第532話 本選一日目・3
二試合目は獣人通しの戦いになった。
持つ武器はそれぞれ剣と槍だ。
槍と武器はその間合いの差もあって槍が有利となっているが、結果は槍の使い手が勝った。
「あの長物を体の一部として使ってるみたいだったね」
「うん、凄い。間合いを詰められても翻弄してた」
何度か剣有利の間合いに入られていたけど、その都度冷静に対処していた。
逆に最後はそれを利用して誘い込んでからのカウンターだ。
槍が対戦相手の体を貫いたのを見てエルザやミハル、コトリは悲鳴を上げていたけど、すぐに対戦相手は掻き消えた。
これが会場に設置されたものの効果か。
「次はいよいよアルゴとサイフォンか」
第三試合の組み合わせだ。
獣王国に来てからは模擬戦をしていたようだけど、互いに武闘大会に出ることが分かっていたから本気の戦いはしていなかったように見える。
今回は人種通しの戦いだから観客がどんな反応を示すかと思ったが、歓声は変わらなかった。
Aランク冒険者と紹介されたところで一番盛り上がっていた。
一方サイフォンも負けてはいない。
そこには前の試合でガイツが活躍したというのもあるのかもしれない。
同じパーティーメンバーということで期待が高まっているようだだった。
「アルゴさん有利ね」
「うん、戦いはもう始まってる」
そんな二人を見てルリカとヒカリがアルゴ有利と評価した?
「パーティー名で地味にダメージを受けているkらね、サイフォンは」
「なら変えればいいのに」
「変えても一度ついた名前はなかなか消えないんだよ」
ジンが苦笑交じりに言った。
「それに僕としては別にいいかな、って思っているからね。冒険者というのは名前を売ってこそ依頼をとか受けやすくなるからね」
それは分からなくないけど名前は大事だと思う。
認知度は確かに上がったと思うけど。
「それじゃサイフォンやるか? 手加減はしないぜ?」
「ああ、今日こそお前を越える!」
開始と同時サイフォンが動いた。
大剣を軽々と振り回してアルゴに襲い掛かる。
アルゴはそれに対して剣を合わせて軌道を変えたり、左右に跳んで斬撃を躱した。
「やるな!」
「お前こそ。こうして本気でやるのは初めてだな!」
アルゴが上段からの一撃を躱すと、一気に間合いを詰めた。
サイフォンはそれを見て大剣を引き戻そうとしたが、それをアルゴは足で踏み付けることで遅らせた。
アルゴは動きの止まったサイフォン目掛けて剣を振り抜いたが、それをサイフォンは大剣を離して後方に飛ぶことでそれを避けた。
一進一退に攻防に歓声が上がるが、今のサイフォンは無手だ。
「降参するなら今だぞ?」
「……ふん、怖いのか?」
剣を差し向けられたサイフォンが逆に挑発する。
それを受けたアルゴがじりじりと間合いを詰めていく。
そしてアルゴの間合いは入った瞬間、二人が同時に踏み込んだ。
これに驚いたのはアルゴだ。
完全に剣を振るうスペースがなくなり、サイフォンは腕を取ると手をギュッと握った。
予想外の痛みで剣を落としたアルゴを、サイフォンはそのまま腕を取って背負うと床に向けて叩きつけた。
いや、叩きつけれていない。
アルゴが床に当たる瞬間体を捻ると、そのまま腕を取ってサイフォンの体を倒すと、腕ひしぎ十字固めの姿勢になってサイフォンを拘束した。
試合はそこで終了した。
最後はまさかの決着で観客は戸惑っていたが、ここは獣王のお膝元。何でもありの武道大会だ。
一人が声を上げて手を叩けば、瞬く間に闘技場は歓声と拍手に包まれた。
「ちっ、まさかこんな決着とはな」
「何をいうこの馬鹿力が。腕が使えなくなるところだったろうが」
「治療してもらえばいいだろ」
こうして第三試合はアルゴの勝利で終わった。
「……という会話してた」
ヒカリが淡々と二人の口の動きを読んで、二人が話していたであろう会話をアテレコしていた。
「ヒカリお姉ちゃん凄いです」
エルザは手を叩き、アルトはコクコクと頷いている。
確かに凄いと思うが、ヒカリは感情のない声で淡々と話していたから、あまり緊迫感が伝わってこなかった。
いや、確かに手汗握る攻防だったのは確かだけどさ。
あと本当にそんな会話をしていたかどうかは、ここにいる者は誰も分からない。
ただ自信満々なヒカリを見ると、あながち間違っていないと思えてしまうのが不思議だ。
「けどサイフォンは大剣でアルゴの剣速に負けてなかったよな」
「それがサイフォンの長所だからね。ただ僕としては大剣の重い一撃を剣で普通に防いでいたアルゴの技術の高さに凄さを感じたよ」
「普段からあれぐらいやってくれれば俺たちも苦労しないだけどな」
ギルフォードとジンがそれぞれ褒め合っているが、最後に愚痴を言っていた。
アルゴは一目惚れしたモリガンを探すためとはいえ、怠惰な日々を過ごしていたからな。
極秘裏に探すためにあえて演じていたって話だけど、どうしてもその時のナンパしている人というイメージが今も残っているんだよな。
けどまさかの決着方法に、それには驚かされた。
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