第509話 プレケス
マジョリカを発って一週間が経過した。
俺たちはプレケスに到着し、今日はここで一泊することになった。
プレケスは魔導国家にあるもう一つのダンジョンのある町だが、マジョリカと比べて人の活気が少なく、少し寂れた印象を受ける。
「ここは以前、ダンジョンの入場制限をかけたことがあったんですよ。それで多くの冒険者がここを去って、そのままあまり戻って来なかったみたいなんです」
御者の一人がそう教えてくれた。
確かサイフォンたちもそれでマジョリカの方に流れて来たって話だった。
シズネが目を逸らしたのは、心当たりがあるからだろう。
ただここの領主にも問題があるみたいで、一部冒険者を優遇していたのもあって、それで嫌気がさしたというのもあるようだ。
また魔王討伐の時期には領主が騎士団やお抱えの冒険者を黒森に派遣し、その多くが帰らぬ人となったためさらに人が減り、治安も悪化しているようだ。
領主がダンジョンに入ってくれる冒険者を優遇するという処置をとっているそうだが、それも上手くいっていないと御者の人は言っていた。
「まあ、あとで調べたら、ここのダンジョン自体結構癖があるみたいだからな」
サイフォンが言うには、プレケスのダンジョンは二〇階の階層自体は多くないが、一階一階がフィールド型になっているため一回入ると一〇日近くは戻って来れないということだ。
「あとは二〇階に出る魔物だな。あそこはボスのドラゴンしか出ないみたいだが、そもそもドラゴンは強いから討伐が難しい。ドラゴンの素材は高額で取引されるが、倒せないと意味ないし、過去多くの人がドラゴン退治にいって命を落としているんだよな」
ただ何カ月か前にドラゴンが討伐されたってことで、一時素材の取引がされたという情報が冒険者界隈で噂になったと、サイフォンは語った。
「ドラゴンか……」
どんな戦いかだったかは、コトリたちから聞いている。
途中まで騎士団が同行していたみたいだけど、耐えられないと思って結局六人で戦って倒したって話だ。
コトリが言うには一番大変だったのは道中だという話で、砂漠と溶岩フィールドは辛かったと言っていた。
ただ砂漠の階はお金稼ぎになるらしく、そこにはサボテンに似たサボンという植物があるらしく、夜になると咲く花は錬金術の素材として高く取引されているらしい。
「いつかプレケスのダンジョンにもいくんだよね?」
「そうだな。本当はマジョリカの攻略が終わったら考えていたんだけどな」
「ならその時は僕も手伝うよ。そろそろ魔法をぶっ放したいしね」
物騒なことを言うシズネを見た。
その顔を見ると、何処かでガス抜きしないと駄目だったりしないとかもと思った。
昼前に到着したので俺たちはプレケスを見て回り、サイフォンたちはユーノの知り合いに会いに行くと言っていた。
「明日出発じゃなくて、一日滞在した方がいいです?」
「気にしなくていいわよ」
とのことなので、限られた時間でプレケスの町中を回ることにした。
町中を歩いていると、同じ格好をした若者の姿をよく見た。
屋台で料理を買いながら聞いたら、フォルトゥナ魔導学院の学生だということだった。
俺たちがマギアスから来たことを告げると、ここの学生はマギアス魔法学園の生徒と違ってダンジョンに行く人は少ないと教えてくれた。
何でそんなことを知っているのかと聞けば、マジョリカから来たことがあった冒険者に話を聞いたことがあるそうだ。
ついでにマジョリカのことを聞かれたから、ダンジョンが攻略されたことなど色々と話した。
「俺もマジョリカで商売するかな……」
と屋台の店主は本気で悩んでいる様子だった。
マジョリカには知り合いも多いし、栄えてくれるのは嬉しいけど、いざ俺たちがここのダンジョンに挑戦する時に寂れていたらちょっと困るな。
転移で他の町から食料や消耗品を調達すればいい話だけど、屋台とかはその町でしか食べられない味や料理ってのがあるからなさ。
「主、それは大変。屋台制覇しないと」
ヒカリはそれを聞いて本気で言ってきたからな。
その後雑貨屋や装備品を扱う店を見て回ったが、品物はそれなりに備わっていたけど冒険者がいないからあまり売れないと言っていた。
俺はいくつか魔石や鉱石、木材などの素材を購入することにした。
うん、安かったからね。
これは錬金術や創造で使うことがあるかもしれないから、あって困る物じゃないからね。
「けどプレケスの町ってこうなってたんだ……」
主だったところを歩き回って宿に戻ってきた時、シズネがそんな感想を述べた。
プレケスにいた時は基本ダンジョンと宿の往復で、ダンジョンに行くにも町中は馬車移動だったからゆっくり町を回ることはなかったそうだ。
安全のためと言われていたが、今考えると自由に行動させないためだったんだろうな、と呟いていた。
王国の悪行のことを思えば、きっと余計な情報とこの世界の知識を付けさせないようにしたんだろうな。
俺がそう言うと、
「一発この手で殴ってやりたかったな」
と酷くシズネは怒っていた。
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