第537話 本選二日目・3
第三試合はシュンが出場する。相手は人種のニール。所属はなしで剣の修行の旅をしているということで、武闘大会の話を聞いてやってきたらしい。
予選の内容は知らないけど、一回戦は一撃で、一刀のもと相手を殺し……倒していた。
「あのニールって奴は予選の全ての試合も一撃で終わらせてきたって話だ」
サイフォンが予選でどんな戦い方をしたかの説明をしてくれた。
自分も予選に参加していた傍ら、強い奴がいないかチェックしていたそうだ。
しかし剣の修行の旅か……この世界にもそんなことをする人がいるんだな。
歴史の本で昔はそんな人がいたとかって書いてあったのを読んだことがある。
「まずはシュンがどうやって相手の初手を防ぐかだな」
ナオトはそう言ったが、声からあまり心配していないことが分かる。
シュンはスキルで強化されて目がかなりいい。
俺も二、三度模擬戦をしたことがあるが、防がれ躱されで結局有効打を一撃も入れることが出来なかった。
ただニールの動きはかなり早い。
たぶんルリカの疾風の動きを見ていなかったら追えていなかったと思う。
では実際に俺が対峙したと考えると……剣だけで戦うのは無理そうだ。
盾で攻撃を防ぐことが出来れやりあうことが出来るかもしれない。
「お、始まるぞ」
サイフォンの言葉に、それがまるで聞こえていたかのように会場も静まり返った。
皆ニールの戦闘スタイルを知っているから、開始直後のその一瞬を見逃さないように集中している。
そして開始の合図と同時にニールの姿が掻き消えた、ように見えた。
金属の音が鳴り響き、一瞬後ニールはシュンの背後にいた。
シュンの体が揺れ……反転してニールに肉薄する。
ニールも攻撃が防がれたことが分かっていたからか、素早く反転してシュンの剣に合わせて剣を振るった。
それからは激しい剣の打ち合いだ。
静まり返った会場に剣のぶつかる音だけが響く。
「やるな。一撃で終わらせてたから分からなかったが、基礎がしっかり出来ていやがる」
「そうだね。それに焦りもなさそうだね」
サイフォンとジンが感嘆の声を上げる。
確かにシュンと互角に打ち合うだけでもかなりのものだと思う。
しかもニールには焦った様子がない。
ただ打ち合いながらジッとシュンを見詰めている。
それこそ隙でもないか、探るような視線だ。
「けど足を止めて戦ってるけど、最初のような動きはないんだな」
休むことなく剣を打ち合い、一〇分ほど経過した。
それだけの時間体を動かし続けているだけでも凄い。二人とも体力が良く続く。
俺だったら一度距離を取って休みたいと思ったかもしれない。
「ニールか? 確かに最初の一撃以外は普通に戦ってるよな。あの素早い動き連続して剣でも振られていたら俺じゃ防ぎきれなかっただろうな」
ナオトの言葉通り、あの消えるような速度で連続して攻撃を放たれたら攻撃を防ぎ続けるのはたぶん無理だ。
それをしないということは条件が何かあるのかもしれない。
可能性としてはあれがスキルの一種だった場合だ。
使うごとにSPが消費されるなら回数制限がありそうだ。
その時一際大きな金属音が鳴り響くと、そこで二人はお互い後退して間合いが開いた。
二人は剣先を向けたまま対峙し、息を整えているのが分かった。
そしてこの時、会場を埋め尽くす様な割れんばかりの歓声が上がった。
やがてその歓声も鳴り止み、再び二人に会場の全ての人の視線が注がれた。
ニールが最初に動くかと思ったが、先に動いたのはシュンだった。
素早く間合いを詰めると、剣を振り抜く。
ニールはそれに対して剣で打ち合わず後退することで回避した。
シュンはすぐさま追撃のため一歩踏み出したが、そこで今度はニールが動いた。
シュンの目の前で消えたように見えたと思ったら、次の瞬間背後にいた。
ただこれは一回だけでなく、シュンが反応して振り返った時に、再びニールの姿は掻き消え、シュンの背後へと回っていた。
その連続した動きに攻撃を完全に防ぐことが出来なかったのか、シュンの左腕からは血が流れていた。
痛みがあるだろうに、それでもシュンは怯まずニールを追いかけて接近戦を挑んだ。
ニールはそれを見て顔を歪めたが、シュンの攻撃を防ぐため剣を振るった。
一合、二合と打ち合い。再びあの緊迫した剣戟が始まるかと思ったが、その時はすぐに訪れ、呆気なく勝負はついた。
シュンの攻撃は時間が経つにつれて鋭さを増したが、ニールは逆に動きが悪くなった。
そうなると徐々にシュンの攻撃についていくことが出来なくなり、やがて最後は受けきれなかった剣が深々とニールの体を引き裂き、そこで勝負はついた。
「あの攻撃……使うとかなり体に負担が掛かるものだったのかもな」
ナオトの言葉に、連続して攻撃を仕掛けた直後のニールを思い出す。
確かに苦しそうではあった。
それでも使うと選択したのは、剣での打ち合いでは勝てないと悟って勝負に出たからなのかもしれない。
最後の呆気ない幕切れで会場は静まり返ったが、それでも勝者のコールがされれば割れんばかりの拍手が会場を包み込んだ。
これで明後日の試合では、獣王とガイツ、アルゴとシュンの対戦となるのだが……なんか知り合いしか残っていないのだが……それだけ三人のレベルが高かったということなのだろうか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます