第510話 ゴーレム馬車・1
「お世話になりました」
「なに、これも仕事だからよ」
「それでここからはどう戻るの?」
クリスが御者の人にお礼を言い、ルリカが尋ねていた。
「この町で護衛を雇って帰るだけだよ。護衛に関してはウィル様から手紙を預かっているから、これをギルドに見せれば適任者を紹介してくれるのさ」
護衛依頼だが、移動は全て馬車に乗っての移動だから、この手の依頼は人気があるそうだ。
一応希望はマジョリカまでだが、なかには今いる町からそんな離れたくない人もいるから、その辺りは交渉になると言っていた。
「皆さんと別れたあとの、食事が少し心配なんだよな。エルザちゃんにアルト君。美味しい料理をありがとうな」
御者の二人がお礼を言うと、二人は嬉しそうにしていた。
道中の料理は、殆ど二人の手によって作られていたからな。
もちろん二人だけに任せるのではなくて、俺たちも交代で手伝ったりしていたけど。
「それでこれからどうする? 乗合馬車にするか? それとも馬車をレンタルするか? オルガとジンなら馬車の操縦も出来るしよ。それとも時間短縮を考えるなら、魔獣馬車もありだぞ」
サイフォンの魔獣馬車という単語に、ルリカの肩が震えた。
「とりあえず馬車の状況を見てから決めないか? 武闘大会が近いってことは、乗れないかもしれないだろ?」
思い出すのはフリーレン聖王国の降臨祭だ。
あの時は聖都メッサに行く人が多くて、乗合馬車は予約が一杯だった。
運良く乗れて、その時に出会ったのがレイラたちだったんだよな。
「それもそうだな」
俺たちは御者の人たちと分かれて、町の北側に向かう。
その門の近くに馬車を扱う商人がいて、そこで乗合馬車の予約状況を確認した。
予想通り今は獣王国に行く人が多いようで、馬車は何日先まで埋まっていた。
獣王国内は、獣王が住まう中央都市フォルスを中心に、東西南北に町がある。
獣王国にある町はその五つだけで、あとは大小の集落が無数に存在する。
ルリカたちがセラ探しで苦労した原因の一つだ。あとは大雑把な人が多くて、記録もしっかりつけてなかったというのがあるらしい。
国境都市から一番近い町はラクという町だが、距離があるため一度馬車が出ると戻って来るまで一〇日以上かかる。
そのため馬車が足りないみたいだ。
「魔獣馬車なら三日後の予約があいてるがどうする?」
ラクの町から到着する魔獣馬車が二日後に到着するため、一日魔獣を休ませて三日後に出発するということだった。
俺はルリカに以前乗心地が最悪という話を聞き、また人種の多くがそれを耐えられなかったのを聞いている。
……エルザとアルトはきっと辛いだろうな。
そうなると魔獣馬車は選択肢から外れる。
かといって馬車が利用出来ないと、ラクまで歩くことになり武闘大会に間に合わなくなるかもしれない。
俺やダンジョンを散々歩いた皆ならたぶん問題なく到着出来るけど、やはりエルザとアルトは耐えられないだろう。シズネもちょっと怪しいかもしれない。
「とりあえず今日泊まる宿を取ろう」
ということで宿を取ったら、俺は転移用の魔道具を宿の部屋に設置した。
以前簡易のゴーレム馬車を作ったことがあったが、その改良版を作ろうと思ったのだ。
町の外に出て作ってもいいけど、目立つから町からかなり離れる必要がある。
それなら王国にある王都の家か最果ての町に転移して、そこで作った方が気兼ねなく作業できる。
俺がそのことを伝えると、町を散策する人と俺についてくる人に分かれることになった。
別に作業するだけだから俺一人転移すればいいと思ったが、一人にさせるのは心配だということらしい。
結局俺についてくることになったのはルリカとクリスの二人で、他は町を見て回ることになった。
「それで今度はどんな馬車を作ろうとしているの?」
「前は六人用だったから小さかったけど、今度は皆が乗れる大きなものを作る予定だよ。問題はゴーレム一体で牽けるかだけど、無理ならもう一体ゴーレムを作るかだな」
俺はルリカと話しながら、プレケスで買った素材を使って馬車を作る。
錬金術で部品を作っていき、最後にその部品を錬金術で組み立てる。
馬車を作るために注意したのは、耐久力と乗心地だ。
特にサスペンションには拘った。
長時間座ることになる椅子も大切だが、あとはすぐに外に飛び出せる構造にする必要がある。
MAPと気配察知で魔物からの不意打ちは防げるが、盗賊の見分けは難しいからな。それ対策だ。
「座り心地はどうだ?」
二人に確認したら合格点をもらえた。
二人には馬車にそのまま乗っていてもらい、さらに重量をかけるための重しを載せた。
その状態でゴーレムに馬車を牽かせたが、どうやら一体でも大丈夫のようだ。
ただ魔力の減りが早いみたいだから、こまめに魔力付与で魔力を補充してあげる必要がありそうだ。
手綱を通して魔力を流せるようなものを作った。
「ゴーレム馬車ってやっぱり目立つよな? 見た目をどうにかしたいと思うけど、どうすればいいと思う?」
俺は二人に相談しながら、最後にゴーレムと分からないようにするための装備を錬金術で作っていくのだった。
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