第535話 本選二日目・1
翌日も騎士団所属の騎士と予選敗退者の試合から始まった。
予選敗退者といってもさすがここに呼ばれるだけあって、その実力は確かなものだ。
サイフィンもその動きを見て申し分ないと頷いている。
昨夜は俺たちが部屋に戻ったあとも飲んでいたみたいだが、今日は二日酔いになっていない。
一応酒を飲む許可をもらっても、その辺りはユーノを怒らせないように注意したんだろう。
王国にいた時は何度か二日酔いになっている姿を見たことがあったから。
「お、あいつは俺と予選で戦った奴だ。いい腕してると思ってたんだ」
サイフォンの言った獣人は、善戦したが最後押し切られて敗北した。
「相手が悪かったな。かなりの上位者と当たったみたいだ」
「そうなのか?」
「ああ」
「リュリュどうなんだ?」
「そうっすね。確かに彼は実力者のうちの一人っすよ。その彼に善戦したのですからなかなかの見所っす」
動きがいいのは見ていて分かるが、俺にはそこまでの良し悪しが分からないからな。そこが見る目の差なんだろうな。
「お、ガイツが出て来たな。今回は騎士団の奴とだったな」
確かに対戦相手の彼——イーダは獣王と模擬戦をした時にあの場にいたのを覚えている。
「今回は槍使いか……」
エルザたちの方を見ると、カエデがエルザとアルト二人に話し掛けている。
シズネは仲間にして欲しそうに三人を見ている。
「槍が相手だとガイツ有利なのか?」
「ソラは何でそう思うんだ?」
「槍については良く分からないけど攻撃の基本となるのは突きってイメージだろ? そうなると盾だと防ぎやすい気がするんだよ」
「それは一理あるが、突き以外の攻撃……例えば払いによる攻撃も馬鹿にならないからな。獲物が長いから足元を狙うことも出来るからその分対処する幅が広がる」
確かに盾で足元をカバーするのは難しい気がする。
ガイツの盾は巨大化する魔法の盾だから防ぐことは出来るが、その分視界が塞がるという短所もある。
ガイツも魔物相手に使うことはあるけど模擬戦では使わない。
それは魔物との相手ではガイツが守り、サイフォンたちが攻撃をすると役割が決まっているからだ。
そして開始された戦いでは、イーダは払いや斬撃を主として攻撃を仕掛けた。
ガイツは盾を忙しく上下に動かし、また盾で防ぎきれないと悟ると間合いから逃げるように飛び退いた。
イーダは目まぐるしく動き回り、ガイツに休む間を与えない。
獣人特有の身体能力を生かして、素早く側面に回るなどして攻撃している。
「あの槍は特別製だな。しなりが良く効いている」
「けどそうすると突きには向かないんじゃないのか?」
確かに普通の槍と比べると大きくしなっている、ような気がする?
「だから特別製なんだろうな。来るぞ」
サイフォンの言葉通り、イーダはガイツがバランスを崩したタイミングで今まで使っていなかった突きによる攻撃を繰り出した。
その一撃をガイツは盾で受け止めたが勢いが殺せず吹き飛ばされた。
「しならない?」
「技術かもしれないが、どちらかというと槍の特性だろうな。だからぶつかった衝撃で槍がしなることなく衝撃を与えることが出来るんだろうな」
バランスを崩したとはいえ、あのガイツがその威力を受け止めることが出来なかったほどだ。かなりのものなんだろう。
「なるほど。これりゃ相手は場外狙いだな」
確かに今の一撃でガイツはかなり舞台の隅の方に追いやられていた。
それが卑怯とは言わない。
そのようなルールだし、ガイツも一回戦ではそれで勝利している。
むしろいかに目の前の敵を倒すかを考えた場合、一つの解ではあるか。
イーダの攻撃は休まることなく続き、じりじりと後退させられたガイツはやがてあとがないところまで追い詰められた。
そして先ほどの同じように払いに寄る攻撃を避けた時にガイツがバランスを崩した。
本来なら後ろに飛び退きたいところだったのにそれが出来なかったため無理な姿勢で避けたからだ。
「決まったな」
サイフォンの言葉は通り、勝負は決着が着いた。
イーダは好機とみて渾身の刺突を仕掛け、ガイツは盾を巨大化させて攻撃を防ごうとした。
槍の先端と盾が衝突し、イーダが舞台中央まで吹き飛ばされた。
……そして立ち上がることなく、イーダの姿は掻き消えた。
「今のはリフレクションか?」
シールドマスターのスキルの一つだ。
攻撃を反射するスキルだが、攻撃が強いほど威力が上がるというものだ。また盾の重量でもその威力が変わるというものだ。
「ああ、ガイツ狙ってたな。わざと隅に追いやられて、さらにバランスを崩すことで攻撃を誘いやがった。ガイツとしたらあのまま突きなしで攻撃された方が辛かっただろうしな」
結果イーダは最大の攻撃で先程と同じように吹き飛ばそうと狙い、逆に反撃にあって退場させられたということか。
会場もまさかの逆転劇に大盛り上がりだ。
こうして二回戦、第一試合はガイツの勝利で終わった。
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