第518話 模擬戦・2
合図と同時に、獣王が間合いを詰めて急接近してきた。
流れるどうさで繰り出された右ストレートを、俺は盾を使って防いだがその勢いに押されて体が後ろに押しやられた。
その後も獣王は攻勢をかけてきたが、俺はそれを盾や時に模擬刀を使って防ぐ。
拳だけでなく蹴りも使ってきたけど、冷静に対処すれば防ぐことは十分可能だ。
ただ荒々しい攻撃に見えて実は反撃の隙がないため、どうしても防戦一方になってしまっている。
「守っているだけじゃ俺には勝てないぞ!」
確かに獣王の言う通りだ。
このままでは勝ち筋が見えない。
なら魔法を併用して戦えばいいのだが、それが意外と難しい。
転移や時空魔法を使えば虚をつくことが出来るし、有利に戦うことが可能だけど、出来れば人前で使いたくない。
これはいざという時の切り札ということもある。
では一般的な魔法になるが……。
俺はファイアーアローやストーンバレットを使ってみたが、躱すどころか拳で弾いていた。
ウインドカッターはさすがに躱していたけど、それも必要最低限の動きだった。
威力を抑えてあるとはいえ、魔法ありと自信満々に言ったのはこれが理由か?
これでは相手を怯ませることも出来ない。
ただ観戦している人たちの反応は違うようで、応戦しながら魔法を使う姿に感嘆の声をもらしていたらしい(後で聞いた)。
「なかなか良くなってきたようだが、まだまだ足りんぞ!」
獣王の攻撃を盾で受け止めたが、先程よりも威力が上がっているように感じた。
速度も上がっている。
俺は隙をついて魔法を使って牽制したが、まったく効果がない。
時間が経てば経つほど攻撃の手がなくなり、再び防戦一方になってしまった。
誰もが俺の負けだろうと思ったに違いない。
でも俺は戦いながら微妙な魔力な流れを感知した。
魔力感知を使って探れば、獣王が魔力を纏っているのが分かった。
上手いのはその使い方だ。
常に放出するのではなく、必要な時に少ない魔力を体に纏わせて戦っている。
元々獣人は魔力の多い人が稀で、セラもそうだが魔力の保有量は少ない。
実際普段の獣王から感じられる魔力量は多くないが、それを無駄なく使って戦っているのが分かる。
俺が魔法を撃って攻撃した時も、グローブに魔力を纏わせて弾いている。
もちろんそのような防ぎ方をすれば魔力の減りも多いが、無駄な動作をしなくていいという利点はある。
なら獣王に勝つにはそれを浪費させればいいということになるのだが……。
俺は今度は単体魔法ではなく範囲魔法を多用した。
もちろんその間も獣王からの攻撃は続くし、接近された状態で魔法が当たるとこちらにも被害が出たりする。
けど純粋な魔力量なら獣王に負けることはない。
それに自然回復向上があるから、使った分の魔力の回復も早い。
俺はファイアーストームやトルネードなどを時々使ったが、そのどれもが獣王には効かない。
装備が燃えたりしないかと思ったが、体全体を魔力で覆っているから大丈夫のようだ。
さすがに自分でもやり過ぎかなと思ったが、
「これでこそ戦いだ!」
と獣王が嬉しそうに叫んだのを見て考えるのはやめた。
それよりも早くこの戦いを終わらせるための方法を考えることにした。
ここで手を抜いて負ければきっと納得がいかないだろうし、こちらもここまでやったなら勝ちたい気持ちも生まれた。
俺の範囲魔法の攻撃の意図を知ってかどうかは分からないが、獣王は範囲魔法を撃つと大きく避けるようになった。
実際に範囲攻撃の魔法は体全体を覆うからそれを防ごうとすると魔力の減りが大きいから、獣王も分が悪いと思ったのかもしれない。
俺はそれを見て、ここで初めて俺の方から攻撃を仕掛けた。
俺はフェイントを交えながら剣を振るうが、残念ながらまったく通用しない。
やはり純粋な接近戦だと、経験の差があり過ぎる。盾を使っているから、守り主体というのもあるかもしれない。
なら盾を捨てて剣一本で戦えばどうかと想像するが、剣一本では獣王の攻撃を防ぐことは難しいだろう。
こちら剣一本に対して、獣王は両手両足を使って臨機応変に攻撃してくる。
体捌きだけで躱すのも無理だと思う。
あとは剣の分のリーチを生かして間合いを保って戦えるかだが……簡単に踏み込まれてしまっている。
それは獣王が手足に装備しているガントレットやグリーブが攻防一体のものだからだろう。
きっと色々な戦い方を模索した結果、今の形になったんだと思う。
「さて、そろそろ決着をつけるか!」
互いに攻めきれず、時間だけが経過していた。
ただ獣王の魔力は残り僅かまで減っていて、俺は魔力はまだ余裕があるが、連続した激しい攻撃を防ぐのに精神的に消耗していた。
激しい攻撃を捌けていたのは、並列思考を集中して使っていたからだが、昔はこの辺りの使い方が未熟で、SPを使い切ってタイガーウルフから深手を負わされたことがあったんだよな。
俺は一つ息を吐くと、俺も決着をつけるべき二つの魔法を用意しながら剣を握りしめた。
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