第513話 中央都市フォルス・1

 獣王のお膝元、中央都市フォルス。そこには三つの特徴的な建造物が存在する。

 一つ目は獣王が済む王城。時の王たちが色々と手を加えたため、外観はお世辞にも綺麗いとは言えない。

 けど各分野に突き抜けていた人が希望して手を加えていたため、王城内の施設はかなり充実していると噂されている。

 二つ目は武闘大会の会場となる武闘場。帝国にあると言われる闘技場に似ているが、ここには向こうの闘技場にない機能が存在している。

 それは武闘場では致命傷を負っても死なないという機能だ。

 ただその機能を使用するには、大量の魔石が必要となるため、武闘大会以外では殆ど利用することはない。

 三つ目がダンジョン。フォルスにあるダンジョンは塔型で、その高さは王城を優に超す。

 ただクリスに聞いた話だとダンジョンは全一〇〇階の階層になっているとのことだが、そこまで外観は高くない。

 どうも内部が異空間のようになっているみたいだ。



「あ、あ兄ちゃん。こっちこっち」


 フォルスの街に入場してまず向かったところは、冒険者ギルドだった。

 前日コトリと通信機で話、待ち合わせをしていたからだ。

 コトリは俺たちを見つけると元気よく手を振ってきた。

 ここのギルドは受付が二つ存在し、通常の受付をしているところと、ダンジョン用の受付をしているところに分かれている。

 この辺りはマジョリカの冒険者ギルドと似ている。


「おう、サイフォンたちじゃないか。本当にソラたちと一緒だったんだな」

「アルゴか。話はソラから聞いてるぞ。何でも失恋したんだってな」


 サイフォンとアルゴが懐かしそうにどつきあっている。

 俺は失恋したなどとは一言も言っていないぞ?

 顔を真っ赤にしたアルゴに睨まれたが、俺は無罪を主張した。


「シズネ。無事でって良かったわ」

「カエデ姉さん」


 シズネもカエデたちとの再会を喜んでいる。

 あの強気なシズネが涙を流すほどなのだから、きっと俺には分からないものがシズネとカエデたちの間にはあるのだろう。


「久しぶりだな、ソラ。何でもマジョリカのダンジョンを攻略したって?」

「どうにかね。向こうの知り合いのクランと協力してだけど無事攻略出来たよ」

「それで次はここのダンジョンに挑戦するのか?」

「そう、なるのかな?」


 俺はナオトと話しながらどうするか考える。

 ここフォルスのダンジョンは、マジョリカやプレケスと違って色々なルールが存在するそうだ。

 まず第一にダンジョンの入場条件。これはBランク以上の冒険者が一人はいないといけない。そうでないと入場出来ない。一応武闘大会などで活躍して、獣王の許可が下りると利用が可能になる。

 第二に一度に入れる人数。フォルスにあるダンジョンは、マジョリカやプレケスと大きく違い、一つのフロアが広くないそうだ。

 そのせいか人数制限が一〇人以下となっている。

 第三がこのダンジョン一番の特徴で、ダンジョン内で死ぬと復活の間というところに転送されるという点だ。

 最初そのことを聞いて思わずゲームのコンティニューを思い浮かべたのは、仕方ないと思う。

 死の危険がないならもっと一般開放してもいいと思うが、実はそう出来ない理由がある。

 例えば復活の間に転送されて生き返る時、致命傷を受けた傷の何倍もの痛みを伴うということだ。

 そのため体は無事だが、痛みに耐えかねてショック死する場合があるという。

 ただこれはダンジョンが誕生した当初はそのようなことがなかったそうで、いつからか復活する時に痛みを伴うという状態になったそうだ。

 遥か昔のことなので、何故なのかその原因は謎のままだという。

 ちなみにダンジョン内で負傷した傷は、部屋を出たからといって治らないため注意が必要なのと、無理だった場合は部屋から出ることも可能だということだ。


「ナオトたちはどうするんだ?」

「俺たちだけじゃ入れないし、行くかどうかは考え中かな? ただ武闘大会にはシュンと一緒に出る予定だ。ソラはどうするんだ?」


 ナオトに聞かれたその時、ギルドの入口がざわついた。

 何事かと振り返れば、何処かで見たことのある人……もとい狼の獣人が堂々とギルドの中に入ってきたのが見えた。


「久しぶりだな、ソラ⁉ それと嬢ちゃんたちも?」


 獣王は真っ直ぐ俺たちのもとに歩いてきた。

 理由は分からないが上機嫌だな。

 その後ろにはリュリュがいて、疲れたような顔をしている。

 そしてその小柄のリュリュをロックオンしているのはシズネだ。尻尾が揺れるたびに目でそれを追っている。


「えっと、エンド様お久しぶりです?」

「はっはっは。何でそんな他人行儀だ。俺たちは一緒に拳を交えた仲だろ⁉ もっと砕けた口調でいいんだぞ?」


 獣王のその一言に、場は騒然となった。


「マジか?」「あの人種、何者だ?」「何て命知らずなんだ」


 などなど言葉が飛び交う。

 残念ながら拳を交えた覚えはない。一緒に王都で力を合わせて戦った記憶はあるが。

 俺たちの反応が悪いのを察したのか、獣王はわざとらしく咳をすると、


「ま、まあそれよりもだ。武闘大会の登録はもう済ませたのか? 確かアルゴからダンジョンに入りたいと聞いているが?」


 と尋ねてきた。



 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る