第540話 フォルスダンジョン・10

「ヒカリちゃん。魔物が出るのが分かっていたの?」


 ミノタウロスを全滅させてから、ルリカがヒカリに尋ねていた。

 最初に背後に現れた時もそうだが、それから何度かヒカリは死角から現れたミノタウロスの攻撃を軽々と躱して、同士討ちさせている場面があった。


「うん、分かった。だから誘導して利用した」


 ヒカリは極あっさりと認めて、何で分かったか教えてくれた。


「気配を読んだってこと?」

「うん、そう。ミノタウロスが出る瞬間に分かった。これは他の階でも同じだった」


 それはある意味盲点だった。

 今までの階は確かに出るタイミングははっきり分かっていなかったが、何処に出るか分かっていたというのもあって、俺は気配察知や魔力察知を使っていなかった。MAPもそうだ。

 だって目視で確認出来たから。


「そっか。なら次は私も気配察知を使ってみようかな」

「お勧めだけど注意が必要。範囲を決めておかないと大変」


 ヒカリほどの実力者なら、気配を探れるのは部屋全体に及ぶ。

 そのため全体を探るようにスキルを使っていると、情報量が多くて神経が消耗するそうだ。


「範囲を絞るね……慣れないと難しいかもね」

「それとそっちに気を取られると、他がおろそかになるから注意」


 確かに目の前の魔物と戦っているのに、気配察知で魔物が出ることが分かってそっちに気を取られると、目の前の敵が疎かになるなんてこともありえるか。


「けどルリカもやるさ。ミノタウロスを危なげなく倒していたさ」

「セラほどじゃないけどね。やっぱガイツさんに色々教えてもらったからかな。攻撃の受け流しとかさ。力を逃がす方法を色々教えてもらったんだよ」


 ルリカは嬉しそうに身振り手振りでどんなことを教えてもらったかを話してきた。

 余程成果が出て嬉しかったんだろうな。

 その横顔を見ながらそう思った。

 それにさすがガイツだ。本来盾を使ってやることを、剣でも使えるようにアレンジして教えたということだし。


 少しの休憩の後、俺たちは六二階に進んだ。

 俺とルリカはヒカリが言っていた気配察知を使いながらの挑戦だ。

 まず範囲の絞り方だが、俺はすんなり出来た。

 逆にルリカは範囲を狭めるのに苦戦しているようだった。

 たぶん探索系のスキルでも微妙に違いがあるんだろうな。

 あとは俺の場合スキルポイントで習得しているというのも影響しているのかもしれない。それとスキルを色々と所持しているから、それが何らかの作用を起こしている可能性もある。

 俺は早速気配察知を使いながらミノタウロスと戦った。

 今回は気配察知を使いながらということで、セラとカイナがクリスたちを守りながら戦ってくれている。

 俺はミノタウロスに向き合い剣を振るう。

 俺の剣とミノタウロスの斧がぶつかり合うが、力負けしない。

 むしろこちらが力を籠めれば相手の武器を弾き飛ばすことが出来たから、体勢の崩れたところに素早く追撃の一撃を振るえばミノタウロスを無事倒すことが出来る。

 その後も色々試した結果。新しい発見もあった。

 例えばこの気配察知。俺の周囲を囲うように使えば、結界のように使うことが出来ることが分かった。

 攻撃されたら素早く反応して対処するというだけなんだけど、例えばその結界内に侵入してきた瞬間に時空魔法を使えば、相手の動きを遅くすることが出来るから、その間に迎撃出来るようになるといった感じだ。

 欠点は時空魔王を使うのにMPを大量に消費するというところだけど、別に時空魔法を使わなくても今の身体能力なら余程の敵じゃなければ対処することは可能だと思う。並列思考もあるしね。

 あとは気配察知以外にも魔力察知を使ってみたが、魔物の出現に関しては魔力察知の方が予兆を早く察知することが出来ることが分かった。

 そのことをクリスに話すと、クリスは精霊の力を使って魔力の揺らぎを調べることが出来たようで、ミノタウロスが出現する前に魔法を放って、出現と同時に即消滅させることに成功していた。

 難点は消費が激しいため使い続けるにはマナポーションのお世話になるということ。


「クリスは今まで通りお願いね」


 とはルリカの言葉だ。

 それにミノタウロスは七〇階まで戦うことになるから、実際に手合わせをして慣れていった方がいいというのが共通して皆が考えていることだ。

 だからだろうか。ミアもちょっとミノタウロスと戦いたいということで、杖を握って戦った。

 今までは補助を中心にホリーアローで援護する程度だったが、実際にミノタウロスと戦ったミアは、時間はかかったがミノタウロスを接近戦で倒していた。

 力負けしているようには見えなかったが、時間がかかったのは杖だからだろう。

 鈍器として使われることもあるけど、殺傷能力は低いからな。

 ならそれに特化した杖ならどうかと思うが、残念ながら俺のアイテムボックスの中にもないし、そもそもミア自体が杖術系のスキルを持っていないから、杖で戦うならもっと鍛練をする必要がありそうだ。

 こうしてこの日。六五階攻略し、俺たちは宿へと戻っていった。


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 近況ノートのサポーター様限定記事にSSを投稿しました。


 タイトル 任務(13号編)になります。

 内容はソラの監視に当たる13号(ヒカリ)視点の話になっています。


 https://kakuyomu.jp/users/jwalk/news/16817330664774792663

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