ラス獣王国編

第508話 馬車旅

「おう、サイフォン。また寄ることがあったら、その時は飲もうな!」


 サイフォンに声を掛けているのは守護の剣のギャバンだ。

 気楽に声を掛けているけど、サイフォンの背後にいるユーノの目は笑っていないからな?

 ダンジョン攻略のお祭り騒ぎでも二人は飲み比べていたということを、俺はあとでジンから教えてもらっていた。


「ソラ君。またこの町へは戻って来るのかい?」

「こう見えても行商人だからな……あと、他のダンジョンにも行ってみたいと思ってるから、当分戻らないと思う」

「獣王国に行くのはダンジョンのためなのかい?」

「今回は他の国で会った獣人に招待されたから、かな。何でも武闘大会が開催されるから見にきたらどうかと誘われたんだ」


 アッシュの疑問に曖昧に答える。

 さすがに獣王から直接連絡をもらったとは言えないからな。

 最後にお世話になった人たちと挨拶を交わし、俺たちはマジョリカの町を出発した。

 俺たちが進むルートはここから西に向かい、アルタルの町を経由してプレケスまで進み。そこから北上して獣王国に入る予定だ。

 エーファ魔導国家の首都であるマヒアにも行きたいと思うが、今回は遠回りになるから寄ることが出来ない。

 今度時間がある時にまた訪れればいい。

 一応家はそのままにしてあるから転移しようと思えばすぐ戻って来ることは出来る。

 これはいずれプレケスのダンジョンを攻略しに行く時にも使う予定だ。


 とりあえず馬車は、領主のウィルとギルドマスターが手配してくれた。

 ダンジョン攻略の立役者というのもあるが、権力者との繋がりがあるから、手出しをしたらどうなるか分かっているな? というのを内外に示すためのようだ。

 それにこれは俺たちだけでなく、ウィルにもメリットがある。

 凄腕冒険者と懇意にしていますよ、と知らしめることが出来るからだ。


「けど少し心配ね」

「何がだ?」

「ほら、エルザとアルトは前もいい馬車に乗ったじゃない。それに慣れちゃうと乗合馬車に乗った時に大変な思いをすると思うのよね」


 ルリカが言うには、エルド共和国で乗った馬車も、今乗っている馬車も性能がかなりいいから、揺れも少なくて快適みたいだ。

 確かに昔乗った乗合馬車は乗心地が悪かったというか、椅子のないものもあったからな。

 馬車は人だけでなく荷物を運ぶ用途でも使われるためだ。

 荷物を運ぶのに椅子は邪魔だからね。

 その点この馬車はクッションの効いた椅子に、広々とした空間で余裕を持って座れている。

 ちなみにいつのもメンバーにエルザたち三人に、さらにはカイナを入れるとゴブリンの嘆きの倍の人数になるため、交代で向こうの馬車にも乗ることになっている。

 現在はヒカリとミアがゴブリンの嘆きの馬車に乗っている。

 カイナは窓から外の風景を眺めたまま無言だ。

 カイナが俺たちと過ごす様になってまだ数日しか経っていない。

 サイフォンたちには竜王国での知り合いで、今回の旅に同行することになったと説明してある。

 ゴーレムと説明してもいいかと思ったが、さすがに言葉を話すゴーレムとなると騒ぎになるということで止めた方がいいということになった。

 一応食事も可能で、摂取した料理は体内で魔力に変換されるようになっている。

 これはカロトスとエリアナによって、より人間らしいゴーレムを追求した結果だ。

 ……さすが神様? だと思うことにしたが、実はこれ、料理の味を知りたいと思った二人がわざわざそのような仕様にしたみたいだ。

 この原因の一つは、エリアナの前で料理を作って食べた俺たちにもあるようだけど。


「今日はこの辺りで野営にするか」


 日が暮れたこともあって、俺たちは街道から少し離れて野営の準備をすることにした。

 ミアとエルザ、アルトとシズネが料理の支度をし、御者は馬の世話をしている。

 残った俺たちは馬車を利用して寝床を作る。馬車は大きいけど、さすがに全員が横になって眠れるほどではない。

 そして料理が完成したら皆で輪になって食事となる。御者の人も一緒だ。

 食事を終えたら見張りの順番を決めて、早速休むことになったが、エルザとアルトに馬車の中で休むように言ったら、外がいいと言われてしまった。

 別に遠慮しているとかそういうのではなくて、やはり外で寝るのが楽しいみたいだ。

 エルド共和国の時もそんな感じだったんだよな。

 普段家の中で寝ているから、外で寝るのが新鮮に感じているのかもしれないな。

 見張りはエルザとアルト、御者の二人を除く人たちですることになった。

 MAPを見る限り近くには魔物の反応がなければ、人の反応も少ない。

 基本野営をする時は知り合いでもない限り、ある程度距離を取るのが普通みたいだ。

 場所によっては人が寄り添う場合もあるが、そういうのは主に徒歩移動の人たちや、その街道近くで魔物の目撃情報がある時だ。

 俺たちは静かな夜を過ごし、翌日にはアルタルに到着して町に一日過ごすと、今度はプレケス目指して馬車を走らせた。

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