第531話 本選一日目・2
開始と同時に間合いを詰めた獣人は、大きく大剣を振りかぶった。
対するガイツは盾を構えた。
剣と盾がぶつかり合い大きな音が鳴る。
剣を振り下ろした熊の獣人の男——ロシーニは驚きの表情を浮かべて飛び退いた。
「会心の一撃だったんだろうね」
そう言ったのはルリカだ。
ガイツが微動だにしないで攻撃を受け止めたため、慌てて間合いを取ったようだ。
ガイツの戦闘スタイルは純粋に盾で戦う。一応腰に剣を指しているけど、あれはある意味飾りみたいなものだ。
もちろん剣を全く使わないわけではないし、ジン曰く剣の腕も悪くないということだ。
それでも盾を主にして戦うのは、元々は冒険者なりたての頃にポーション代が嵩み金欠の時代が長かったせいだ。
冒険者で盾を使う人は全くいないわけではないけど珍しい。神聖魔法の使いて以上、魔法使い以下の人口だとジンは説明した。
「ダンジョンで活動する人たちの方が、盾を使う人が多いんだけどね」
言われてマジョリカダンジョンのことを思い出す……見た記憶があまりないな。
あ、けど確かに下層の方で活動している中には確かに何人かいたな。一緒に攻略した守護の剣には複数人いたし。
ジンが言うには、特に迷宮型のダンジョンは多い方だと言う。
それは限られたスペースで戦わないといけないというのがあるようだ。
逆にフィールド型はスペースを広く使えるから避けやすいというのもある。
飛び道具と魔法攻撃は厄介だったよな。
俺たちもそれを利用して戦ったこともあるけど。
「お、判断が早いが。上段からの一撃が防がれたから手数で攻めている」
「けどそれだと攻撃が通らなくないか?」
「確かにガイツなら問題なく防ぐな。相手もたぶん分かってる。ああして隙が出来るのを待ってるんだと思う」
攻撃の激しさが増し、一方的な展開になっている。
ガイツはじっと盾を構え、冷静に攻撃を捌いていく。
「勝負あったな」
「そうなのか?」
「ガイツの勝ちだね。そもそも一撃でガイツの防御を突破出来なかったから、勝機はなかったんだよ」
俺がジンを見ると、
「大剣よりも小回りの効く僕の攻撃を防ぐんだよ? 確かに手数が増えて派手に見えるし、ガイツは防ぐしか出来ないみたいに見えるけどあれはわざとだよ」
「分かるな。私も全部の攻撃防がれて、結局攻撃が止まったところで負けたからね」
ジンの言葉にルリカは冒険者ギルドの鍛練所で指導してもらった時のことを思い出したようだ。
確かに俺も冒険者時代に手解きを受けたことがあったけど、その攻撃を全て防がれて攻撃が通ったことはなかった。
もっとも攻撃していて疲れたことはなかったけど。
あれは自然回復向上のスキルとソードマスターのスキルで余計な動きをしなかったからだろうな。
あのころは剣の扱い方もあまりよく分かっていなかったら、基本に忠実とういか、スキルが教えてくれる無駄のない動きをしたから疲れなかったのかもしれない。
そしてジンの言う通り、戦況は徐々に変わっていった。
ロシーニの手が鈍くなり、明らかに疲労の色が見え始めた。
「本当なら相手の疲労を誘うなら避けた方が負担がないだけどね。盾で防ぐ時はどうしても受け取るために力が入るからその分体力を消費するんだ。けどガイツはそれを逸らすから体力の減少が他と比べてすくないだよ」
さらにジンはガイツの足元を見るように言ってきたから俺たちはそれに従った。
「あまり動いていないね」
ミアの言う通り、ガイツは殆ど定位置から動いていない。
完全に止まっている訳ではなく、基本の軸を中心に一歩二歩動きながら攻撃を防いでいる。
まさに最小限の動きで戦っている。
「実はああやって攻撃を止めながら微妙に体を動かすことで、相手の動きを制御しているんだ。例えばわざと左側面に隙を作って、そっちに誘導する。攻撃するためには回り込む必要があるからその分相手は余計な動きをしないといけなくなってね」
分かっていても、戦うとその術中に嵌っちゃうんだよねとジンは言った。
「さて、そろそろ決着が着くよ」
ジンの宣言通り、ロシーニが攻撃した瞬間。この日初めてガイツは大きく体を動かして攻撃を躱した。
盾で受け止められることを想像していたのか、空を斬った一撃は、勢いが乗っていたせいかロシーニの体が流れた。
前につんのめるような姿勢になったロシーニの無防備な体が、まさに今ガイツの目の前にある。
ガイツは一歩踏み出すと、盾を振り抜いた。
鈍い音が響き、ロシーニの体が吹き飛んだ。
大柄の体が宙を舞い……場外へと落ちた。
それを見た試合会場は一瞬静まり返ったが、ガイツに勝者のコールが入ると怒号のような歓声が会場を包み本選一回戦、第一試合は幕を閉じた。
負けたロシーニは場外から舞台に戻ると、ガイツと握手をして何事か話している。
真剣に受け答えするガイツと、ガイツの言葉に耳を傾けるロシーニを見ると、昔を思い出す。
俺もああやってアドバイスをもらっていたんだよな。
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