第533話 本選一日目・4
四試合目と五試合目が終わると、六試合目に姿を現したのはシュンだ。
「シュンはどれぐらい戦えるんだ?」
実は異世界召喚された中で、一番接点がないのがシュンだったりする。
なんか避けられている感じがするんだよな。
真面目な性格だってことだし、召喚された時に俺だけ城の外に放り出されたのに何かしらの責任を感じているのかもしれない。
ナオトにいったら笑いながらそれはないと言われたけど。
「剣の腕だけでみたら俺よりも全然強いよ。シュンは剣のある意味スペシャリストだしな。特に魔王城から帰還してからはアルゴたちに戦い方をよく教わっていたからな」
確かシュンの職業は剣王だった。
ソードマスターのスキルをはじめ、近接系に特化した補助のスキルも充実していると言っていた。詳細は知らないけど。
ただ本人は魔法を使えないと残念がっていた。
確かにファンタジー世界……魔法のある世界にきたら魔法を使いたいと思うのは仕方ないのかもしれない。憧れというか便利だしな。
攻撃魔法よりも生活魔法がこの世界では欲しくなる。
一応今後に期待ということで、魔法の勉強もしているとコトリから聞いた。
「シュンの相手は獣人の……あれは魔法使いか?」
手に持っているのは一見すると棒のようだが先端に宝玉のようなものがついている。魔力察知を使うと確かに魔力のようなものを感じる。
それに獣人にしては魔力量も多い。
開始線に両者が立つと会場が静まり返った。
どの試合でもそうだが始まるその時は静かだ。
その静寂もすぐに破られるわけだけど。
開始の合図とともにシュンが一気に突撃した。
相手が魔法を使うと判断して、距離を取るのは危険と判断したのだと思う。
けど相手の獣人——ライスも前に出た。
意表を突かれたシュンはライスの一撃を受けて後方に飛ばされた。
振るわれた棒が当たる瞬間剣で防いだからダメージは入っていない距離が開いた。
これは魔法使いの間合いだ。
使用したのはファイアーボール。ファイアーアローと同じ火属性の初級魔法に分類される魔法だが、それは唱えてによって変わる。
またファイアーアローと比べると威力は落ちるけど、それはファイアーアローが点による攻撃に対してファイアーボールは面による攻撃というのもある。
それが一度に五発も放たれれば驚くのは無理はない。
たぶん初手の反撃による吹き飛ばしから、既にこの状況を想定していたに違いない。
でないとここまで早い魔法による攻撃は無理だ。
しかも単体魔法を連発とか、何かしらのスキルを持っているのかもしれない。
いや、スキル以外にももう一つの可能性がある。
この武闘大会には本人の実力以外にも装備の差がある。
公平ではないという声を上げる者もいるが、それも実力の一つというのがこの国の考えだ。
魔法がシュンに迫り、その素早い攻撃に観客は歓声の声を上げ、ミハルとコトリは悲鳴を上げた。
多くの者が魔法の着弾を予測し、それは裏切られた。
シュンが五度剣を振るうと、ファイアーボールは斬られて消滅した。
それを見た観客たちは驚きの表情を浮かべ、今日一番の歓声が会場を包んだ。
さらにその場で一歩踏み込むと、距離があるにもかかわらずシュンは剣を振るった。
ライスはそれを見て、即座に魔法を唱えた。
舞台上に土の壁が出現した。アースウォールだ。
ただ次の瞬間、その壁は縦に線が入ると真っ二つに分かれた。
しかしそれをライスは予想していたのか、既に避難している。
走りながら右に移動していたライスは、攻勢に出るためさらなる魔法を放った。
放たれたのはトルネード。シュンに向かって飛んでいく風の渦は、舞台に広がり逃げ場をなくす。
息を呑む観客たちの前でシュンは振り下ろした剣をトルネードにぶつけた。
シュンはその反動で後方に弾き飛ばされたが、トルネードの向きが変わった。
正確にはライスに向かっていく。
それを見たライスは慌ててそれを防ぐためアースウォールを使い、さらには自分の周囲にシールドのようなものを魔力で張ったが、反転して向かってきたトルネードはその全てを呑み込み、ライスの絶叫が上がった。
トルネードに呑み込まれる瞬間、ライスが大きく目を見開いていた。
そしてトルネードが消えたその場所には、ライスの姿はなくなっていた。
「魔法を斬って消滅、さらに弾き返すとか無茶苦茶だ」
しかもトルネードを弾き返した一撃。ただ魔法を弾いたのではなく威力を強めていた。
それがあったからこそライスの守りは突破され、最後に一瞬見えた顔に驚きの表情が浮かんでいたのだろう。
「あれもシュンのスキルによるものだな。俺には無理だな」
「俺だって盾でなら魔法は防げるが、向かってくる魔法を斬るとか無理だよ」
ナオトの言葉に俺も思わず言った。
獣王は殴っていたけど、そんなことが出来る者が他にもいたとは。
まあ、もしかしてら他にも出来る人は探せばいそうだけど。
特に魔人の中には結構いそうな気がする。
「それでは本日の試合はこれで終了します。それではまた明日会いましょう!」
シュンの勝利宣言ののち、司会者の言葉が場内に響き渡り、本選一日目は終了した。
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