第539話 フォルスダンジョン・9

 六一階からはミノタウロスと戦うことになった。

 この階から魔物の出現の仕方が少し変わる。

 六一階から六五階まではミノタウロスが出る数は三〇と分かっているが、一度に出現する数がランダムになっているそうだ。

 一体で出る時があれば三体の時がある。一体が出て、次に追加ですぐに一体出る時もある。

 なかでも一番厄介なのは、今までは魔物の出現位置が次の階段前と固定だったのに対して、この階からは最初に出現する魔物こそ階段前と固定だが、次に出現するのは何処から出るか分からないらしい。

 そのため後衛陣は前衛が突破されない限り安全とはならない。

 それにミノタウロスは出現する個体ごとに武器が違うという特色もある。

 剣、斧、棍棒の基本接近戦の武器になるが、盾や槍、クロスボウみたいな弓持ちも現れるらしい。


「ソラとミアはクリスをお願いね。私たちは実際に戦ってからまた決めましょう」


 まずは最初に出現するミノタウロスでどのぐらい自分たちが戦えるか試すみたいだ。

 出現数によるが、ヒカリ、ルリカ、カイナ、セラの順で優先順位を決めているみたいだ。

 三体同時に出ればヒカリ、ルリカ、カイナがそれぞれ担当に、セラは援護を。五体以上が出る様なら、四人がそれぞれ戦っている間俺たちの方で引きつけたりクリスの魔法で倒す予定だ。

 そして出現したのは六体のミノタウロスだ。

 普段だったらクリスの範囲魔法で先制攻撃を狙うところだが、今回はミノタウロスと戦えるかを確認するためにそれを控えている。

 ここで四人がミノタウロスに手古摺るようなら戦い方を考えないといけない。

 例えば二人で一体を受け持つとかね。

 俺は挑発で二体を引きつけると、剣と盾を構えて応戦する。

 もっともその二体は俺のところに到着することなく、クリスの精霊魔法で消えていったけど。

 俺は突然出現しても対処出来るように警戒しながら、四人の戦いぶりを見た。


 まず危なげなく簡単に倒したのはセラだ。

 相手も武器は斧だったが、打ち合った時に完全に力負けしていた。

 次はカイナだが、剣を持つミノタウロスに対して鋭い突きによる攻撃を繰り出して倒していた。

 この時、間合いの優位がなかったのは、大剣の長さに、もともとミノタウロスは大柄で腕が長かったからだが、それでもカイナは慌てることなく対処していた。

 次にルリカだが、今回はスキルなしで戦うことを選んだようだ。

 明らかに力の強いミノタウロスの攻撃を、基本武器を合わせることなく躱しているが、無理な時はその剣で防いでいる。

 そして死角を狙って動き回り、ダメージを蓄積していく。

 ミノタウロスの外皮は下手な鎧よりも硬いが、魔力の籠められたミスリルの剣は簡単に斬り裂いていく。

 これは魔力を籠めたミスリルの剣だからではなく、ルリカの腕がいいからだろう。

 その使い方もそうだが、何より攻撃している場所がいい。弱点を見極めて攻撃しているからだ。

 結局ルリカは新スキルを使うことなくミノタウロスを撃破していた。

 最後に残るのはヒカリだ。

 体格差が凄いな。

 さらにヒカリの持つ武器は短剣だ。

 昔と比べると刀身は少し長くなっているが、剣同様ミノタウロスの持つ棍棒と討ち合うことは出来ないだろう。

 それでもヒカリは怯むことなくミノタウロスに立ち向かっている。

 素早い動きで攻撃をかいくぐり足を斬り付けている。

 ミノタウロスも大柄な体格に似合わずスピードもあるがついていけていない。

 そして時間が経過するにつれてミノタウロスの動きが悪くなる。

 ヒカリが左手に持つのは麻痺を付与することの出来る短剣だからだ。

 ただミノタウロスも普通の魔物と比べれば上位に分類される魔物だ。

 その抵抗力も高い。

 そのせいか、ヒカリが止めを刺す前にそれは現れた。

 ヒカリの背後に揺らぎが見えた次の瞬間、新たなミノタウロスが出現した。

 それはヒカリの近くだけでなく、計一〇体のミノタウロスが同時に出現した。

 そのためヒカリの援護に誰も行くことが出来ない。

 まさにヒカリが蹲るミノタウロスに攻撃しようとしたその時、背後に現れたミノタウロスは手に持つ斧を振り上げ……一気に振り下ろした。

 それは狙い違えることなくヒカリを襲ったが、その斧先はヒカリの体を捉えることなく通り過ぎ、蹲るミノタウロスを斬り裂いた。

 攻撃を受けたミノタウロスは絶命して消えると、次に誤爆の攻撃を犯したミノタウロスも消えた。

 ヒカリが背後に回り込み、深々と背中から短剣を突き刺したからだ。

 その後も次々とミノタウロスは現れたが、その都度確実に数を減らしていった俺たちは、六一階に出る全てのミノタウロスを倒すことが出来た。

 俺も五体のミノタウロスと接近戦をしたが、特に苦戦することなく倒した。

 人型に近いというのもあって、戦い易いというのもあったんだと思う。



 

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