第511話 ゴーレム馬車・2
翌朝国境都市の北門で手続きを済ませると、俺たちは町を出た。
「ラクまでかなり距離があるが、歩いて行くのか?」
門番の人にはそう心配された。
その目がエルザとアルトの方に向けられていたのは言うまでもない。
「馬車の予約が取れないし、魔獣馬車に乗るのも……」
と言葉を濁したら、察してくれた。
「あの人、絶対魔獣馬車に乗ったことあるはずよ」
ルリカは確信に満ちた言葉で言っていた。
「とりあえずある程度離れたら馬車を出すからな」
朝の込む時間を避けて、少し遅い時間に町を出たのは、出来るだけ目撃者を減らすためだ。
町を出る時に歩いていたのに、馬車に乗って移動していると分かったらそれだけでも不思議に思う人はいる。
余計な揉め事を避けるためだが、何かあってもサイフォンたちがいれば何とかなりそうな気もする。他力本願だけど。
三〇分ほど歩いて町から離れると、そこで俺は馬車をアイテムボックスから取り出した。
「よくこんな大きな物が収納出来たな」
サイフォンには驚かれたが、馬車を丸ごと収納してもまだ入りそうなんだよな。
追加でゴーレムを呼び出して馬車と繋げると、御者台に俺とヒカリが座り、後方の見張りの出来る場所にはオルガとジンの二人が座った。
「乗心地が悪かったら意見を言ってくれ。改良……は出来たらするから」
俺だって出来ることと出来ないことがある。
俺は手綱を手に取ると、ゴーレムに指示を出した。
ゴーレムはゆっくり歩き出す。
まずは速度を抑えて馬車を走らせる。人が走る速度とまでは行かないが、早歩きよりは速度が出ている感じだ。
「乗心地はどうだ?」
「うん、問題ない」
ヒカリの言葉に、安堵のため息が漏れた。
結構突き詰めて作ったからね、一応。
「主、もっと速度出ない?」
けどそんなことをヒカリに言われてしまった。
「とりあえずもう少し様子見をしたいからこの速度だな」
今の速度だと、先日まで乗っていた馬車よりも少し速度が遅いからな。
だからとりあえず一時間ほど様子見をして、エルザたちに乗心地を聞いて特に問題ないようだから徐々に速度を出すことにした。
ただ速度を上げるとゴーレムの魔力が僅かだが減って来たから、その都度魔力を補充する。
それからさらに一時間ほど走らせ、お昼を食べることにした。
エルザとミアが簡単なスープを作ってくれて、メインは昨日ヒカリたちが屋台で買い込んだ料理を食べる。
「主、これが一番お勧め」
ヒカリの言葉にアルトも頷いている。
俺はそれに従い食べた。
ウルフの肉串だが、珍しくタレでなく塩コショウをベースに味付けしてある。少し辛味が効いているな。
「エルザとアルトは疲れていないか?」
マジョリカを発ってから二〇日近くが経っている。
旅慣れしていない二人には辛いかと思ったが、まだ元気のようだ。
ただお昼は長めに休憩をとり、その後馬車を走らせた。
これは朝出発した乗合馬車に、このままのペースで行くと追い付いてしまうからだ。
獣王国内の街道は、他の国の街道と比べて幅が広くとられている。
そのため追い越すのは簡単だが、他の馬車の馬がゴーレムが近付いた時に、どう反応するか分からなかったからだ。
いっそ隠密を使えば気配が消えるから問題なくいけるのか?
俺はそんなことを考えながら馬車を走らせると、熟練度稼ぎのためにも隠密をこまめに使うことにした。
やがて日が暮れ始めると、前を走る馬車の反応が左右に割れていく。
たぶん暗くなる前に街道脇に移動して、野営の準備をするのだろう。
「主、馬車が見えてきた」
ヒカリの言う通り、停車している複数の馬車が見える。
俺はその馬車を横目に見ながらさらに先に進む。
通り過ぎる時にこちらに目を向ける者もいたが、特に目立った反応はなさそうだ。
「それじゃそろそろ野営の準備をするか」
MAPで確認したが、かなり距離を取ることが出来た。
あとはあの人たちよりも明日の朝早く出発すればいい。
急ぐなら夜も馬車を走らせるのも手だが、今のペースならそこまでする必要はないだろう。
俺は街道の傍らに馬車を停めると、早速野営の準備をした。
土魔法で地面を均し、調理場と寝床の準備をする。
クリスが言うには雨の心配がないということだから、テントを建てることはしない。
温暖な気候だから地面に敷物を敷いてローブに包まるだけで十分過ごせそうだ。
夜の料理はスープの他に、肉串や炒め物を作った。パンは町で買ったものをアイテムボックスから出した。
食事が終われば少し早いが、見張り以外の者は寝ることにした。
念のために俺は馬車と野営場を囲むようにシールドを張り、ゴーレムにも警戒するように命じておいた。
今度はキャンピングカーのように、馬車の中で眠れるものを作るのもいいかもしれないなと思いながら、眠りに落ちていった。
魔法で家を作ることは出来るけど、さすがにあれは目立つからな……。
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