第527話 本選抽選会

 予選会が終わった翌日。本選が行われる闘技場で抽選会が行われた。

 抽選方法はくじで相手が決まるようで、予選を通った参加者たちもそこで紹介される。

 この時予選での選手の戦いぶりも説明されるそうだが、何故そのようなことをするかというと、この武闘大会では賭けが解禁されているからだ。

 賭け事をすると賭けた選手を勝たせようとする輩が現れるなんてことが起こる気がするが、この国ではきつい罰則が与えられるからそのようなことをする者はいないという。


「き、緊張するな」


 シュンが落ち着きなく会場を見ている。

 現在俺たちは闘技場の特別観戦席にいる。

 獣王から試合を見るならここを使えと提供されたのだ。

 完全個室になっているから、周囲の目を気にしないで見ることが出来る。

 あとは特別というだけあって広い。

 俺たち全員が入ってもまだ余裕がある。

 俺は改めて会場を見るが、シュンが緊張するのは仕方ないと思う。

 客席が完全に埋まると三万人近い人が観戦することになるという話だ。

 この時ばかりは近隣の村からも見に来るような人もいるということだ。

 予選を通過した者の中には村を代表する戦士もいるということで、その村の殆どの住人が応援にかけつけるとか。


「俺だったらこの中で戦うのは嫌だな」


 こんなんじゃとてもじゃないけど集中なんて出来ない。


「そうか? 別に観客なんて気にならないな。どうせ戦いが始まれば対戦相手しか見えなくなるしよ」

「それに参加者の中にはチャンスでもあるからな。本選に出るってだけでも注目されるし、有力者から声がかかるかもしれないしな」


 アルゴとサイフォンは関係ないと笑い飛ばしている。

 この武闘大会は獣王国の人たちだけでなく、エレージア王国やエルド共和国、エーファ魔導国家やフリーレン聖王国からも見に来る者がいるそうだ。

 王国や帝国は人類至上主義の国だからわざわざ来るのか? と思うが、そこには敵情視察も兼ねて見に来る者がいるとのことだ。

 なかにはアルゴたちのように人種の参加者も毎年いるって話だからな。

 ちなみに前々回、前回二位の選手は人種だそうだ。


「よし、そろそろ時間だ。シュン、行くぞ」


 アルゴに促されてシュンは立ち上がった。

 相変わらず顔が強張っている。


「頑張ってね」


 とミハルに言われたらその緊張も少し解けたみたいだけど。

 そして始まった抽選会。別に今日戦うわけでもないに、闘技場内は八割近くが埋まっている。

 抽選で何処のグループに入るか、誰と戦うかが決まると観客からは歓声が上がり、選手からは悲鳴が上がった。

 主に悲鳴を上げたのは獣王のいるグループに入った四人のうちの二人だ。

 この大会は参加選手もその順位によって賞金が贈られるみたいだからな。

 特に一位と二位は段違いに高額らしい。

 そのため獣王と同じグループになると二位狙いが出来ないというわけだ。

 そんな心意気でいいのか? と思うけど、今の獣王は強すぎるためそのように思う参加者が多いということらしい。

 前回二位の人が参加しなかった理由の三分の一も、獣王には勝てないと思ったからみたいだ。

 そして今回獣王と同じグループに入った中にはガイツの姿があった。

 ガイツの一回戦の相手は獣人の冒険者のようだ。

 サイフォンたちは反対グループに入ったが、アルゴとサイフォンが一回戦で当たるみたいだ。

 シュンの相手は獣王国の騎士団の者らしい。


「アルゴとサイフォンが初戦か。単純にランクから考えるととアルゴの方が強い気がするけど、ジンとギルフォードはどう思う?」

「難しいところだね。サイフォンは剣が大剣よりだから、速度で負けるから不利かな?」

「一撃の重さならサイフォンの方が有利じゃないか? それに日頃からあのガイツと手合わせしてるからな」


 ジンとギルフォードは冷静に分析している。

 そしてやはりガイツの評価が高い。

 ギルフォードのアルゴに対する評価が低いというのもあるかもしれないけど。

 昔は……俺が冒険者になった頃は依頼を殆ど受けずにナンパをする日々だったからな、アルゴ。

 王国で一緒に戦ってその強さに触れたけど、どうしてもあの時にイメージが消えない。

 もちろんそのように振る舞っていたのには理由があったわけだけどね。

 ちなみにこの武闘大会の本選では、古代の魔道具で結界を発生させて戦うことになっている。

 この中で戦えば、致命傷を受けても死ぬことはない。

 また致命傷を受けると場外に飛ばされるそうだ。

 そのため弱い複数の攻撃よりも、強い一撃の方が有利に働くことがあるそうだ。

 もっとも弱い攻撃でも、攻撃を受ければ痛いのには変わりないんだけど。


「ま、勝負は時の運だしな。俺たち観戦者はただ楽しんで見てればいいんだよ。金を賭けるなら別だけどな」

「ギルフォードは賭けるのか?」

「……確実に当てることが出来るところは賭けるかもな? 破産しない範囲でだけどな」


 確かに一攫千金を狙うのはいいけど、生活に支障をきたすのは問題だな。

 もっともお金はそれなり……いや、かなり貯まっているから、わざわざ賭けをしてまで増やす必要はないよな。

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