第538話 フォルスダンジョン・8

「明日は試合もないし、ダンジョンに行くわよ」


 宿に戻ってきた時のルリカの第一声がそれだった。

 クリスとミアは苦笑していたけど、セラとヒカリは賛成の声を上げていた。

 どうやら試合を見て、体を動かしたくてうずうずしているようだ。

 そして翌朝ルリカの宣言通りダンジョンに行くことになった。

 エルザたちに見送られて行ったのはダンジョンの五一階。

 五一階も相変わらず出る魔物はタイガーウルフ系だ。

 タイガーウルフとブラックタイガーに、この階からホワイトタイガーが出てくる。

 クリスの話ではホワイトタイガーの毛皮はタイガーウルフ系の中でも一番高く売れるそうだが、残念ながら手に入るかは宝箱のご機嫌次第だからな。

 強さ的にはブラックタイガーと比べて、魔法が効きにくくなっているのと硬さが増しているそうだ。


「素材を気にしないで魔法を撃てるなら私の精霊魔法なら問題なく倒せると思います」


 とはクリスの言葉だ。

 俺も複合魔法を一度試させてもらうかな。あとは通常の魔法も試してみたい。


「さあ、行くよ!」


 ダンジョンに入るとルリカが気合の入った声で呼び掛けてきた。

 それに呼応するようにセラが斧を振り回している。

 ブンブンという音が聞こえてくるのだが……セラも気合が入っていそうだ。

 まずは出現したタイガーウルフを確実に倒して減らしていく。

 ブラックタイガーとホワイトタイガーの二体は、俺が挑発を使って引きつけている。

 もちろん守るだけでなく攻撃を仕掛けるが、この二体上手いこと連携してくるから決定打を入れることが出来ない。

 魔法も試してみたが、ホワイトタイガーは通常のファイアーアローだと当たっても傷一つ付かない。それどころか避けもしなかった。

 複合魔法のサンダーは、撃った瞬間回避行動を取った。

 ブラックタイガーはサンダーを避けることが出来ず、感電したのか動き鈍くなった。

 その隙に倒そうとしたら、ホワイトタイガーが間に割って入ってきて邪魔をされた。

 突破しようと思えばいけるかもしれないが、ここは無理をする場面ではないと我慢する。

 この時々ブラックタイガーを攻撃する姿勢を見せて、ホワイトタイガーの動きを縛るのを忘れない。

 そうこうする間にタイガーウルフたちを倒した一行が合流すれば、あとは勢いそのままに残った二体も倒すことが出来た。

 ただここで終わらないのがこのダンジョンの特色だ。

 倒し終わってしばらく経てば、再び同じ数の魔物が出現した。

 確かこれが五回繰り返されると資料には載っていた。

 さらには次の階に行けば出現速度は上がるから、先程のペースだと倒しきる前に次の魔物が出ることになりかねない。


「少し倒す速度を上げてくよ。それと今度は私とセラでブラックタイガーとホワイトタイガーを受け持つよ」


 ルリカの言葉に次は俺はタイガーウルフと戦う。

 回転を上げるならやはり範囲魔法で一気に殲滅していくのがいい。

 俺とクリスが交代で範囲魔法を使って倒していく。

 そんな中淡々と変わらず倒していくのがカイナだ。

 カイナは魔物を倒してもゴーレムに憑依しているし、そもそもゴーレム自体にレベルが存在しないからレベルが上がることはない。

 ただ学習能力が積み重なっていくからまったく成長しないということはない。

 あとは強化するとしたらゴーレムの体自体を作り変えることだが、この辺りは素材を新たにして新しい身体を作ればいいのだろうか?

 心配なのは新しい身体にした場合どうなるか予測不可能ということだ。

 一体新しいゴーレムを作って、それに憑依して確認してもらうのが現実的だと思うが、どちらにしろゴーレムを作るための素材がないから作れない。

 今度商業ギルドか冒険者ギルドに行って、買取依頼を出した方がいいかな。



「それで何処まで今日は上がるんだ?」


 お昼休憩で食事をしている時に、気になってルリカたちに尋ねた。

 現在到達したのは五八階。六〇階まではブラックタイガーとホワイトタイガーのセットが出てくる階層なので、むしろ経験を積んで慣れてきたから手古摺ることはなかった。

 宝箱からホワイトタイガーの毛皮を入手出来たからかなり大きな金額が稼げたが、肉を入手した時に比べて感動が小さかったのは食に対する関心の差だろうな。

 俺も錬金術や創造で毛皮が利用可能なら興味を持ったが、残念ながらインテリアとして価値の高い素材には食指が動かないんだよな。


「確か六一階からはミノタウロスが出るんだったよね?」


 ルリカの言葉に頷く。

 ルリカの言う通り六一階から七〇階はミノタウロスの階になる。六六階からはさらに上位種のキングミノタウロスが追加で出てくる。


「無理する必要はないけど、行けるところまで行ってみたいかな? とりあえずミノタウロスと戦ってから決めようよ」


 ミノタウロスはなかなかの強敵だ。

 アルテアのダンジョンで戦ったのが初めてだったけど、あの時よりも俺たちも成長しているからな。

 特にヒカリとルリカの二人は新しいスキルを手に入れたから、色々と試したそうだな。

 ブラックタイガーやホワイトタイガー相手でも色々試していたからな。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る