思った。
「こいつは分からなくなったな。模擬戦を見てたけど、まさかここまで強くなっているとは思わなかった」
「確かにここ一番の集中力が凄まじい。こいつはアルゴもピンチかもしれない」
サイフォンの言葉にギルフォードが答えている。
二人は言葉を交わしているけど、その目は二人に釘付けだ。
動き一つ見逃さないといった感じで集中している。
もっともそれは二人だけでなく、この会場にいる殆どがそうだ。
そんな注目を一身に受けている二人は、再び動き出した。
今度は剣で討ち合い、時に躱しを繰り返す攻防だ。
その剣閃は鋭く、間違いなく一撃受けたら死ぬだろうと思うものだ。
それを紙一重に躱し、弾き、逆に斬り返す。
息詰まる攻防は時間と共にさらにヒートアップしていく。
疲れで剣先が鈍ることもなく、逆に鋭さを増していく。
致命傷こそないが二人に切傷が増える。
装備している服も斬れている。
そういえば傷は治るって話だったけど装備品はどうなるのだろうか? と戦いとは関係ないことが頭に浮かんだ。
そして二人が剣を振るい始めてさらに一〇分が経った頃変化が訪れた。
アルゴの動きが徐々に鈍くなっていった。
集中力も落ちているのか防ぎきれない攻撃も増えてきた。
逆にシュンの動きは精度が上がっていく。時間が経てば経つほど成長でもしているかのように。
「そろそろ決着するな。アルゴの奴が仕掛けるぞ」
劣勢のアルゴが仕掛ける。
一発逆転を狙っているというのか?
そう思い注視すれば、アルゴの動きが明らかに変わった。
剣の鋭さはそのままに大振りが増えた。
その分シュンの反撃を受ける回数が増えて血飛沫が舞った。
それでも致命傷を避けているようで、アルゴは攻撃の手を緩めない。
アルゴが大きく剣を振り上げ、力の限りそれを振り下ろした。
シュンはそれを受け止めて攻撃を大きく弾いた。
その勢いにアルゴの体が流れた。
シュンはチャンスと見て攻撃を仕掛けようとして……寸でのところで攻撃するのを止めた。
シュンの鼻先に体勢を素早く整えたアルゴの剣が掠めた。
気付かなかった。
あれはアルゴの仕掛けた誘いだったのか!
シュンは攻撃を躱すことが出来たが、無理に急ブレーキをかけたため次の対応が遅れた。
明らかに既に攻撃態勢に入っているアルゴの方が速い。
アルゴは先程までの大振りと違い、今度はコンパクトに剣を振り抜いた。
シュンの右わき腹に吸い込まれるように剣先が走る。
誰もが捉えたと思った瞬間。シュンは一歩踏み出して体ごとアルゴにぶつかった。
アルゴの剣はシュンの体を斬ったが、その傷は浅い。
前に出たことで、アルゴの剣の根元が当たったからだ。
もちろん剣の根元だからといって切れ味が悪いわけではない。シュンの脇腹が真っ赤に染まり顔を歪めている。
ただ前に出たことで攻撃の勢いが殺され、致命傷になることは避けれた。
そして体当たりを受けたアルゴは後方へ押しやられると、転倒こそ免れたがバランスを崩した。
すぐに体勢を整えることが出来たが、その一瞬が明暗を分けた。
アルゴが次の動作に入る前にシュンが体当たりから流れるように剣を振り抜き、アルゴの体を斬り裂いた。
それで勝負ありだった。
シュンの目の前からアルゴが消えて、舞台には一人シュンが残されて、その瞬間会場が大きく沸いた。
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