第534話 今日ぐらいは……

「飲んでるのか?」


 夕食を終えてお風呂に入って戻ってくると、食堂にはアルゴたちがまだいた。

 アルゴたちパーティーとユーノを除くゴブリンの嘆きの面々、あとはナオトと騎士団の者がの姿があった。

 アルゴとガイツ以外はどうやら酒を飲んでいるみたいだ。


「今日だけは、思いっきり飲んでいいって言われてよー」


 赤ら顔のサイフォンが、ジョッキを傾けると一気に呷った。

 酒を飲んだこともなければ飲み方も分からないが、今の飲み方が体に悪い事だということはなんとなく分かる。

 けどこの世界ではこれが普通なのか、少数を除きサイフォンと同じような飲み方をしている。

 身体的にも頑丈ではあるけどさ。


「ナオトは巻き……誘われたのか?」

「俺は酒は結構好きだし、向こうじゃなかった酒が楽しめるからな。それに飲む相手がいないと寂しいから時々アルゴたちとは飲んでたんだよ」


 ああいう飲み方はしなけど、とナオトはサイフォンたちを指して言った。

 一人離れているのは、あの飲み方に巻き込まれたらたまらないかららしい。


「お、ソラじゃないかー。何か作ってくれよー。酒に合うつまみをよー」


 サイフォンに見つかってそんなことを言われた。

 酒に合うつまみなんて言われてもな。酒なんて飲んだことのない俺には分からないぞ。

 俺が戸惑っているとナオトが教えてくれた。

 王都や旅したところで食べた料理から、あとはどんな味付けが合うかなどなど。

 なかには知った料理もあったから……材料はアイテムボックスから取り出した。

 あとで請求かな? と思ったが、たぶんユーノから許可をもらっているところを見ると、サイフォンが負けたのを慰めるための会なんだろう。

 その倒した当人もいるのが何ともいえないけど。

 ちなみに酒は自分たちで町で買って来て、つまみは料理している人たちが帰ったためなかったようだ。

 それなら屋台で買ってくればいいと思ったら既に食べ尽くした後だったようだ。


「つまみは少なかったのは、酒をたくさん買って予算がなくなったからだ」


 とは後でナオトが教えてくれた。

 俺が料理をしていると、お風呂から上がったのかヒカリたちも姿を現した。

 酔っ払いを見てシズネによってエルザとアルトは強制的に退場していった。

 ヒカリはナオトの近くの席が空いているからそこに座った。

 そして俺の方に期待に満ちた目を向けている。

 うん、何か食べたいようだ。

 試合の観戦中もたくさん食べていたんだけどな。成長期だからか?


「ソラ、手伝おうか?」

「あー、なら料理を運んでもらうか? それとこれはヒカリに頼む」


 ミアが声を掛けてきたから頼んだ。

 それから料理がある程度行き届いたから俺はヒカリの座る席に向かった。

 そこにはミアたち女性陣が座っていた。

 ナオトの姿が見えないと思ったらギルフォードの隣にいた。

 席を女性陣に占拠されたのか、それとも女性の中で一人いるのが居心地が悪かったのか……判断に迷う。


「ねえ、ソラ。わざわざ料理しなくてもアイテムボックスに色々な料理が入っているんじゃないの?」


 俺が近付くと、ミアが隣の席を叩きながら座るように促してきた。

 ヒカリも食べる手を止めて見てくる。

 その目は空いてる席に、隣に座るように訴えてきている気がした。

 俺は素直に従った。

 いつものメンバーにカエデ、ミハル、コトリが増えただけだしな、と思うことにした。


「ソラ、私たちも何か食べたいけどいいのある?」


 座るなりルリカが言ってきた。

 ここはきっと大事な局面だ。

 他の面々もそれに対して何が食べたいとは言ってきていない。

 ヒカリが口を開きかけたがそれを隣にいるコトリが阻止をした。

 これは試されている……?

 まずは冷たい飲み物を配って時間を稼ごう。

 アイテムボックスからコップを取り出すと人数分の果実水を用意する。

 そこで魔法で精製した氷を入れるのも忘れない。

 その時間考えるのは何を出すか。

 並列思考を駆使し、さらに無駄に時空魔法を使って考える時間をさらに稼ぐ。

 なんというスキルの無駄遣いか。

 そして気付く。

 ルリカたちは俺のアイテムボックスに何が入っているかを把握していることを。

 それなのにあえて自分たちから提案してこなかったのはこの時間には食べ難いもの?

 そんなのあるかと思ったが……甘いもの?

 確かに寝る前にはあまり食べない方がいいとかどこかで聞いたことがあるような気がするけど……。

 なら甘いものを

 だけどそこまで考えてさらに悩む。

 そんなものを出していいのか? これは罠ではないかと。

 いや、ここは考えてもこれ以上の答えは出ないし、体を動かしているルリカたちからすれば該当しないはず。

 あとこっちの世界には夜中に甘いものを食べては駄目なんて話は聞かないし、何より甘いものは貴重なものだから喜ばれるはず。

 ということで俺は果実水に合いそうなスイーツを出して渡した。

 結果は……惨事。

 別にルリカたちからは好評だった。

 怒られることもなかった。

 ただ美味しそうにそれを食べる女性陣に興味を持った酔っ払いたちに出せと強要されて、断ることが出来ずに消費したことが問題だった。

 今度転移で補充しに行ってくるか……。

 そういえば甘いものが出るお店には、男性客も多かったような気がする。

 珍しいから老若男女問わずにスイーツは人気なのかもしれないな。

 


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