第523話 フォルスダンジョン・4(実戦)

 翌日は、結局ダンジョンの続きから進むことになった。

 六階から一〇階の出る魔物の数は、ウルフは五〇体と変わらず、最後に出てくる上位種が三体と増えている。

 一度に出るウルフの数が五体と変わらないが、次に出現するための時間の間隔がさらに短くなっているそうだ。

 いかに素早く倒して、次に出てくるウルフに備えるかになるのだが、俺たちのパーティーは範囲魔法を使える者が多いから苦戦することはないだろう。

 もっとも前衛陣も強いから魔法による攻撃がなくても問題なくこの辺りなら進めそうだけど。


「それじゃ予定通りウルフ一体をひきつけておけばいいんだよな?」


 俺の言葉に、ルリカが頷いた。

 そして最後にウルフ五体とウルフの上位種三体が出てきたところで、俺はそのうちの一体に挑発を使って集団から引き離した。

 俺がそのウルフと戦っている間、シズネを中心に出現した魔物を倒した。

 今回俺たちがこのようなことをしたのは、エルザとアルトに実戦経験を積ませるためだ。

 魔物がウルフ一体になったら、ミアが二人に補助魔法をかけて、俺も二人にシールドを唱えた。

 さらにエルザたち二人は俺の傍らまで移動してきた。


「大丈夫か?」


 俺はウルフを盾で弾きながら尋ねたら、エルザは大きく深呼吸して頷いた。

 エルザたちが今手に持っている武器は、エルザが槍でアルトが短剣だ。

 レイラが派遣してくれたメイドのタリヤから受けた手解きで、それぞれ箒(棒術)と包丁(短剣)の扱いを重点的に教わったからみたいだ。

 ……深く考えるのは止めよう。


「それじゃいくぞ」


 俺は気配遮断を発動させ、目くらましとしてライトの魔法をウルフに使った。

 ウルフが目を瞑った瞬間、俺は隠蔽を自身に使って二人から離れた。

 ライトの光が収まった時、ウルフがキョロキョロと周囲を見回したのは対象(俺)を探したからだろう。

 においで探してくるかと思ったがそんなことはなく、結局俺を見つけられなかったウルフは近くにいた二人を標的にしたようだ。

 ウルフは唸り声を上げると、アルト目掛けて駆け出した。


「アルト!」


 エルザが思わずといった感じで叫び声を上げたが、アルトは慌てることなくウルフの攻撃を躱した。

 ただやはり魔物との初めての戦闘だからだろう。大きく飛び退いた。

 これがヒカリやルリカなら、最小限の動きで間合いを保ったまま避けて、そのまま斬り倒していただろうな。

 さすがにそれは高望み過ぎるというものだ。

 攻撃を躱されたウルフは着地と同時に反転すると、今度はエルザ目掛けて飛び掛かった。

 エルザはその攻撃に対して、躱しながら槍を振るった。

 攻撃を出来たのは、槍という武器のお陰だろう。間合いは広いからな。

 ただ躱しながらというのと、槍の刃じゃない部分に当たったからか、ウルフは攻撃を受けたが大したダメージは入ってないようだ。

 それでも攻撃を躱されて反撃を受けたからか、二人に対して不用意に飛び掛かるのは止めたようだ。

 そこで今度はエルザとアルトが動いた。

 初手はエルザで、その間合いを利用してウルフに攻撃を仕掛けた。

 鋭い突きによる一撃が放たれたが、ウルフはそれを躱した。

 ただ予想以上の速い攻撃だったようで、ウルフは慌てたのか躱した際にバランスを崩した。

 そこに予めウルフが回避する方向を予想していたのか、体勢を崩したウルフにアルトが斬り掛かった。

 その攻撃にはさすがのウルフも対処出来なかったようで、前脚が斬り裂かれた。

 ウルフは悲鳴を上げたが、その目はまだ死んでない。

 血が流れているが、傷も浅そうだ。


「アルト、下がって!」


 さらにアルトがウルフに対して追撃しようとしたようだが、そこにエルザが待ったをかけた。

 その声に反応したアルトが後退すると、まさにアルトが先ほどまでいた場所にウルフが飛び掛かっていた。

 あのまま前に踏み出していたら、正面衝突していたか、悪ければカウンターの一撃をくらっていたかもしれない。

 それはまさに紙一重の行動だったが、その危機は逆にチャンスにもなったようだ。

 ウルフが着地する瞬間、横合いから伸びた槍がウルフの胴体を貫き……ウルフは消滅した。

 槍を突き出していたエルザは、ウルフが消えたのを見て立ち尽くしていた。

 そこにヒカリたちがやってきて、ウルフを倒したことを褒めるとやっと実感が湧いたのか安堵のため息を吐いていた。


「最後ウルフが飛び掛かってくることが分かっていたのか?」


 俺も二人を褒めながらエルザに尋ねたところ、


「確信はありませんでした。けど……何となく危ないなって」


 とウルフの動きを見て感じたそうだ。

 その辺りはタリヤや、ヒカリたちに色々教えてもらっていた時に、魔物の動きを良く見ることが大事だと言われ続けた結果だと言っていた。

 逆にそれに気付けなかったアルトは少ししょんぼりしていたが、初めての実戦で緊張していたわけだし仕方ないと思う。

 それは俺だけでなく、ヒカリたちも同じようで励ましていた。

 その後も各階でウルフを一体残しての戦闘訓練は続き、一〇階では二人の動きが見違えるように良くなっていたのは、ただ単にレベルが上がっただけではないようだった。

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