第530話 本選一日目・1
「主、これで美味しい!」
俺はヒカリお勧めの料理を受け取ると、眼下に見える試合会場を見た。
今日から武闘大会が開催される。
今日は一回戦六試合が行われる。
観客は満員で熱気が凄い。
試合が始まっていないのに騒がしい。
「今日は一回戦六試合が行わるのか?」
「それだと早く終わってしまうっすから。その前にいくつか試合を行なうっすね」
「試合?」
「そうっす。模擬戦みたいなものっす。予選で負けた人と騎士団員か試合をするんすよ。早々と負けた人の中にも実力者はいるっすからね。そういう人たちのための場みたいな感じっすね」
確かにくじ運次第で本選に出られなかった実力者というのはいるかもしれない。
「もっとも他に目的があるんすけどね」
リュリュの話では、予選敗退した中から才能や実力のある人を発掘するという目的もあるが、もう一つは騎士団の引き締めのために行うそうだ。
「騎士団に所属しているからって胡坐をかいてもらっては困るっすよ。給料支払っているんすから、それに見合う働きをしてもらわないと困るんすよ」
そのため勤務態度や騎士団として活動出来ないと判断した者がこの試合に回されるそうだ。
「もし負けたら?」
「聞きたいっすか?」
意味深に笑われてしまった。
「あ、ただ騎士団から参加している人がすべて水準以下の人を選んでるわけじゃないっすよ。じゃないと察しのいい人は気付いちゃいますからね」
そんなことを話していたら突然会場が鎮まり返った。
視線を戻すと舞台の中央に立つ獣王の姿がある。
そして発せられたの、
「これより武闘大会を開始する!}
と一言だけだった。
その言葉に観客が歓声を上げた。
隣のリュリュが頭を抱えている。
……もしかしたら開会宣言で他にも言うことがあったのかもしれない。
そっとしておこう。
そして始まるのは騎士団と予選敗退者の試合だ。
これはこの日で全てやるわけではなく、次の日も行われるそうだ。
「主、気合の入った戦いだった」
「ヒカリちゃんの言う通りよね。ねえ、リュリュ。この試合って得意武器が同じ人同士で戦わせてるの?」
「良く気付いたっすね。ルリカの言う通り武器は出来るだけ合わせてるっす」
あくまで対等に戦って実力を確認するのが狙いなのか。
「あ、勝負ついたさ」
セラの言う通りこれで第四試合が終了した。
負けた騎士団員は悔しそうに床を叩き、勝った方は肩で息をしながらも清々しい表情を浮かべている。
「騎士団は憧れの職業の一つでもあるっすからね。その騎士団員と戦って勝てれば嬉しいっすよ。実際ここでいいところを見せて騎士団に入隊した者もいるっすからね」
これで残り二試合か。
「そういえばナオトには声を掛けなかったのか? それともこれは獣人国の人限定か?」
今の四試合は全て獣人が出場していた。
あ、けど騎士団には獣人以外に人もいた気がする。少人数だけど。
「ナオトにも一応声を掛けたっすよ。断られたっすけどね。あとは実力あれば人種は気にしないっす。一応裏を調べるっすけどね」
声を掛けたんだ。
調査をするのは国に害を為すものを排除するためみたいだ。
「まあ、けど怪しい人にも声を掛けているっすよ。あえて戦ってもらって心を折るようにしているっす」
リュリュが悪い笑みを浮かべている。
その様子にナオトも引いている。
「珍しい。今度は剣と短剣使いの戦いね」
ルリカの声に再び舞台に目を戻すと、確かに短剣を手に持っている。
ヒカリは武器が同じだからか集中し始めた。
何故分かったかって、さっきまで料理を食べながら観戦していたけど今はその手が止まっているからね。
またこれはエルザとアルトも同じだ。
もっとも二人の場合は槍を使っている人が出ても見ていたけど。
カエデが何処が良かったかなど二人に話しているのを見た時は驚いてけど。
それを傍らで聞いていたアルゴパーティーの槍使いも頷き、さらに補足を入れていた。
しっかり説明出来るということは、スキルだけに頼らずかなり勉強や鍛練をしたんだろうな。
「凄いな」
と感じたことを素直に口にしたら、
「カエデ先輩は努力家だからな」
とナオトが嬉しそうに、誇らしそうに言っていた。
勝負は紙一重で、騎士団員の勝利で終わった。
獲物が短剣ということで不利かと思ったが、逆に間合いを詰めて常に剣が本領発揮出来ないように体を動かし善戦していた。
それに短剣を装備していたが、スタイル的には獣王に近いようで、殴る蹴るが飛んでいた。
それを見たヒカリは難しい顔をしていた。
ヒカリだと殴る蹴るは難しいからな。
そして本日最後の予選敗退者による試合が終了し、本選が始まる。
入場してきたのは大剣を背負った大柄なら熊の獣人とガイツだ。
向かい合うとガイツが見上げる形になる。
まず最初にルールの説明がされた。
勝利条件は致命傷が入って退場するか、場外に落とすかで決まる。
それが終わると選手の紹介がされたが、結構詳細に紹介されている。
「ゴブリンの嘆き所属。ガイツ!」
と紹介された時は、ジンが苦笑をもらしていたけど。
「サイフォンは悶絶しそうだな」
あー、確かサイフォンはあのパーティー名嫌っていたと言うか、恥ずかしがっていたからな。
ガイツは特に気にした様子もなく集中しているみたいだ。
やがて選手を紹介した司会らしき者が舞台から降りると、二人は向かい合い……開始の合図とともに獣人の男が突撃していった。
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