第520話 フォルスダンジョン・1(魔導王)

 武闘大会の予選が始まった。

 武闘大会の予選はフォルスの街の中に作られたいくつかの場所で同時に行われるようで、そこである程度人数を絞るみたいだ。

 アルゴたち参加する者たちは朝早くから出掛けて行った。

 リュリュに聞いた話だと予選だけで五日間かかると言っていた。

 応援しにいくか迷ったが、全員を平等に応援するのは無理と判断してダンジョンに行くことを選んだ。


「決勝トーナメントに残れない奴が悪いんだよ」


 なんてシズネはナオトとシュンに向かって言っていた。

 キツイ言葉だが、二人なら大丈夫だろうと信じているように見えた。

 確かにあれからアルゴたちの模擬戦を見たけど、予選で互いが当たらなければ結晶トーナメントには残れそうな気がした。

 あとはくじ運次第だな。

 そんなこともあり、今俺たち一〇人はフォルスダンジョンの入口にいる。

 普段ならそれなりに人が多いが、今日から武闘大会が始まったからか空いている。

 ちなみにここのダンジョンの仕様だが、誰かが一階を利用していると待たされることになる。

 この辺りはマジョリカのボス部屋と同じ仕様だ。

 そういう事情もあって、俺たちは空いている今を逃すまいとダンジョンを利用することを決めた。

 ちなみにダンジョンに入って、三日経ってもクリア出来ないと強制的に部屋から退出されるらしい。

 その場合ペナルティーとして、三〇日間ダンジョンに入れなくなるということだが、滅多なことで起こらないということだった。

 それは既にどの階に何の魔物が出るかが分かっているから、無謀な挑戦をする者がいないというのもある。


「それじゃ行くけど。大丈夫、皆が守ってくれるさ」


 俺の言葉にエルザとアルトが緊張した面持ちで小さく頷いた。

 仕方ない。いきなりの実践がダンジョンなんだからな


「大丈夫。僕に任せておきなよ」


 そんな二人にシズネが笑いかけている。


「うん、どうした?」


 ダンジョンに入場する時、ふとカイナが足を止めた。

 カイナは首を傾げていたが、皆が中に入って行くのを見て慌てて部屋の中に入っていった。

 やがて全員が部屋の中に入ると、入ってきた扉が消えた。

 それを見たエルザとアルトは驚いていた。

 さらに二人の驚きは続く。

 目の前の何もない空間からウルフが出現したのだ。その数五体。

 魔力察知を使えば、ウルフたちが出現したところに強い魔力反応を感じた。


「さあ、次が出る前に倒すよ!」


 シズネは言うが早いかウルフに対して魔法を放っていた。

 使った魔法はファイアーストーム。ウルフ五体は一瞬にして炎に包まれて……炎が消えた時には骨すら残らず消えていた。

 まあ、魔物は死ぬと自動的に消えるってことだから何も残らないわけだけど。


「す、凄いです」


 それを見たエルザが目を輝かせてシズネを見て、アルトもコクコクと頷いている。

 シズネは自慢げに鼻を擦ると、しばらくして次に現れたウルフも一瞬にして倒していた。

 最後にウルフ五体の上位種であるファイアーウルフが一体が同時に出現したが、それも瞬く間に倒した。

 結局一階に出た魔物ウルフ五〇体にファイアーウルフ一体は、シズネが一人で倒してしまった。


「まだ魔法を撃つ余裕があるのか?」

「もちろんよ」


 シズネに尋ねたらそんな答えが返ってきた。

 さすが魔導王といったところだな。

 普通の魔法使いなら、ああも魔法を……範囲魔法を連発していたら途中で使えなくなっていたはずだ。

 特に上位種であるファイアーウルフを倒した時は、単体魔法と範囲魔法を駆使して難なく仕留めていた。

 魔法の使い方が巧みで上手い。


「主、宝箱!」


 俺がシズネの戦い方を思い出していたら、ヒカリから声を掛けられた。

 見ると魔物が出現していた地点に宝箱が一つ落ちていた。

 先程まで感じていた魔力反応はすっかり消えていた。

 ついでに背後と前方にそれぞれ扉が現れていた。

 背後の扉を通ればダンジョンから出ることが出来、前方の扉を通れば次の階へと行くことになる。

 宝箱には魔石が五一個と、ウルフ毛皮と、ファイアーウルフの肉が入っていた。

 残念ながら他には入っていない。

 けど素材が綺麗な状態で回収出来るのはいいな。

 一番の利点は魔物を倒す時に、素材のことを気にしなくていいところか。

 低階層に出る魔物は弱いから、その辺りのことを気にしながら戦う余裕があるが、上の階に行くほど難しくなりそうだからな。

 特に七〇階以降に出る魔物に関しては、戦ったことのない魔物ばかりだった。

 その辺りはまた資料で魔物の特徴や倒し方を資料で確認する必要があるが、まだそれは先のことだ。


「それじゃ次の階に進むか?」


 俺はそう言ってエルザとアルトの二人を見た。

 その際鑑定を行なえば、二人のレベルが上がっている。

 ウルフは魔物のランクとしては低いが、二人のレベルが低いことと、数を狩ったことで経験値が大量に入ったのだと思う。

 俺の言葉にエルザとアルトが頷くのを見て、俺たちは二階へと進むことにした。

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