第512話 ラク
国境都市を出発してからラクの町に到着するまでに、多くの乗合馬車を追い越し、魔獣馬車には追い越されていった。
追い越す時に馬が過剰な反応をするかと思ったが、隠密のお陰か、特に馬は反応を見せなかった。
そもそも魔獣が近くを通っても無反応だから、肝が据わっているのか訓練されているのかもしれない。
そして件の魔獣馬車だが、物凄い速度を出していた。
追い越された時に乗っている人に目を向けたが、顔色が悪そうな人が多かった。
助けを求めるような目を向けられても無理だよ?
「ほら、乗らなくて良かったでしょう?」
ルリカの声は少し震えていた。
けどエルザはあれを見てホッとしていた。
逆にヒカリとシズネはちょっと興味深そうにしていた。
ラクに到着したのは国境都市を出発してから五日後だった。
普通ならもっと時間がかかるけど、そこはゴーレム馬車の強みだ。
魔力がある限り走り続けてくれるから、夜も休まず移動したのが大きい。
ただずっと乗りっぱなしは体が疲れるから、食後の休憩を少し長めにとって運動をした。
……ま、まあ体を動かすことといったら定番なのは何故か模擬戦。
これにはシズネにカイナの他、エルザとアルトも参加した。
エルザとアルトは某先生に色々仕込まれていたみたいだからな。
「それじゃここからは歩いて行くか」
一時間も歩けばラスに到着するところまで近付いて、俺たちは馬車を降りた。
ここからは歩いてラスまで向かう。
のんびり歩いてラスまで到着すると、そこには長蛇の列が出来上がっている。
ただ長蛇の列を作っているのは馬車のため、俺たち徒歩組は徒歩専用の門から手続きをして、あまり待たされることなく入場することが出来た。
ラスの町に入って、俺は動きを止めた。
町の中には多くの獣人が歩いていて、それこそ人種を探す方が大変といった感じだ。
「セラお姉ちゃんがいっぱい?」
アルトは目を丸くして驚いている。
「モフモフ天国⁉」
シズネも多くの獣人から目が離せないようだった。
突然抱き着くような奇行だけは控えてもらいたい。
「ほら、とりあえず宿を取るぞ。人も多いようだし、早くしないと宿が取れないかもしれないからな」
サイフォンから注意された俺たちは、町中を進みながら宿を探す。
メインとなる大通りの両脇には、布の天幕で作られたお店が多く並んでいる。
料理を売るお店もあれば、食材を売っているお店もある。
ずらりと並ぶ食材につい目が奪われるが、今は我慢だ。
それと人が多いため、迷子にならないように小さな子たちは手を繋いで逸れないようにしている。
ルリカやクリスの話では、前回寄った時はここまで人が多くなかったと言っている。
「やっぱ武闘大会の影響かな?」
「それもあると思います。もしかしたら集落から出張して商品を売りに来ている人もいるかもですね」
その後宿を探したが、結局安い宿は埋まっていて、空いていても高い部屋しか取ることが出来なかった。
ダンジョン攻略でお金は稼いでいるから余裕はあるが、その豪華さにエルザとアルトが心配そうに部屋の中を見回していた。
「それでどうするんだ? 一日休んで出発するか、それとも何日か滞在して町を回るか?」
ルリカたちに聞けば、ゴーレム馬車を利用すれば武闘大会への登録締め切り日までは十分間に合うという話だ。
なら急いで行く必要もない。
それにエルザとアルト、それとシズネには少し疲れも見えたからね。
結局その日は宿でゆっくり休み、元気になった翌日に皆で町中を歩いた。
色々と見たこともない食材も多く、その都度お店の人にどんなものかを聞いて回った。
食に関しては我が家のお財布は緩むから、その購入ぶりにサイフォンは呆れ顔だったが、
「お酒よりはましよね」
という底冷えするようなユーノの一言で視線を逸らしていた。
結局一日かけて大通りの殆どの店を回り、多くの食材と料理がアイテムボックスの中に消えていった。
宿に戻ったらミアとクリス、エルザが今日買った食材でどんな料理を作ろうか話しているし、ヒカリとアルト、シズネはどの料理が気に入ったかを話している。
翌日は宿の人に聞いた冒険者御用達のお店や、普通に服屋を教えてもらいそこで服とかを購入した。
小さい子たち三人が着せ替え人形のようにされていて、終わったあとはエルザとアルトは物凄く疲れているようだった。
シズネの暴走を止められなかったことに対して心の中で謝罪したが、
「あれはちょっと私でも無理かな」
とルリカが苦笑いをしていた。
救いは三人が楽しそうにしていたところかな?
シズネだって嫌がることはしないだろうしな。嫌われたくないから。
ミアはミアで、色々な服を見て布を買っていたけど、もしかして服を自作しようなんて考えているのだろうか?
そして予定通り三日ラスで過ごし、俺たちは獣王の住まう街、中央都市フォルスに向けて出発したのだった。
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